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Z世代はAIの“旅レビュー”を信じるのか 拡大する「AIインフルエンサー」と信用設計

旅行の計画を立てるとき、特に若い世代では検索エンジンより先にSNSを開き、投稿を起点に行き先やホテルの候補を絞り込むことが増えている。

旅先の魅力を端的に伝えるショート動画、保存しやすい「おすすめ◯選」、リアルな口コミのように見えるストーリー投稿。ガイドブックや公式サイトよりも先に、インフルエンサーや一般ユーザーの発信が“最初の入口”になる場面は確かに多い。

だが今、それらのおすすめは必ずしも「誰かが実際に体験した記録」から生まれているとは限らない。

近年、実在しない人物像を持つAIインフルエンサー(バーチャルインフルエンサー)が広告やSNSで存在感を増してきた。ファッションやビューティー領域での活用はすでに一般化しつつあるが、その波が旅行・体験コンテンツにも広がり始めている。

海外の記事では、インド初のAI旅行インフルエンサーとして登場した「Radhika Subramaniam」が話題となり、旅の投稿が“普通の旅行クリエイターと同じように”受け入れられたと報じられている

旅行の「おすすめ」は、本来“本人が行って語る”ことに価値があったジャンルだ。ところが、AIによって自然な語り口のレビューや旅のストーリーが一定の品質で量産できるようになった。

ここで問われるのはAIの性能そのものではなく、旅の情報を私たちがどう信用し、どう扱うのかという“信用設計”の問題である。

本稿では、海外で進むAIインフルエンサーの最新動向を起点に、消費者(特にZ世代)が何を信用するのか、ブランドや観光事業者がどのように活用・線引きすべきか、旅行メディア・クリエイターが守るべき価値は何かを整理し、日本の観光・ブランドマーケティングへの示唆を考察する。

いま起きていること:「AIインフルエンサーが旅を語り始めた」

AIインフルエンサーは単なるキャラクターではない。性格や価値観、語り口を持つ“人物像”として設計され、SNS上で投稿を続け、フォロワーと関係性を築く存在だ。そこにAIが加わったことで、文章やストーリーの制作が加速し、旅の投稿も短期間で大量に作れるようになった。

象徴的な事例が、前述のAI旅行インフルエンサーの「Radhika Subramaniam」である。彼女の投稿は当初こそ“AIであることの珍しさ”も注目の理由だったが、報道では、ユーザーは徐々にその存在を自然に受け止め、旅の語りとして受容し始めたという。

運営側は「人々は新しい形式にも開かれている。コンテンツが思慮深く、関連性があれば受け入れられる」と述べている。

ここで見落としてはいけないのは、旅行コンテンツがすでに“SNSに最適化された型”になっていることだ。旅の投稿は「見ていて気持ちいい」「真似しやすい」「保存しやすい」ほど拡散する。

おすすめ情報は体験記であると同時に、意思決定のテンプレートでもある。そのテンプレート化が進むほど、AIが入り込む余地は大きくなるのだ。

なぜ旅行領域と相性がいいのか(技術×SNSの構造)

AIインフルエンサーが旅行・体験領域で伸びやすい理由は、大きく分けて以下の3つである。

1.旅レビューは「定型フォーマット」になりやすい

旅の投稿の多くは、すでにフォーマット化されている。「おすすめスポット5選」「2泊3日のモデルコース」「予算別ホテル比較」「グルメランキング」「“映える”撮影スポットまとめ」などである。

これらの型は、私たちにとって読みやすく、保存しやすい。つまり旅行の情報は、「個人の体験」から「再利用可能なチェックリスト」へと変換されやすいジャンルでもある。テンプレートがあるということは、AIが最も力を発揮する領域でもあるのだ。

2.AIは“文章・写真・世界観”を量産できる

旅の投稿は写真だけでは成立しない。キャプション・ストーリー・世界観がセットになって初めて「おすすめ」として機能する。

AIは、旅先の雰囲気に合わせた語り口を作り、気分を盛り上げる言葉を添え、自然な導線(保存・予約・来店)を設計できる。これまで人間のクリエイターが時間をかけて組み立てていた“旅の物語”が、一定の品質で量産可能になったことの意味は大きい。

3.リーチと最適化が早い=広告運用とも相性が良い

ブランドにとって旅行インフルエンサー活用が難しいのは、変数が多いからだ。「現地撮影のコスト」「移動・宿泊の手配」「天候やトラブル」「投稿タイミング」「クリエイター個人の炎上リスク」など、その変数は多岐にわたる。

一方、AIインフルエンサーは、投稿のコントロールが容易だ。記事では、AI旅行インフルエンサーは「スポンサー旅行やロジスティクスの重い撮影を必要としない」とされ、効率と管理性を約束すると紹介されている。

旅行が“体験ビジネス”であるほど、コンテンツづくりには手間がかかる。だからこそ、AIインフルエンサーの効率性は魅力的に映る。

便利さの裏で起きる問題:信頼性・誇張・ステマの境界

しかし、この効率性と拡張性の高さは、同時に新たな論点も生み出している。AIインフルエンサーが旅行領域に広がる中で、浮かんでくるのが「情報は信頼できるのか」という問いだ。

「行っていないのに語る」ことが可能になる

旅行は、味・匂い・空気感などの身体性が価値になる。だがAIインフルエンサーは、もっともらしい言葉を出力できても、それが体験に裏打ちされているわけではない。

記事でも、人間の旅行クリエイターが現地料理の体験を例に出して、AIによる旅行体験の再現には限界があることを示している。

AIでも“それらしいレビュー”を作成することはできる。だからこそ、旅のコンテンツが事実より演出の競争になったとき、AIインフルエンサーによって誤情報や誇張が増幅されるリスクがある。

誤情報・過剰演出・現地のリアルとの乖離

旅の投稿はもともと誇張表現が起きやすい。そこにAIが加わると、誤情報はより高速に広がる。

存在しないメニューを紹介する、実際には混雑している場所を“穴場”と言う、季節や天候に合わない写真を出す、現地の文化・マナーを誤って説明する。

こうしたズレは、単なる誇張で済まされない。観光地にとってはクレームや混乱につながり、ブランドにとっては信用コストになる。

広告表記と透明性(AIが関与したコンテンツの開示はどこまで必要か)

旅行インフルエンサーの投稿は、意思決定に近い。ホテル・航空券・飲食店・体験予約――すべてが支出に直結する。

だからこそ広告表記は本来センシティブな領域だ。この領域にAIが参入すると、“誰が語ったのか”だけでなく“どう作られたのか”が問題になる。AIが生成した旅のレビューを、人間の体験談のように見せるのは、受け手の認知を誤らせかねない。結果的に、ステルスマーケティングと同質の不信を生む可能性がある。

Z世代は“何を信用する”のか

では、こうした変化を受けて、受け手である消費者は何を基準に情報を信頼するのか。Z世代はAIインフルエンサーを受け入れるのか。答えは一枚岩ではない。ただ、彼らは信用のルールを状況に応じて切り替える世代でもある。

口コミは変わらず重視 「誰が語ったか」より「納得できるか」へ

Z世代は口コミを重視する。しかしそれは権威よりも“自分に近い生活者の声”を信じたいからだ。ここで起きている変化は「この人が言うなら正しい」ではなく、「自分の状況に当てはめても納得できる」へのシフトである。

つまり旅のおすすめは、人格への信頼から情報としての妥当性へ移りつつある。AIが入り込める余地があるのは、この「内容として納得できるか」が重視される領域である。

“リアル”の定義が変わる可能性

かつてリアルとは「本人が現地に行ったこと」だった。しかしSNSでは、リアルはしばしば「その場にいる気分になれること」へ置き換わる。

テンポの良い編集や分かりやすいまとめ、刺さる言葉といった要素は、人間の体験と同じくらい“リアルな体感”を作る。AIインフルエンサーは、旅をしていなくても“旅の空気”を作成できる。リアルが事実よりも体験設計に寄っていく可能性はある。

「AIでも便利であれば許容する」と「体験の偽装は許されない」の分岐

一方でAIインフルエンサーへの拒否感も確実に存在する。「実際に訪れていないならレビューすべきではない」「体験を商品化するのはフェアではない」「人間の仕事を奪うのではないか」といった反発も見られる。

この反発は技術への不安というより、フェアネスの感覚に近い。便利さを受け入れつつも線引きを求める人が増えることが、今後の信用設計の争点になる。

ブランド・観光事業者が取るべきスタンス

AIインフルエンサー活用は、単なる新規施策の話ではない。信用をどう設計し、どう維持するかの話である。

AIインフルエンサーの前提は「透明性」

AIインフルエンサーの使用に最低限必要なのは透明性だ。「AI生成であることを分かる形で示す」「広告・タイアップ表記を徹底する」「現地情報は一次情報で検証する」など具体的な前提が求められる。

AIは「効率とコントロール」を提供するが、同時に“疑われやすさ”も背負う。だからこそ透明性は、リスク回避ではなくブランド価値の一部になる。

“AIを広告塔にする”より“旅の意思決定補助にする”方向性

AIインフルエンサーを広告塔として前面に出すと、反発を招きやすい。むしろ相性がいいのは、旅の意思決定補助として使う方向だ。具体的には、旅程の提案・予算別の比較・混雑回避のアドバイス・文化・マナーの注意喚起が考えられる。

これらは体験の“代替”ではなく“補助”であるため、受け手も納得しやすい。旅のコンテンツを「体験の代弁」から「計画の支援」へ寄せることが、現実的なAIの活用方法になる。

現地の声・人間の体験をどう残すか

AIインフルエンサーが増えるほど、人間による体験価値は逆に向上する。記事でも、AIが効率性をもたらす一方で、人間のクリエイターには「自発性」「感情」「文化的な深み」があるとされる。

観光地やブランドが本当に残したいのは、テンプレ化された旅情報ではなく、その土地の文脈だ。AIインフルエンサーを起用するのであれば、人間の体験を薄めるのではなく、編集・補完・翻訳などで支える方向に設計すべきだろう。

旅行の「おすすめ」は“体験”から“設計された信頼”へ

旅行のおすすめは、長らく“人間の体験の証明”だった。誰がどこに行き、何を食べ、どう感じたかという具体性が信用の源泉となっていた。

しかしAIインフルエンサーの登場で、体験は必ずしも必要条件ではなくなった。もっともらしく語れること、気持ちよく整理されていること、保存しやすいこと。そういった要素が意思決定に影響を与える。

だからこそ、これからの時代に重要になるのは“信用設計”である。「どこまでが演出で、どこからが事実なのか」「誰が作り、誰が責任を持つのか」「AIの使用をどう開示するのか」などの設計が甘いほど、旅行のおすすめは「便利だが信じられないもの」になる。

そしてここに、旅行メディアの役割がある。人間の体験をそのまま並べるだけでなく、検証し、一次情報につなぎ、文脈化する。AIによる量産が進むほど、「編集」と「確かめる力」が価値になる。

旅は本来、誰かの人生を少し変える体験だ。旅のおすすめを出力する存在がAIに置き換わっても、その体験の重さまで軽くしてはいけない。私たちが“旅の言葉”を信用できる社会をつくれるかどうかは、AIの性能ではなく、使い方の設計にかかっている。

文:中井 千尋(Livit

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