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孤独の時代に、会社でも家でもない“人間関係インフラ”を 麻布台ヒルズ「ヒルズハウス」が目指す都市型サードプレイスの最新形

経済や産業の進化に不可欠なBtoB企業に焦点を当て、その強みや社会的価値を可視化することで、ビジネスを紐解く企画「Social Shifter〜進化を加速させる日本のBtoB」。今回取り上げるのは、森ビルだ。

リモートワークの普及で「どんな場所でも働ける」ようになった現代。一方、人と偶然に出会い、雑談し、議論から新しいものが生まれる“オフィスならではの偶発性”は、希少になった。

それは個人の感覚にとどまらない。近年、日本では孤独・孤立が社会課題として位置づけられ、国としても対策を進めるための法整備が進んでいる。内閣官房の公表によれば、「孤独・孤立対策推進法」は、2024年4月に施行され、民間調査でも、“つながり不足”の実態が浮かぶ。

また、Timeleft SASの調査では、社会人の約6割が「新しい友達が欲しい」と答える一方で、半数以上が「この1年で新しい友達ができていない」と回答した。

年齢を重ねるほど、新たなつながりを築くのが難しいと感じる人も8割を超えており、社会的な孤立リスクが静かに高まっていることがうかがえる。

森ビルはこの状況を踏まえ、「オフィスだけでなく、ヒルズという街を舞台に、街全体をワークプレイスとして使う働き方」を提案している。

その実装例の1つが、麻布台ヒルズ 森JPタワー33〜34階に位置する会員制エリア「Hills House(ヒルズハウス)」だ。

ヒルズハウスは、麻布台ヒルズで働く人たちを中心に開かれた場として、メンバー同士の交流と学びの機会を用意することで、働く人同士のコミュニケーションや出会いを促す。いわば、会社でも家でもない“第3の居場所として機能するのだ。

今回は、森ビル 新領域事業部ヒルズハウス運営室 課長の丸山 貴之氏への取材を通じ、“孤独の時代”に、都市はどんな居場所になれるのか、そのヒントを探る。

「街の企業におけるハブ」——“ここで完結”ではなく“ここから広がる”

ヒルズハウスをどういう施設として設計したのだろうか。丸山氏はコンセプトを、「街全体をワークプレイスにするための“場と仕掛け”」であり、「街の企業における“ハブ”」だと表現する。

ここで言う「ハブ」は、“ここに来れば何でも完結する中心”という意味ではない。むしろ対照的に、ヒルズハウスを起点に、街の機能へと働き方が広がっていくその接続点として「ハブ」が位置づけられている。

森ビルが提案するのは「オフィス」か「リモート」の二者択一ではない。オフィスの中だけで働くのでも、自宅の中だけで働くのでもなく、街の中に複数の拠点を持ちながら働くという選択肢だ。その状態を成立させるために、ヒルズハウスが“使い始めの入口”になるというのである。

利用者が、まずはヒルズハウスに立ち寄る。そこからレストランやクラブラウンジといった食の場へ、あるいは各種プログラムやイベントへと自然に足が向く。

それらは単なる飲食や催しではない。街の中に点在する機能や店舗サービスを、部分的に体験する“入り口”でもある。将来的にはデジタルの仕組みも組み込み、街全体を1つのワークプレイスとして扱える構想だ。

丸山氏の言う「場と仕掛け」とは、この“入口(場)”と“接続(仕掛け)”がセットとなった状態を指している。

ヒルズハウスの全体像——会員制の核と“街に開く機能”を束ね、回遊と滞在を生む

Park Lounge

ヒルズハウスは、いわゆる「会員制ラウンジ」だけの施設ではない。麻布台ヒルズ 森JPタワー33〜34階の約3,000平方メートルの2フロアに、働く・食べる・集まる・発信する機能を重ね合わせた“複合型のクラブハウス”として設計されている。

まず、有料会員制の「Members Lounge」を中心に、まわりには一般利用可能なレストラン「Dining 33」、会合やパーティーに対応する「Sky Room」を配置。

そして、日常の導線上で人が立ち止まりやすい、発信・発表の場「大階段」も、同じフロアの中に連続して存在しているのだ。
ここで重要なのは、「会員だけの閉じた場」にしない設計思想である。

会員制という核を持ちながら、食やイベントといった街に開いた機能も同居させる。仕事のために立ち寄った人がレストランへ流れ、イベントで訪れた人がラウンジに滞在し、偶然の会話が次の予定につながる。

ヒルズハウスが“ハブ”として機能する理由は、この回遊と滞在が自然に起きる動線を、施設の中に組み込んでいる点にあるのだ。

「働く」「整える」「混ざる」を切り替える——Members Loungeの3分割

まず、会員制の核となる「Members Lounge」は、サードプレイスとしての機能を最も濃く担う場所だ。「Members Lounge」は大きく3つのエリアに分かれている。

Work Lounge

1つ目は、ミーティングルームや集中ブース、ラウンジ席などを備え、オフィスの外でも“働ける状態”を成立させる「Work Lounge」だ。

Club Lounge

2つ目は、会員向けの食事提供を軸に、滞在と会話が生まれやすい空気をつくる「Club Lounge」。多様な食習慣への配慮も含め、日常的に使える“居心地”を積み上げる領域である。

Park Lounge

そして3つ目が普段はカフェとして開きつつ、机や椅子を収納してイベント会場に転換できる「Park Lounge」だ。ウェルネス系の定期プログラムや、学び×交流の企画がここに差し込まれるという。

ウェルネスプログラム/Park Lounge

この3つのエリア分けは、空間の機能分けであると同時に、体験の“順序分け”でもある。

仕事ができる環境が整っていることで、滞在しやすくなり、滞在時間が長くなることで会話が生まれやすくなる。そして、その会話が増えることで、自然とコミュニティが育ちやすくなる。ヒルズハウスは、偶発性の前提条件から逆算して組み上げられている。

偶発性は“運”ではない。名刺交換の前に、会話が始まる順序をつくる

ヒルズハウスが単なる交流ラウンジで終わらない理由は、「偶然の出会い」を運任せにしていないからである。

丸山氏が繰り返し語るのは、コミュニティを生むために必要なのは「熱量のある人を集めること」だけではなく、参加者が自然に混まざることができる「“手順”を用意すること」だという点だ。

象徴的なのが、名刺交換を起点にしない交流のつくり方である。社会人のコミュニティでは、交流プログラムが終わった瞬間に名刺交換が始まりがちだが、ヒルズハウスではその順序が逆転しているという。

「通常の社会人のコミュニティであれば、交流プログラムが終わった後にまず名刺交換が始まるのですが、ヒルズハウスでは名刺を出さずに会話をされて、最後に名刺交換したり、連絡先交換をすることが多いです」

誰とつながるかを最初に決めないからこそ、肩書きや利害に左右されづらい会話が生まれる。

先に共通体験があり、その場の会話が生まれることによって最後に連絡先を交換する。順序を入れ替えるだけで、初対面の場にある“緊張の壁”は目に見えて下がる。実際に、利用者へのアンケートでも、「名刺交換をしなくていいことで気が楽だった」という声があがっているという。

さらに興味深いことに、名刺交換をしないまま関係が進むケースが起きていると丸山氏は話す。

「名刺交換はせず、LINEなどの連絡先だけ交換していて、交流相手の所属会社を知らないままお話しされている方もいらっしゃるんです。すごく面白い現象だなと思いますね」

ここに、ヒルズハウスの狙いが凝縮されている。関係を最初から目的化せず、偶発性が起きる条件を「順序」として設計し、自然発生的な関係が育つ環境を用意する。それが、ヒルズハウスのコミュニティづくりの基本思想なのだ。

「仲良くなってください」と言わない。参加ハードルを下げ、“会う回数”で関係が育つ

コミュニティ施策は、ともすると「濃い交流」を目指しがちだ。しかし、忙しい働く人にとって、初対面の場に飛び込むのは負担になり得る。

そこで、ヒルズハウスが取り入れているのは交流の圧を高める設計ではなく、参加の圧を下げる設計である。丸山氏は、目指す方向性をこう表現している。

「あえて『仲良くなってください』と伝えるのではなく、参加のハードルを下げながら、交流のきっかけになりそうな機会を少しずつ増やしていくことで、自然発生的に仲良くなっていく流れを目指しています」

つまりヒルズハウスは、「仲良くなること」を目的に掲げるのではなく、参加しやすい機会を増やすことで、結果として関係が自然に育つ状態をつくろうとしている。

この思想設計の効果は、プログラム終了後の光景にも表れている。丸山氏は、終了後の参加者の様子についてこう話した。

「プログラム終了後、参加者に『帰っても大丈夫ですよ』とお伝えしているのですが、それでも8割以上の方がその場に残って盛り上がったり、『LINEを交換してまた集まりましょう』と話しているんです」

プログラムが終わっても、人が残る。この“余韻”が生まれたとき、場は単発のイベントを超え、関係が育つコミュニティへと姿を変える。ヒルズハウスが設計しているのは、まさにその転換点なのだ。

ビジネスに寄せすぎない。生活側のテーマが、会話の“安全地帯”になる

名刺交換の順序を変え、参加のハードルを下げるだけでは、会話は続かない。偶発性を“起こす”には、参加者同士が自然に言葉を交わせる共通体験が必要になる。特徴的なのは、その共通体験を「ビジネス直結」から少し外したところに置いている点だ。

丸山氏は、Microsoft ExcelやPowerPointの使い方のような業務スキルではなく、コーヒーや日本茶、アート、読書など、生活を豊かにするテーマを扱うと話す。

仕事のスキルや専門性を前面に出すテーマは、職種や経験の差が会話に影を落としやすい。一方で、生活や趣味に近いテーマは「詳しくなくても参加できる」ため、立場がフラットになりやすく、会話の入口をつくりやすいという。

さらに、ヒルズハウスは“聞いて終わり”にしない。グループで飲み比べ、感想を言い合うような参加型の形式を取る。正解が1つではない感想のやり取りは、初対面同士でも発言しやすい。そこで生まれるのは、名刺交換や肩書きの確認から始まるネットワーキングではなく、同じ体験を共有した人同士の会話だ。

そして重要なのは、その会話が最初から「仕事の話」にならない点だ。リモートワークが当たり前になった現在、人間関係はどうしても用件ベースになりやすく、関係が育つ余白は生まれにくい。

だからこそ、生活側の話題から始まる会話には意味がある。肩書きや利害をいったん脇に置いて「まず人としての相手を知る」時間ができると、仕事の相談や協業の話題になった場合も、会話が始まりやすくなるのだ。

交流が生まれやすい題材と形式を用意する。偶発性を起こすためのヒルズハウスの設計は、空間だけではなく、こうしたプログラムの細部にも埋め込まれている。

「法人×個人」を混ぜる——コミュニティの立ち上がりを構造で早める

ヒルズハウスが目指す偶発性は、同じ会社の人同士を近づけるものではない。企業の枠を越えて人が混ざる状態を、街の中で日常的に起こすことにある。そのために採っている設計の1つが、会員の構成を「法人だけ」に閉じないことだ。

丸山氏は、法人会員への開放のみではコミュニティが活性化しづらい可能性を指摘し、個人会員のほうがコミュニティへの熱量が高いケースが多いと語る。熱量のある個人会員が入ることで、法人会員にも良い影響が生まれるという。

ここで言う“ハブ”は、制度上の中心を指す言葉ではない。初参加者が場に溶け込む入口であり、会話の糸口を自然につくる存在だ。

初対面同士が集まっても会話は勝手には立ち上がらない。そこで、場に慣れた参加者が感想のやり取りを起こし、輪をつくり、次の滞在につなげていく。

つまり、ヒルズハウスが設計しているのは「仲良くなること」そのものではなく、「仲良くなっていく条件」なのだ。人に依存せず、構造で起こりやすくする。この発想が、これまでの“交流イベント”と決定的に違うと丸山氏は語る。

「誰でも」ではなく「働く人」に絞る——前提を揃えて、続く場にする

ただし、ヒルズハウスは個人会員に条件を設け、場の前提を揃えている。入会の条件は「働いていること」だ。

丸山氏が、強調するのは、誰かを排除するための条件ではないという点である。前提が揃っていなければ、場の温度も参加動機もばらつきやすい。だから、法人と個人を混ぜて熱量を取り込みながら、個人会員には「働く人」という共通項を設けているのだ。

場を“誰でも来られる場所”にしないことで、逆に“続く場所”にする。これこそが、ヒルズハウスが“働く人の生活圏に立ち上がるサードプレイス”として機能し続けるための条件設定なのである。

仕事があるから終業後の余白が生まれる。仕事があるから日中の集中と夕方以降の回復が分かれる。そのリズムの上に、プログラムも滞在も設計されているのだ。

“整う”が入口になる——健康ニーズが、つながりを動かす

取材を通して見えてきたのは、この設計が単なる交流のためだけに組まれているわけではないということだった。ヒルズハウスが用意しているのは、つながりだけではなく、働く日々のコンディションそのものを整える入口でもある。

丸山氏が「反応が大きい」と語ったのが、ウェルネスをテーマにしたプログラムだ。病院に行くほどではないが、参加者が日常的に気になっているテーマほど反応が大きいという。

睡眠をテーマにした回では、専門家へのQ&Aや個別相談が人気になり、測定キットを配布し、その結果を持ち寄って行うワークショップでは、参加枠がすぐ埋まったとしている。遺伝子検査などをテーマにしたプログラムでも同様の反応が見られたという。

ここで起きているのは、「ウェルネスのための場」づくりではなく「ウェルネスを入口にしたコミュニティ」の形成である。

ウェルネスというテーマは、自分の状態を言語化しやすく、相手の話にも耳を傾けやすい。正解のない実感や気づきの共有が、初対面同士の距離を縮める。

ヒルズハウスは交流をゴールに置くのではなく、交流が生まれやすい入口を揃えている。健康ニーズはその有効な入口になっているのだ。

麻布台ヒルズの思想を、働き方に落とし込む

ウェルネスを入口にした設計は、麻布台ヒルズ全体の思想ともつながっている。

麻布台ヒルズは「Modern Urban Village」という概念のもと「Green & Wellness」を街の設計思想として掲げており、ヒルズハウスはその思想を“働き方のレイヤー”に落とし込む装置として設計されている。

重要なのは、ウェルネスを福利厚生の1つの要素として後から付け足すのではなく、街の中に「整う導線」を最初から埋め込んでいる点だ。

働く・食べる・休む・学ぶ・混ざる、その全てをオフィスでも家でもない場所で成立させることで、働き方は二者択一ではなくなる。出社か在宅かではなく、街の中に選択肢が増えていく、という状態をつくる。

丸山氏がサードプレイスを語るときも、焦点は「第3の場所を増やすこと」ではなく、「場所と時間を選べる状態を持つこと」に置かれていた。多様な働き方が前提になったいま、働く人がその日の目的に応じて拠点を選び、時間の使い方を組み替えられること自体が価値になるという捉え方だ。

ヒルズハウスが目指しているのは、常に誰かと仲良くすることでも、常に学び続けることでもない。

集中したい日があり、人と話したい日があり、整えたい日があり、イベントに混ざりたい日がある。その切り替えを、都市の中で無理なく実現できる状態を用意する。そこにこそ、都市型サードプレイスの価値があるとしている。

孤独は“個人の問題”ではなく、“環境の問題”

孤独や孤立の問題は、個人の気の持ちようだけで解決できるものではない、と丸山氏は語る。

「人は本来、他者と関わりたいという欲求を持っています。日中は業務に追われ、終業後は帰宅する。飲み会の機会も減り、偶然の雑談が生まれる場面は限定的になっています。結果として、人間関係が育ちにくい構造が都市生活のリズムそのものに埋め込まれているのです」

こうした状況を前提に、ヒルズハウスでは交流を個人の努力に依存させない設計を採っている。名刺交換の順序やプログラム設計、会員構成の工夫など、これまで見てきた施策はいずれも偶発性を“運”に委ねるのではなく、起きやすい条件を設計によって整えるという発想である。

そして、この設計思想は、森ビルが掲げる「街全体をワークプレイスにする」という提案の実装でもある。ヒルズハウスは「ここに来れば完結する場所」ではない。

街の中に交流の機会を広げていくハブとして、レストランやイベント、プログラムへ自然につながる導線をつくり、街の中で「人が交わる確率」を増やしていく。ヒルズハウスは、その入口として機能しているのだ。

“孤独の時代”に必要なのは、誰かと仲良くなれと背中を押す場所ではなく、仲良くなれる条件が、日常の中にあらかじめ埋め込まれている環境である。

ヒルズハウスが提示するは、仲良くなれる条件が日常に埋め込まれた「環境としてのサードプレイス」であり、目指しているのは都市の“人間関係インフラ”なのだ。

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