AMP

AMP CLOSE×

「どの企業で働くか」から「どこで成長するか」へ──グローバル人材の新常識

グローバルなキャリアを築く場所といえば、かつては明確な傾向があった。ニューヨーク、ロンドン、カリフォルニアのシリコンバレー。多くのグローバル人材が目指すキャリアの行き先は、先進国の大都市へと集中していた。

そこには理由がある。資本や企業、本社機能、教育機関などキャリア機会を生み出す要素の多くが、これらの都市に集積していた。キャリアを築くことは、そうした「機会の密度が高い場所」を目指す行為でもあった。

しかし今、その前提が静かに変わり始めている。グローバルなキャリアの行き先は、これまでのような限られた都市に集中するものではなくなりつつあるのだ。人材の移動先は依然として欧米が中心である一方で、近年では従来の“定番”ではない地域にも注目が集まり始めている。

カザフスタンは、その変化を象徴する事例の1つだ。近年、イノベーションの進展とともに、科学・教育・テクノロジー・アートといった複数の分野で成長が見られ、グローバル人材にとって新たなキャリアの機会が生まれつつある。本記事では、この事例を起点に、「キャリアの地理」がどのように再編されつつあるのかを読み解く。

キャリアの行き先はなぜ変わり始めているのか

この変化の背景にあるのは、単なる移住トレンドではない。「キャリアにおいて何を優先するか」という価値基準の変化だ。従来であれば、安定性や報酬、企業ブランドといった要素が重視されてきた。大企業に入り、明確なキャリアパスをたどることが、合理的な選択とされていた。

しかし現在は、状況が変化している。市場は成熟し、企業の成長速度も相対的に鈍化しているのだ。そのような状況のなかで、個人の差別化は「どの企業にいるか」だけでは生まれにくくなっている。

代わりに重要になっているのが、「どれだけ変化の大きい環境に身を置けるか」だ。成長市場では、産業構造そのものが変化の途中にある。そのため、個人が関与できる余地も大きく、意思決定のスピードも速い。

つまりビジネスパーソンは今、完成されたキャリアではなく、成長の途中にあるキャリアを選び始めている。

カザフスタンが象徴する「成長市場のキャリア」

こうした動きを象徴するのが、カザフスタンだ。同国では近年、スタートアップエコシステムが急速に拡大しており、その規模は2019年以降、約18倍に成長したとされる。

これは同期間の世界平均(2.6倍)を大きく上回る、突出した成長だ。カザフスタン政府主導のテックハブ「Astana Hub」を中心に、税制優遇やビザ制度の整備など、グローバル人材を受け入れる環境も整いつつある。

さらに、この成長を象徴する存在が、フィンテック企業のKaspi.kzだ。同社は、決済やEC、金融サービスを統合したプラットフォームを展開し、カザフスタン国内で高い普及率を誇り、中央アジア発のテック企業として存在感を高めている。

ただし、重要なのは、この成長がテクノロジー領域に限られていない点だ。教育、研究、文化、アートなどの分野へも発展し、バレエのような文化芸術領域でも存在感を高めている。

首都アスタナではグローバル人材が長期的なキャリアを築く動きも見られている。単なる「短期的な機会」ではなく、「拠点として定着する動き」が生まれているのが特徴だ。

つまりカザフスタンは、単一の産業ではなく、複数の領域でキャリアの選択肢が広がる“成長拠点”になりつつあるのだ。

他の地域でも進む「キャリアの分散化」

この動きは、カザフスタンに限ったものではない。たとえば東南アジアでは、インドネシアやベトナムを中心にデジタル経済が急速に拡大している。スタートアップの増加に加え、リモートワークの普及やデジタルノマドの流入によって、実際に人材が集まる都市も生まれ始めている。

特にベトナムのダナンのように、生活コストと環境のバランスを背景に、新たな拠点として注目されるケースも出てきている。

一方で東欧・北欧では、ポーランドやエストニアのように、高いIT人材の供給力とコスト競争力を武器に、企業やスタートアップの拠点としての役割を強めている。特にエストニアは、デジタル国家としての制度整備が進んでおり、起業環境の面でも国際的な評価を得ている。

これらの地域に共通するのは、「成長の途中にあり、構造そのものが変化している市場」であることだ。つまり今、グローバルなキャリアの選択肢は一部の都市に集中するものから、複数の成長拠点へと分散し始めている。

なぜ人材は「完成された市場」から離れるのか

では、なぜグローバル人材は成熟市場から離れ、新たな市場へと向かうのか。その理由は、「裁量」と「成長速度」にある。

成熟市場では、分業が進み、役割は細分化されている。その分、専門性は高めやすいが、個人の影響範囲は限定されやすい。一方で成長市場では、まだ役割が固定されておらず、個人が担う領域は広い。

たとえば、スタートアップでは一人が複数の役割を担い、戦略から実行までを横断的に経験することも珍しくない。これは負担でもあるが、その分短期間で多様な経験を積むことにつながる。

グローバル人材が成長市場に向かう背景には、こうした環境の違いだけでなく、個人の価値観の変化もある。特にZ世代においては、「安定したキャリア」よりも「成長実感」や「意味のある仕事」を重視する傾向が強いとされる。企業のブランドや所在地よりも、自分がどのような経験を積めるかが意思決定の軸になりつつある。

さらに、AIの台頭もこの流れを後押ししている。これまで価値とされてきたスキルの一部は、AIによって代替されつつある。その結果、「どのスキルを持っているか」だけではなく、「どの環境で、どれだけ早く学び続けられるか」が重要な競争力になっている。

グローバル人材は今、安定した役割にとどまることよりも、変化の中で自らの価値を更新し続けられる環境を選び始めているのだ。

その意味で、成長市場は単なる「リスクのある選択肢」ではない。それはむしろ、不確実な時代において合理的なキャリア戦略の1つになりつつある。

成長市場で働くという選択の現実

もっとも、この選択はリスクと表裏一体だ。カザフスタンのような市場では、制度やインフラが発展途上にある場合も多く、予測可能性は高くない。言語や文化の違いも、日常的な障壁となり得る。また、市場そのものが発展の途中にあるため、業界のルールや前提が短期間で変化することもある。

つまり、成長市場は高い不確実性を伴う。この環境に適応できるかどうかが、グローバルなキャリアの成否を分けることになる。

キャリアの「場所」はどう変わるのか

この変化が示しているのは、単なるキャリアを築く場所の多様化ではない。それは、「キャリアをどこで築くか」という前提そのものの変化である。

かつては、グローバル人材がキャリアを築くために目指す場所は限られていた。しかし今は、世界各地に複数の“成長拠点”が生まれつつある。キャリアを築く場所は、もはや固定されたものではない。それは、機会に応じて選び直されるものになりつつある。

そして重要なのは、どこが“正解”かではなく、どこに“機会があるか”を見極める視点そのものだ。そのとき重要なのは、「どこにいるか」ではなく、「どこで成長できるか」という視点になるだろう。

文:中井 千尋(Livit

Vote

    あなたの年齢を教えてください
    あなたの性別を教えてください
    あなたの年収を教えてください
    勤務先でのあなたの役職を教えてください
    勤務先の会社規模を教えてください
    1カ月あたりの自己投資額を教えてください
    起業経験や起業意向について教えてください
    資産運用について行っているものを教えてください(複数回答可)