「WorkTok」が映す新時代の働き方──“仕事を見せる”がキャリアになる理由
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TikTokでは近年、「誰かの仕事の1日」を切り取った動画が数多く発信され、人気を集めている。朝の支度、通勤、オフィスでの作業、同僚とのランチ、そして退勤。特別な出来事が起きるわけでもなく、淡々とした日常が数十秒にまとめられている。それにもかかわらず、こうした動画の中には数十万から数百万回再生されるものがある。
こうした動画は「WorkTok(ワークトック)」と呼ばれる。仕事(Work)とTikTokを掛け合わせた言葉で、働く日常やキャリアに関する体験を短尺動画として発信する文化を指す。
明確な起源があるわけではないが、2020年前後のコロナ禍でリモートワークが広がり、「働く姿」を共有する動画が増えたことがWorkTok拡大の契機とされる。
ハッシュタグ「#worktok」を添えた動画はTikTok上で多数再生されており、仕事という本来は閉じた活動が、外部に向けて消費される対象へと変わりつつある。
特徴的なのは、こうした動画が必ずしも有名企業で働く人によるものではない点である。大手企業だけでなく、知名度の高くない企業やバックオフィス、営業、カスタマーサポートなどで働く人の投稿も高い再生数を記録している。
なぜ人は、他人の働く様子を見たいと思うのか。その背景をひも解くことが、WorkTokの広がりを理解する手がかりになる。
なぜ人は他人の仕事を見たいのか──可視化・共感・比較の欲求
他人の仕事を見る動機は、大きく3つに分類できる。
第一に、可視化の欲求である。仕事は外からは見えない。同じ職種でも実際の業務は大きく異なるため、他者の働き方を知ること自体が情報価値になる。
第二に、共感である。TikTok上のアカウント「Corporate Natalie」は、会議中の沈黙や上司との距離感といった「会社あるある」をコメディとして発信し、一部の動画は数百万再生を記録している。ここで消費されているのは知識ではなく、「自分と同じ状況にいる人がいる」という安心感といえる。
第三に、比較である。「Salary Transparent Street」は、街頭で通行人の給与を聞く動画で人気を集めている。
アメリカのオンラインメディアTechCrunchによれば、このプロジェクトはスポンサーシップや広告、講演などを通じて年間100万ドル規模のビジネスに成長している。ここでは、他者との位置関係を知ること自体が価値になっている。
なぜ発信するのか──仕事を「編集する」という行為
では、なぜ人は自分の働く様子を発信するのだろうか。
背景には、キャリアの不確実性がある。転職が一般化している状況では、「どの会社にいるか」ではなく、「自分は何をしている人なのか」を説明する必要がある。WorkTokはそのための手段となっている。
ここで行われているのは単なる仕事の記録ではない。仕事中のどの瞬間を切り取り、何を強調し、どのような意味づけをするかを選ぶことで、価値を再構成する行為なのだ。
例えば、アカウント「Erin McGoff」は、自身の仕事上の経験を30秒の動画に圧縮し、視聴者が再利用可能な知識として発信している。これは仕事を「編集可能な素材」として扱っている例である。
さらに重要なのは、こうした動画が発信者自身のキャリアに影響を与え始めている点である。SNS上で可視化された発信者の経験や視点は、履歴書では伝わらない情報として機能する。発信を通じて、自分の専門性や価値観を外部に提示することができるのだ。
つまり、WorkTokにおける発信は単なる自己表現ではない。それは、自分の職業を他者に理解可能な形に変換し、市場に提示する行為である。
企業にとってのインパクトと活かし方
WorkTokの影響は、採用活動にとどまらない。社員が働く様子や日常を発信することで、これまで社内に閉じていた企業文化や価値観、働き方が外部にも伝わるようになっている。その結果、企業ブランディングの透明性が高まる一方で、発信内容と実態に乖離があれば、そのギャップが露呈するリスクも高まる。
次に、マーケティングへの波及である。社員が日常的に働く様子を発信するコンテンツは、広告よりも自然な形で企業認知を広げる。特にBtoB領域では、プロダクトではなく「人」が企業との最初の接点になるケースが増えており、社員の発信が見込み顧客との接点になることも少なくない。
また、社員による情報発信が当たり前になることで、企業は働き方や制度、オフィス環境そのものを見直す必要が生じる。単に業務効率を追求するだけでなく、社員や求職者など社外の人から見ても魅力的な職場であるかどうかが、企業づくりの重要な要素になりつつある。
つまりWorkTokによって、企業は情報を発信する主体から、語られる対象へと役割を変えつつあるのだ。
個人にとっての機会──可視化されるキャリア
WorkTokは個人にとって、新しいキャリアのレイヤーを生み出している。
従来、キャリアは社内評価と転職市場によって決まっていた。しかし現在は、それに加えて「外部からどう見えるか」が影響を持つようになっている。SNS上での発信は、そのままポートフォリオとして機能する。
WorkTokで評価されるのは、華やかな成果だけではない。日々どのようなツールを使い、どのように意思決定し、どのような課題に直面したのかといった具体的な経験が、視聴者にとって価値ある情報となる。
こうした発信は、同じ職種を目指す人や転職を検討している人にとって、仕事の実態を知るための重要な参考情報となる。
また、発信は機会そのものを生む。発信者のフォロワーの増加に伴い、転職オファーや登壇依頼、コラボレーションの機会が生まれるケースも増えている。前述のSalary Transparent Streetがメディア事業として成立しているように、発信が収益化につながる可能性もある。
つまり、WorkTokは単なる情報発信ではない。自分のキャリアを外部に接続するインフラになりつつあるのだ。
WorkTokの次に来るもの──「働く過程」のリアルタイム化
WorkTokが示しているのは、仕事の「過程」が可視化され始めたという変化である。この流れが進むと、次に起こるのはリアルタイム化だろう。
すでに一部のアカウントは、作業風景のライブ配信や、AIによって業務プロセスを記録・共有する動画を発信している。完成された成果だけでなく、そこに至るまでの試行錯誤やプロセスそのものにも価値が見いだされるようになる。
この変化は、働く人を評価する基準にも影響を与える可能性がある。これまでは成果が重視される傾向にあったが、今後はどのように考え、どのように仕事を進めたのかというプロセスも、評価の対象となる可能性がある。
WorkTokが示す未来
WorkTokは一過性のトレンドではない。それは、仕事が「閉じた活動」から「共有される体験」へと変化している兆候である。
重要なのは、何をしているかだけでなく、その仕事をどのように発信し、共有するかが、これまで以上に重視されるようになっている点である。WorkTokとは、働き方の変化そのものを映し出す鏡なのだ。
文:岡 徳之(Livit)