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「売った後」が競争力になる時代へ De-Commerceが再設計する消費体験とは

2025年を通じて、海外のリテールやブランドの現場では、これまで周縁的だった行為が主役へと押し上げられつつある。

それは「売らない」「修理する」「手放す手助けをする」といった、従来のコマースの延長線上にはなかった行為である。こうした動きを総称して、いま「De-Commerce(脱コマース)」という考え方が注目されている。

この概念を直感的に理解する手がかりとして、アウトドアブランドPatagonia(パタゴニア)の姿勢がある。同社は新品の購入を唯一のゴールとせず、修理や再利用を前提に製品と付き合う姿勢を長年にわたって打ち出してきた。

ここで重要なのは、環境配慮のメッセージ以上に、「買った後もブランドとの関係が続く」という感覚が、顧客体験として成立している点である。

こうした発想は、いまや一部の思想的なブランドに限られたものではない。家具や衣料、家電といった分野でも、購入後の行為まで含めて体験を設計し直す動きが広がっている。

商品を売って終わりではなく、使い続け、必要になれば修理し、役目を終えたら次につなぐ。その循環をブランド自身が引き受け始めているのだ。

重要なのは、この発想が反消費や節制を促す運動として広がっているわけではない点である。むしろ「買った後の時間」をどう設計するかという、極めて実務的な問いとして扱われている。

世界ではすでに、「売ること」だけを最適化してきた時代が終わりつつあるようにも見える。では、この潮流に対して日本は遅れているのだろうか。

日本はDe-Commerceの「準備ができている市場」である

海外ではDe-Commerceが新しい潮流として語られる中、日本はその後追いのように見えるかもしれない。しかし日本の消費者の行動に目を向けると、この見方は必ずしも当てはまらない。日本ではすでに、「手放す」ことが特別な行為ではなく、日常の選択肢として定着しているからだ。

フリマアプリ「メルカリ」の普及により、不要になったモノを次の持ち主に渡すという行為は、ごく自然なものになった。中古品の売買は、節約のための手段というよりも、合理的でスマートな選択として受け止められている。

また、日本には下取りや買取、ポイント還元といった「得をしながら手放す」文化が長年にわたって根付いてきた。

家電やスマートフォンの買い替えにおいて、使用後の価値が前提として組み込まれている点は、その象徴と言える。Appleの公式下取りプログラムやリファービッシュ製品が自然に受け入れられていることも、この延長線上にある。

こうして見ると、日本の消費者はすでにDe-Commerce的な行動様式を実践している。一方で、それらは下取り・回収・リユースといった形で分断され、明確な戦略や体験として統合されてきたわけではなかった。

海外では何が起きているのか De-Commerceが「購買体験」として統合されるまで

VMLの調査によると、海外では消費者の64%が「もっと多くのブランドが再販やセカンドハンドに参入してほしい」と答えるなど、De-Commerceは価値観ではなく、具体的な購買期待として顕在化し始めている。

2025年の海外動向を特徴づけているのは、De-Commerceが単発の施策ではなく、購買体験全体を再設計するための現実的なロードマップとして扱われ始めている点にある。

リセール・下取り・修理・回収といった要素は、もはや個別の取り組みではない。売る・使う・手放すという行為が、最初からひとつの流れとして設計されているのだ。

例えば、英国の大手小売Marks&SpencerがeBayと提携して展開する公式リセールでは、ユーザーは不要になった衣料をオンラインで申請し、回収に出すだけでよい。

再販可能な商品は修理・クリーニングを経て公式中古品として販売され、利用者には特典が還元される。重要なのは、中古販売そのものではなく、「手放した後の行き先をブランドが引き受けている」点である。

アウトドアブランドPatagoniaの「Worn Wear」も同様だ。修理・下取り・中古としての購入が、個別の選択肢ではなく、「この製品とどう付き合うか」というひとつの体験の中に組み込まれている。

スポーツ用品のDecathlonでは、修理・中古販売・レンタルが店舗体験として統合されている。壊れた際には修理し、不要になれば回収に出し、必要に応じてレンタルを利用する。そうした選択肢が、あらかじめ体験として組み込まれている。ユーザーは「買い替えるかどうか」を起点に考える必要がない。

家具分野ではIKEAがBuy Back & Resellを通じて、家具の所有を「循環するもの」として再定義してきた。また、Back Marketのようなリファービッシュ専門プラットフォームは、整備済み製品を「中古」ではなく、「合理的で安心な購買体験」として提示している。

注目すべきなのは、回収・修理・下取り・再販といった要素自体は、日本でも以前から存在していたという点だ。違いは、それらの要素がCSRや環境配慮、価格調整といった別々の文脈に分断されていたのか、それとも購買体験として統合されていたのかにある。海外では後者が当たり前になりつつあるのだ。

De-Commerceとは、新しい思想を導入することではない。モノを売る前提で分断されていた施策を、「買う前から、手放すところまで」を含む1つの行動として再編集することなのである。

De-Commerceが示しているのは「設計の問題」である

こうした海外の動きは、決して遠い話ではない。私たちはすでに、買い替え時に下取り額を確認し、整備済み製品を検討し、使わなくなったモノの行き先を考えている。De-Commerceとは、そうした行動を後付けの判断にせず、最初から迷わず選べる状態にする設計だと捉える。

De-Commerceは、消費者に我慢や意識改革を求める考え方ではない。海外事例が示しているのは、環境意識の高さではなく、体験設計の一貫性である。売る・使う・手放すという行為を、どこまで1つの流れとして設計できるかの差が、購買後の体験の質を分けている。

日本は、De-Commerceに必要な前提がすでに存在する市場だ。問われているのは、それらを新しい思想として導入することではなく、購買行動としてどう再編集するかなのである。

文:岡 徳之(Livit

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