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製薬業界の「酷暑でもスーツ」を変える──外勤従業員の健康を守るノバルティス ファーマの取り組み

近年、日本では最高気温40度以上を記録する地点が過去最多となるなど、酷暑の常態化が深刻な社会問題となっている。

2025年6月には改正労働安全衛生規則が施行され、事業者に対する熱中症対策が義務化された

企業の従業員に対する安全配慮が厳格に問われる中、旧来のビジネス習慣が根強く残る製薬業界では、外勤従業員の健康リスクとどう向き合うべきかという新たな課題が浮上している。

この課題に対し、医療現場との接点を持つグローバル製薬企業のノバルティス ファーマは新たな一手を投じている。

ノバルティスファーマが発表した「軽装勤務宣言」は、単なる一企業の社内ルールの改定にとどまらず、製薬業界全体の商習慣に一石を投じる取り組みとして注目されている。

今回は、「軽装勤務宣言」の実現に向けて、現場の声を経営陣へつなぐ役割を担った人事・労務担当の佐藤珠美氏に、酷暑時代に求められる就業環境のあり方や、組織づくりのヒントについて話を聞いた。

旧来の商習慣に潜むリスク データが示す「酷暑」の切実な実態

製薬業界には、医療機関への訪問時におけるビジネススーツ着用という、長年続いてきた独自の商習慣が存在する。しかし、年々暑さを増す日本の夏において、この習慣が外勤従業員の健康リスクを高める要因の1つとなっていた。

佐藤氏は、2026年5月、ノバルティスファーマの外勤従業員982名を対象に実施した社内アンケートの結果を初めて見た際の衝撃を次のように語った。

調査では、約2人に1人の従業員が暑さによる体調不良を経験し、4%が医療機関を受診していました。想像以上に従業員の体調に直結する切実な問題であり、企業として従業員を守るためにすぐに行動を起こすべき課題だと強く受け止めました」

さらにアンケートでは、約半数にあたる48%の外勤従業員が軽装での訪問活動に抵抗や難しさを感じていることも判明した。具体的には、「教授や院長への訪問」「学術学会」などで、軽装に抵抗を感じる従業員が多いという。

ここで佐藤氏が指摘したのは、業界に根付く目に見えないハードルだ。

「実際には、医療機関からビジネススーツの着用を求められているわけではありません。医療機関や学会でも軽装で働くケースが増えています。障壁となっているのは、『長年続いてきた慣習を変える勇気を持てるか』という点です。この意識を変えていくことが重要だと考えています」

企業には健全な労働環境を提供し、従業員の健康と安全を守る義務がある。障壁となっていたのは、長年の商習慣から生まれた心理的・文化的なバイアスだった。この目に見えないハードルを取り払うことこそが、従業員の健康を守るための根本的な解決につながる。

企業の枠を超えて社会へ 業界の未来を模索する「軽装勤務宣言」

今回の「軽装勤務宣言」は、佐藤氏らプロジェクトチームが外勤現場の「涼しく安全に働きたい」という声を聞き、実態を把握することから始まった。

「ルール作成の際も、現場の声に徹底的に耳を傾け、どのような服装であれば安全性と対外的な配慮を両立できるかを、プロジェクトメンバーとともに検証しました。

例えば、ポロシャツを含む軽装を認めるガイドラインは、従業員の声をもとに作成されたものです。現場の声に耳を傾け、彼らの声を経営陣に伝えることが私の役割でした」

さらに、今回の取り組みを単なる「社内ルール改定」にとどめず、社外へ向けた「軽装勤務宣言」のプレスリリースとして発信した背景には、現場との対話を通じて得られた深い気づきがあったという。

「当初は、外勤者が訪問先に渡す案内文を作成し、コミュニケーションを取ることから始まりました。しかし、一人ひとりの努力だけでは変えられない『業界の商習慣』というハードルを痛感したのです。

今回のルール改定は、業界内で認知され、浸透してはじめて価値が生まれます。外勤従業員の健康を守るために、当社が明確な宣言を出すことで、当社の従業員だけでなく取引先の皆様にも安心して軽装で来社いただけると考えました」

背景にあったのは、「外勤現場の仲間の健康を守りたい」というチーム共通の強い願いだ。

この一歩は、SNSでも「自社でも導入してほしい」といった声が相次ぎ、同様の課題を抱える企業が少なくないことを改めて印象づけた。ノバルティスファーマは、今回の取り組みが他企業でも導入しやすい環境づくりにつながり、従業員の健康を守る取り組みが製薬業界全体へ広がっていくことを期待しているという。

ノバルティスファーマが提示する、これからの組織と社会のあり方

「私たちが目指すのは、従業員の誰もが安全かつ安心して、高いパフォーマンスを発揮できる組織にすることです。

そして、心理的安全性や多様性を尊重する文化を社内で経験した従業員が、家庭や地域社会、PTA活動などでその考え方を実践していく。そうした一人ひとりの行動の積み重ねが、より良い社会につながっていくと考えています」

直近でもキャリアを継続するための育児・介護の両立支援など、従業員が守られ、安心して挑戦できる土台づくりを進めているという。

ノバルティスファーマが目指すのは、単に「社内でのみ働きやすくすること」ではない。

その先にあるのは、従業員一人ひとりの成長を通じて、社会へ価値を還元していくことだ。従業員の健康と安全を軸にした組織づくりのために、長年の商習慣を見直すというノバルティスファーマの挑戦は、これからの企業のあり方を考える上で、1つの大きなヒントとなるだろう。

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