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「キャリアか、妊娠か」はもう古い——妊娠・出産で分断されないキャリア設計とは

「キャリアか、妊娠か」。

この問いは、本来存在するべきではないはずだ。しかし現実には、多くの女性がこの選択を迫られてきた。

プロサーフィンの世界で導入された「マタニティ・ワイルドカード」は、この前提に対して制度側が初めて明確に応えた事例の1つだ。妊娠・出産によってランキングを失った選手が、出産後もトップレベルの大会に復帰できる仕組みである。

これは単なる支援策ではない。「キャリアは中断されるもの」という前提そのものを問い直す動きだ。本記事では、この変化を起点に、「妊娠とキャリア」の関係を個人の問題ではなく、構造として捉え直す。

なぜ「キャリアか、妊娠か」という問いは残り続けるのか

「キャリアか、妊娠か」という問いが残り続ける理由はシンプルだ。それは、キャリアが“連続するもの”という前提のもと設計されているからである。多くの職業や競技において、キャリアは継続的な積み上げとして評価される。一定期間離脱すれば、その間の評価や機会は失われる。

そのなかで、妊娠や出産は“例外的な中断”として扱われてきた。結果として女性は、キャリアを維持するためにライフイベントを調整するか、あるいはキャリアそのものを中断するかという選択を迫られる。

問題は、「キャリアと妊娠・出産を両立できないこと」ではない。両立を前提として制度や評価が設計されていないことにあるのだ。

なぜ妊娠は“キャリア中断”とされてきたのか

この構造の背景には、これまで主流とされてきたキャリアモデルがある。多くの制度や評価は、「長期間にわたり連続して働くこと」を前提に設計されてきた。昇進や報酬は、その継続性の上に積み上がる仕組みになっている。

しかしこのモデルは、従来の一般的な働き方を前提に標準化されてきた側面があり、結果として出産などのライフイベントとの両立を十分に想定していないかたちになっている。

そのため、一定期間の離脱は例外的なものとして扱われやすく、評価や機会の面で不利に働くことがある。制度が存在しない場合、妊娠は個人の事情として処理される。

そして、制度が整備された後も、評価や機会の設計が変わらなければ、状況は大きくは変わらない。つまり問題は、制度の有無にとどまらない。キャリアがどのような前提で設計されているかという点にある。

“個人の問題”から“制度の問題”へ

こうしたなかで、スポーツ界では変化が始まっている。プロサーフィンにおけるマタニティ・ワイルドカードは、妊娠・出産によってツアーを離れた選手に対し、出産後もトップレベルの大会に出場できる機会を保障する制度だ。従来であればランキングを失い、再び予選からやり直す必要があったキャリアを、制度によって接続する役割を持つ。

同様に、プロテニスではランキング保護制度が導入され、出産後も一定期間は過去の順位をもとに大会出場が可能だ。プロサッカーでも産休や復帰支援の制度化が進みつつある。

これらに共通するのは、「戻れる状態」を制度として担保することだ。重要なのは、これが単なる「救済」ではない点である。それは、キャリアの連続性を個人の努力ではなく、制度として支えるという発想への転換だ。

“戻れる”から“続けられる”へ

しかし、この変化はまだ十分ではない。企業に目を向けると、産休・育休制度そのものが整備されていることが多い。形式的には、出産や育児を経て職場に復帰することは可能だ。

それでも現実には、昇進の遅れや評価機会の減少、重要なプロジェクトからの離脱といったかたちでキャリアが分断されるケースが少なくない。

では、なぜこの問題は解消されないのか。理由の1つは、評価と時間の結びつきにある。

多くの企業では、成果だけでなく、「プロジェクトにどれだけ継続的に関わっているか」も評価に組み込まれている。それ自体が組織における信頼や機会の前提となるため、一定期間職場を離れることは、評価やキャリア機会の面で不利に働くことがある。

さらに、組織運営の観点からも、連続性は重視されやすい。プロジェクトの進行や意思決定において、途中で離脱する可能性がある人材は、重要な役割から外されることがある。

つまり現状の構造では、産休・育休制度はあるが、昇進や重要なプロジェクトへの参画機会は実質的に減少する設計になっている。ここで問われているのは、「復帰できるかどうか」ではない。キャリアがどのように評価されるかという前提そのものである。

キャリアは“直線”である必要はない

ここまで紹介した変化が示しているのは、キャリアの前提そのものが揺らいでいるという点だ。従来のキャリアは、「継続」と「積み上げ」を前提として設計されてきた。しかし実際には、多くの人がライフイベントによって非連続なキャリアを経験している。

問題は、その非連続性が“例外”として扱われてきたことにある。今求められているのは、非連続性を前提としたキャリア設計なのだ。

たとえば、一時的な離脱を前提とした評価設計、成果ベースでのキャリア評価、時間ではなく貢献で測る仕組みといった考え方が必要になる。これは単なる制度改革ではない。「キャリアとは何か」という定義の再設計である。

「選ばなくていい」キャリアは設計できるのか

このテーマは、妊娠・出産に限らず、誰もが経験し得るキャリアの非連続性に関わる問題である。働き方が多様化するなかで、誰もがライフイベントや環境変化と向き合う時代において、キャリアの非連続性はむしろ一般的なものになりつつある。

それにもかかわらず、評価や制度は依然として「中断しないこと」を前提に設計されている。その結果、個人が調整を強いられる構造が残り続けている。

問われているのは、制度の有無ではない。キャリアをどのように設計するかという視点そのものだ。「キャリアか、ライフイベントか」を選ばせるのではなく、選ばなくても成立する構造をどうつくるか。その設計は、まだ始まったばかりである。

文:中井 千尋(Livit

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