企業が「公式アカウント」で勝つためには。共感を設計するOASIZのショート動画戦略
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テレビからショート動画へ。若年層の主戦場が大きく移り変わるなか、企業の情報発信も転換期を迎えている。一方的にメッセージを届けるだけでは、もはや選ばれない時代。求められているのは、企業の想いを生活者の文脈へと“翻訳”する視点だ。
TikTokを中心としたSNS運用で、大手企業のブランドアカウントを次々と成長させてきた株式会社OASIZ。これまで運用してきたアカウントの総再生回数約25億回、累計平均再生回数約75万回という実績の裏側には、アルゴリズムへの深い理解と、Z世代のインサイトを捉える独自の設計思想がある。
企業と生活者のあいだに立ち、「刺さる情報」へと変換する。OASIZが実装する、SNS時代のブランドコミュニケーションの新たな価値を探る。
- <企業概要>
- 株式会社OASIZ
- 2021年設立。TikTokやInstagramなどのSNS・縦型動画を起点としたブランドマーケティング支援を展開する。縦型動画の企画・制作から、SNSアカウント運用、広告運用、インフルエンサーマーケティングまでを一気通貫で手掛ける。 近年は、ショートドラマやSNS発のブランドIPの開発にも注力しており、企業と生活者の間にある“文脈”を設計するコミュニケーション戦略を推進している。2026年にはマイナビショードラアワードで大賞を受賞。
- 企業公式サイト: https://oasiz.org/
なぜ企業の発信は“届かない”のか?
「クリエイターの社会的価値を上げる」というミッションを掲げ、2021年に設立されたOASIZ。同社は、縦型動画に特化したクリエイティブ制作や、SNSを起点とした大手企業のブランドマーケティング支援で目覚ましい成果を上げている。
その事業の出発点は、代表取締役の江藤 優氏がByteDanceでのインターンを通じて抱いた、ある違和感だった。一人で企画・出演・撮影・編集から投稿、さらにはブランディングまでをこなし、毎日コンテンツを生み出し続けるクリエイターたち。江藤氏の目には「テレビ局の機能をたった一人で担っている存在」として映り、強い尊敬の念を抱いていたと話す。
「テレビ局では分業制で行われている工程を、クリエイターは全部一人で行い、しかも毎日続けている。それを同世代の人がしているのを見て、ものすごく刺激をもらいました。この人たちがこれから日本を変える可能性があるなと、直感的に感じていましたね」

しかし、ビジネスの現場で目にした現実は真逆だった。当時、広告代理店やブランド側はクリエイターの価値を見出せておらず、特にショート動画業界では構造的な歪みが目立っていた。PR案件においてクリエイターに求められる労働の質と量に対して、その価値が正当に評価されているとは言い難い構造が業界全体に残っていたのだ。「クリエイターは自力で発信を続けながら影響力を築いてきた存在なのに、PRをする際の手段としか見られていない印象でした」と江藤氏。
「クリエイターは常に最先端をキャッチアップしながら自分でコンテンツを作り続け、その結果自らの影響力をつけてきた人たちです。非常に高度なことをしているのに、企業はそれを理解しておらず、うまく取り込めていない。そんな状況に疑問を感じ、変えたいと思いました」
そんな問題意識が、OASIZ創業の原動力となった。
クリエイターの価値が正当に評価されない背景には、SNSを見ていない人が、見ている人に届けようとしているという構造的なねじれがある。江藤氏は、「多くの方々は、Z世代をはじめとする若年層をまるで“別の生態系”かのように考えているのでは」と問題を提起する。
これまでは、SNSを見ていない大人たちが“分からない”からこそ「とりあえずインフルエンサーを使えば若者にウケるだろう」と安易なアプローチに走っていた。しかし、企業側がSNSを“別世界”として分からないまま扱っているうちは、いくら発信しても視聴者には届かない。OASIZが向き合っているのは、まさにこのねじれそのものだ。江藤氏は、企業の発信が視聴者に届かない理由を大きく二つ指摘する。
一つは、「作り手の気持ちと視聴者の気持ちの乖離」だ。
「SNSで発信したいと考える一方で、実際にはあまりSNSを見ていないというケースもあり、視聴者の気持ちに寄り添えていないことが多いです。また、SNSを見ていたとしても、自分が動画を見る側から作る側になった途端、『これを伝えなきゃ』『この商品を訴求しなきゃ』と視聴者目線を忘れてしまう。作り手としては満足していても、もし自分がただの視聴者だったら最後まで見ていないであろう動画を作ってしまうんです」
これを解決するためには、まず“視聴者としての自分”を取り戻すプロセスが必要だという。
「まずはなによりも、視聴者として楽しむこと。そして、そこから自分と世の中の『面白い』の中央値を探して、徐々に感覚を合わせていくことが必要です。たとえば、いいなと思った動画のコメントを見て、なぜそのコメントがついているかを考えてみる。その後、いいなと思う別の動画を見たときに、『やっぱりこの動画にも同じようなコメントがついているな』と思えるようになる。ほかにも、いいと思った動画のカットの早さやテロップ、効果音、画角などを観察しながら、多くの視聴者面白いと感じる中央値に焦点を合わせていくんです。その感覚がないと、視聴者にハマるコンテンツは作れません」

そして二つ目の理由は、企業が広告にお金をかけた瞬間に“回収モード”に入ってしまうことだ。
「お金をかけると、すぐにその価値を回収したくなるんですよ。でも、視聴者はショート動画をなんとなくぼーっと見ているだけで、そもそも『見てもらえる』という前提は成り立ちません。そのうえで、見る気にもならない広告を見せても意味がないんです。
これは、友達作りが下手な人と同じだと思っています。初対面なのに『これいいよ、買いなよ』なんて言われても何にも響かないじゃないですか。でも、他愛もない話を重ねて信頼できると思った人から『これ良いよ』と切り出されると受け入れられる。SNSもそれと同じで、信頼関係の構築を飛ばしていきなり売ろうとするから失敗するんです。SNS上でも、対面のコミュニケーションと変わりません」

ショート動画を含む動画広告市場は年々拡大し、ますます影響力が大きくなっている。しかし、インターネットを介しているとはいえ決して無機物なものではなく、結局は人と人とのコミュニケーションによって成り立つ。一度のバズによって成果が出るものではなく、こつこつと信頼を重ね、磨き続けていく“長期戦”であることを改めて認識しなければならない。
視聴者理解×クリエイター視点が生む“刺さる設計”
では、OASIZは具体的にどのようにして視聴者に刺さる動画を設計しているのだろうか。江藤氏が企画の初期段階で最も重視するのは、「自分たちのコンセプトが、今のSNS市場で勝てるかどうかを見極めること」だ。
「まずは、視聴者に見てもらう状況を作らなければ意味がありません。見てもらえる状態を設計し基盤を整えてからようやく、そこにブランドの要素を組み合わせていくようなイメージです。その際、クライアントの色やターゲットは後回しです。僕はターゲットを限定的なものではなく“マス”で考えています。初めから特定の層に狙いにいくより、範囲が広いマスに当てることでハマる層が見えてくると思っています」
この設計思想がかたちになったのが、ネスレ日本「キットカット」の事例だ。キットカットは「受験生応援」という強力なブランド資産を長年持ちながらも、Z世代のインサイトが掴みきれておらず、「どうすれば若年層にメッセージが届き、共感と購買を生み出せるのか」という表現・接点設計の壁に直面していた。そこでOASIZが提案したのが、「きっと青春の1ページ」というTikTokアカウントをゼロから立ち上げるという施策だった。
「キットカットのブランドメッセージである『応援したい気持ち』をただ伝えるだけだと抽象度が高く、視聴者にそのまま受け止めてもらうのは難しいと思いました。だったら、ブランドと視聴者の間に、誰もが共感できる『IP』があればいいんじゃないかと考えたんです。かつてテレビCM発で企業の象徴となる人気キャラクター(IP)が生まれ、そのファンがブランド自体も好きになっていく事例がありました。同じようにSNSでもできないか、むしろSNSだからこそハマるんじゃないかと思い、ショート動画で挑戦してみることにしました」
こうして生まれた「きっと青春の1ページ」は、受験や部活に懸ける高校生のリアルな悩みや青春の瞬間を、ショートドラマ×トレンドコンテンツの掛け合わせで描いた。ターゲットを学生に限定せず、誰もが学生時代に経験した「青春」というマスの共感要素を突いたことで、アカウントは爆発的に成長。総再生回数は約2.5億回を記録し、Z世代の2.5人に1人が視聴するという驚異的なリーチを実現した。

さらにこの施策は、デジタル上だけで完結しなかった。SNS上で熱狂を生んだショートドラマの裏ストーリーを、TVCMとして逆輸入するかたちで放映したのだ。SNS発のブランドIPがTVCMへと拡張されるという、国内でも類を見ないメディアミックスの成功事例となった。
こうして「きっと青春の1ページ」の事例は、単なるプロモーションの枠を超え、企業にSNS発のブランドIPとしての資産をもたらしたのだ。この「SNS発のブランドIP」こそ、OASIZが提案する、企業のSNS運用戦略の新たなかたちだ。

従来のテレビCMやWebキャンペーンは、莫大なお金をかけても一定の期間で終わってしまう“掛け捨て型”の投資だった。しかし、SNS上に自社IPのアカウントを作れば、投資した分だけデータもフォロワーもブランドに蓄積される。そして、アカウントの力が強くなり、視聴者とのコミュニケーションも磨かれてIPが育ち、ビジネスと接続できる強力な武器になるのだ。
「一方的かつ“やって終わり”なコミュニケーションではなく、SNSという双方向のコミュニケーションで視聴者と深く結びつくことができるので、一過性で終わらない“ストック資産”を持つことができます。しかも、IPは自社のコミュニケーション手段なので、BtoCであれば商品やブランドのファン化に、BtoBなら採用活動や企業ブランディングにも活用できます」

このキットカットの事例が、OASIZにとって初めてのSNS発のブランドIPの試みだった。同社にとっても挑戦であったこの施策の背景には、SNSの従来のあり方に一石を投じるような気持ちもあったという。
「企業の公式アカウントというあり方にどこか限界を感じていました。というのも、企業の顔であるからこそ、少し尖ったことを発信すればそのギャップでバズるじゃないですか。それか、Web広告などで奇抜なことや泣けることを発信するなど、お決まりのバズる型が大体決まってきていたんですよね。それにつまらなさを感じていました」
そんな思いが、企業のSNS運用に新たなソリューションを生み出したのだ。
SNS発IPが、企業の未来をつくる
SNS時代の最前線を走るOASIZだが、江藤氏は今後の企業のSNS活用について、あるパラダイムシフトを予想している。それは「企業の公式アカウント時代の終焉」だ。
「企業の公式アカウントの時代が一旦落ちつくと思っています。近年、SNSは参入障壁が下がり、膨大な数のコンテンツで溢れかえっています。数年前は、企業の公式アカウントのコンテンツも少なかったので、ギャップだけで戦えたんですよ。でも、今は視聴者が“公式”に慣れてしまって、企業のホームページを見るような感覚で見てしまうんです。だから、“公式”を武器には戦えないですし、動画単体として面白くなければ絶対に負けてしまいます」
さらに、生成AIによってハイクオリティな動画がさらに生み出されるようになるだろう。しかし江藤氏は、それさえも溢れかえってクオリティがならされ、視聴者は飽きた先で「コンテキスト(文脈)」を求めるようになると予想している。
「ショート動画の普及で、文脈を深く考えなくても消費できるコンテンツが増えました。さらにAIの技術が進み、完璧で綺麗な動画が誰でも作れるようになりつつあります。しかし、クオリティが均一化されて動画としての個性がなくなっていくと、視聴者は『誰が作ったか』を見るようになると思うのです。誰が作ったか分からないAIの完璧な動画の中で、人が作った文脈やストーリーを見つけ、それが信頼として積み重なり、その人を好きになる。だから、いずれインフルエンサーマーケティングの時代が必ずもう一度来ると確信しています」
そんな未来を見据え、OASIZが今後目指すのは、単なる動画制作やアカウント運用代行の枠組みを越えた「事業成長のパートナー」だ。
「今僕たちが提供している価値は、クライアントが困っていることを解消し、かつ企業が最も求めている売上に寄与することです。そのために、クライアントとワンチームになり、デジタル戦略やSNSでのコミュニケーションを根本から再設計していきます。
そして、これから文脈の時代、ひいてはインフルエンサーの時代が来るのであれば、そこに合わせた施策も展開していきたいです。私たちの原点である『クリエイターの社会的価値を上げる』というミッションに向かってクリエイターとの協働を進めながら、これまで築き上げたものを活かしていきたいと考えています」

「公式」という肩書きや一方的な発信だけでは、もはや生活者の心は動かない。AIの進化によってコンテンツが飽和していくこれからの時代、最後に勝負を決めるのは、血の通ったコミュニケーションだ。クリエイターの視点をもって広告を企業の「資産」に変える。OASIZが生み出した新たなSNS戦略は、企業がただ情報を「届ける企業」から、愛され「選ばれるブランド」へ変化するための、確かな羅針盤となるはずだ。
取材・文:安藤 ショウカ
写真:小笠原 大介