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ソフトウェアが、クルマを再定義する——AIが変える自動運転開発の現在地

自動運転は長らく「実現間近」と言われながら、その普及には想定以上に時間を要してきた。しかし今、その前提が大きく変わりつつある。AI技術の登場によって、自動運転の開発は段階的な進化から、非連続に加速し始めた。

2026年4月27~29日に東京ビッグサイトで、アジア最大級のグローバルイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo 2026」が開催された。

そのなかで行われた「自動運転の主戦場は”ソフトウェア”へ ~乗用車を動かす頭脳の競争~」と題されたセッションには、日産自動車、いすゞ自動車、ソフトウェア開発を担うApplied Intuitionの各代表者が登壇。乗用車、商用車、そしてソフトウェア基盤という、異なる立場から活発な意見が交わされた。

そこで浮かび上がったのは単なる技術論ではない。自動運転は「クルマ」という製品を超え、「AIとデータで動く社会インフラ」としてどう設計できるかという問いへと拡張しつつあるという現実だった。

2027年実装へ 日産・いすゞ・Applied Intuitionが描く自動運転の現在地

セッション冒頭では、現状における各社の自動運転への取り組みが紹介された。

日産自動車でソフトウェア内製開発をリードする杉本 一馬氏は、2027年に市街地走行可能なAI搭載自動運転車両の市場投入を予定していることを発表。また、AIとコントローラーソフトウェアを活用したロボタクシーの展開を計画していることも明らかにし、自動運転開発が“ハードウェア中心”から“AI中心”へ移行しているとの見解を示した。

杉本氏「これまでハードウェア中心だった自動運転技術が、AIの出現により大きく変化しています。既に要素技術は揃っているため、現在は高品質で安全な製品開発の最終段階にあります」

日産自動車 部長 杉本 一馬氏

いすゞ自動車 常務執行役員の佐藤 浩至氏は、同社が2027年度に大型トラックと路線バスのレベル4の自動運転(無人運転)の社会実装を経営課題として計画していると明かした。背景にあるのは、日本の物流が直面する深刻な危機感だ。

佐藤氏「国内物流業界は、2030年には30%以上の荷物が運べなくなると予測されており、自動運転技術の開発はこの深刻な課題を解決するための一手となり得ます。自動運転は単なる技術ではなく、物流を維持するための必要不可欠な手段です」

いすゞ自動車 常務執行役員 SVP渉外担当役員 開発部門SVP 佐藤 浩至氏

一方、次世代車両の開発に特化したソフトウェアを開発・提供するApplied Intuition CEO のQasar Younis(カサール・ユニス)氏は、生成AIの進化によって自動運転技術が大きな転換点を迎えているとの認識を示した。

ユニス氏「従来の技術アプローチでは限界がありましたが、この5年間でChatGPTやGeminiなどにも用いられるトランスフォーマーアーキテクチャを活用したエンドツーエンド自動運転技術が登場しました。こうした技術の進化によって、事故を90%削減できる可能性も生まれてきています。」

Applied Intuition CEO Qasar Younis(カサール・ユニス)氏

自動運転の主戦場はソフトウェアへ AI時代に変わる開発プロセス

続くトピックでは、自動運転の開発が、高性能なセンサーなどのハードウェア中心から、車両・知能・実世界の運用をつなぐソフトウェアへと急速に移行しつつある現状について、各社の立場から意見が交わされた。

杉本氏は、乗用車メーカーの立場から「品質保証のプロセスそのもの」の変化について言及し、従来のロジックのように、自社で100%の動作保証をおこなってから顧客に製品を提供することは、予測不可能な事象が起こりうる自動運転では不可能であることを指摘した。そのうえで、変化への対応策として「誰もが安全に使用できる自動運転技術を提供するためには、デジタルプラットフォーム上でAIの品質保証と継続的な学習を行う、新しいプロセスが必要になります」と述べた。

同社が構築を進めている先進運転支援技術「プロパイロット」の次世代版となる「Nissan Scalable Open Software Platform」は、まさに新しい変革への対応策の一つだ。車両内のデータを収集し、クラウドとシームレスに連携させることで学習と次世代ソフトウェア開発に活用できるとし、従来の社内システムよりも車両ソフトウェアのテスト時間を約75%削減できるとしている。

一方、商用車を担ういすゞ自動車の立場として、佐藤氏は「物流システム全体の再設計」の必要性を強調した。「物流は血流だ」と表現し、どこか一カ所のみが自動化されても効果が限定的だとして、幹線輸送だけでなく、ミドルマイル、ラストマイルを含めた倉庫を結ぶ物流全体を、AIの活用はもちろん、データ連携や新たな業界との連携も含めて最適化することの重要性を指摘した。

また、同社は、個々の顧客に最適化されたソフトウェアを提供できる点にもSDV(ソフトウェア定義自動車)の価値を見出す。かつては多様な使われ方に対して一つの平均的な解で製品化するしかなかったが、走行データをクラウドで分析し、その車両に最適なソフトウェアをOTA(Over-the-Air)で後から提供することが可能になるからだ。

佐藤氏「当社は2000年代初頭から、車両に通信システムを搭載し、リアルタイムに情報を収集、分析する『テレマティクス』に注力しています。AIとLLM(大規模言語モデル)の活用により、最適な運行管理、予防保全の改善が可能となり、個々の顧客の使用方法に合わせて最適化されたソフトウェアを提供できます」

自動運転は「国家の問題」になる──日本が問われる社会受容性

技術・開発プロセスの議論が深まるなかで、もう一つの論点が浮上した。自動運転とAIは、もはや企業間の競争を超え、国家の競争力を左右する問題になっているという視点だ。

ユニス氏は、ハードウェアからソフトウェアへの転換において、物理的機械に知能を組み込むには多面的な技術課題があるとしたうえで、次のように予測した。

ユニス氏「自動運転の実現には、モデル、オペレーティングシステム、そして実際の運用を含む包括的なソフトウェアスタックが必要です。個別の企業がこれらすべてを独自に構築することは困難であるため、今後はプラットフォーム化と主導権争いが進むと思います」

続けて、AIは国家競争力の根幹と位置づけ、各国が独自のAI基盤を構築する必要性についても見解を述べた。

ユニス氏「AIを理解し、現実世界に展開できない国は、経済的・防衛的に大きな不利益を被ることになるため、各国独自のAI能力を構築することが求められます。技術を理解するエンジニア、データセンターのインフラ、物理的車両への展開、関連規則の制定と運用が必要だと考えます」

こと日本においては、技術面だけでなく、社会受容性と人材の両面がボトルネックとして浮かび上がる。ユニス氏は、アメリカ・日本・中国・中東・ヨーロッパの5つの主要地域のうち、中東が最もAI投資に積極的としたうえで、日本について次のように指摘した。

ユニス氏「日本はAIが企業に与える影響への理解はあるものの、シリコンバレーほどの緊迫感はありません。社会受容性についても、自動運転に対してより高い基準を求める傾向があると思います」

日本における社会受容性の課題については、佐藤氏も技術的な課題より現実的なボトルネックになり得るとの見解を示した。

佐藤氏「自動運転は、技術的には日本でも実現可能であり、国の投資も得られていますが、社会受容性が課題に挙げられます。いすゞ自動車では、北海道に、東京ドーム4個分の規模の自動運転専用テストコースを建設しました。2027年に本格稼働を予定しているこのテストコースを、多くの関係者に自動運転の試乗場所として提供することで、社会実装の促進に助力したいと思います」

今後は、アメリカ・シリコンバレーにおけるWaymoやTeslaなどの自動運転車の需要増加を背景に、技術の普及とともに安全性の認識も世界的に変わっていくとの見通しもユニス氏から示され、自動運転技術の社会実装に向けて、ますます各所で動きが加速していくことが予測された。

日本の自動運転を制するのは、人材と社会の土台

セッションの最後には、日本で自動運転開発を加速させていくうえでの提言がまとめられた。

杉本氏は「中短期的には強力な技術企業とのパートナーシップが不可欠であり、日本国内でAIやシステム構築ができるソフトウェアエンジニアの育成が鍵だと考えます」と、日本国内でのソフトウェア人材育成が競争力の鍵になるとの考えを示した。

ユニス氏は、各国政府関係者や企業のリーダーに対し、消費者がAIを活用するための土台づくりを促した。

ユニス氏「ワークフローにAIを核として取り入れ、製品にAIを組み込み、消費者の生活向上のためにAIを積極的に活用していくことが重要です」

本セッションを通じて見えてきたのは、自動運転の開発においては、「どんなクルマを作るか」から、「どんな社会インフラを構築できるか」というテーマへと移行しているという現在地だ。

乗用車は知能の品質保証を、商用車は物流システムの再設計を、それぞれ異なる課題として抱えながら、その根底にある問い——AIをどう社会に実装し、誰がその主導権を持つか——は共通している。安全性の向上や法整備、セキュリティ対策など、クリアするべき課題はまだ多いが、フィジカルAIを核とする自動運転技術の進化が、持続可能なモビリティ社会の実現に貢献してくれることを期待したい。

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