マルハン東日本カンパニーが“制服の意味”をアップデート 1,200人が選んだ”廃止”でも”自由化”でもない「第3の選択肢」
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サービス・エンタメ業界では、若年層の応募率低下や早期離職が大きな課題となっている。
厚生労働省の調査によると、新卒就職者の「就職後3年以内離職率」において、サービス・エンタメ関連業種は全産業の中で突出して高い水準にある。
特に「見た目の規律が厳しい」「個性を活かしづらい」というイメージは、Z世代の価値観とのズレを生じさせている。
こうした状況を踏まえ、マルハン東日本カンパニーは、従業員1人ひとりの個性や違いを最大限に尊重することを目的に、従来の制服を一新。
「制服の意味そのものをアップデートする」という発想のもと、マルハン東日本カンパニーは、制服の“廃止”でも“自由化”でもない、新しい選択肢として制服の意味を変える「東日本スタイル」プロジェクトを立ち上げた。

本記事では、約1,200名を巻き込んだ制服改革を主導した「東日本スタイル」プロジェクトリーダー・飯田崇寛氏に話を聞いた。
■若者が“働きづらい”と感じる構造を変えるために
パチンコ業界では、負のイメージを少しでも払拭したいという背景から、「個性」よりも「しっかりした身だしなみ」を従業員に求めることがよくみられた。一方、Z世代を中心とする若年層は“ありのままの自分を尊重されること”を重視する。
飯田氏は現状をこう説明する。
「サービス・エンタメ業界は『対顧客』が前提であるため、どうしても企業側は従業員の『個性の表現』を避ける傾向にあります。一方で、今の若年層は多様な価値観や個性の表現が当たり前の環境で育っています。そうした世代にとって、一定の縛りがある環境は窮屈に感じられやすい可能性があります」
制服は“業務上、日々身に着けるもの”であり、その価値観のギャップが最も現れやすい領域でもある。
■「制服をなくす」ではなく「意味を変える」という決断
本プロジェクトは、当初「制服廃止・私服化」まで含めて検討されていた。しかし、従業員との対話を重ねる中で、思わぬ声が多く集まった。
「従業員へのヒアリングを行った結果、『皆が同じものを着用することで生まれる一体感』や『会社へのエンゲージメント』を、現場が大切にしていることが分かりました」
一方で、”個性を抑える制服”には課題もある。そこで導き出されたのが、“個性を殺さない制服”という第3の選択肢だった。

飯田氏は、この決断の根底について次のように語る。
「急速に変化する社会情勢と多様化する価値観の中で、従業員一人ひとりが『生きるヨロコビ』を実感できる職場環境を創りたい、という強い課題意識がスタートでした。
そして、それにより生まれる『従業員の仕事へのモチベーション』が顧客満足につながる、という良循環を生み出すと考えました」
■1,200人の声を反映した“現場起点”のデザイン
新制服はトップダウンではなく、徹底したボトムアップで作られた。
「アルバイト、社員、デザイナー、お取引先様まで、多層的なステークホルダーを巻き込み、現場主導の座談会を多数開催しました。その中で、約1,200名にのぼる従業員の声を集めて本プロジェクトに反映しています」

座談会では、デザイン性だけでなく、動きやすさ、収納性、汗やにおいへの耐性など、“働くリアル”に即した機能面の要望が多く集まった。
多くの要望を反映した新制服には、「スカーフのアレンジ」「ポーチへのアクセサリー」「ヘアカラー自由化」など、個性を柔らかく表現できる工夫が取り入れられている。
導入後、社内ではすでに小さな変化が起きているという。
「『#好きを着こなせ』というハッシュタグで、従業員同士がコーディネートをSNS等で共有し合い、『かわいい!』『真似したい』といったポジティブな交流が生まれています」
個性の発揮は、単に見た目の問題ではなく、スタッフ同士のコミュニケーションを前向きにし、職場に“心理的なゆとり”を生む要素となりつつある。
■個性の許容は、若者採用に効く“入口”になる
見た目の自由度は、サービス・エンタメ業界を敬遠する若者に“振り向くきっかけ”を与える。ただし飯田氏は、自由度だけが目的ではないと語る。
「『見た目の自由度』は、当社や業界に馴染みのなかった学生に振り向いてもらうための、重要な『入り口』としての役割が大きいと感じています。最も大切にしているのは『共感採用』です。最終的には企業とご本人が価値観を共有し、『Win-Win』な関係を築けるかどうかが重要だと考えています」
制服改革は、採用の入り口を広げるだけでなく、価値観の一致を促す「文化づくり」の一環でもある。
■制服は“組織文化”の象徴へ
本プロジェクトを通じて、飯田氏が描く未来は明確だ。
「私たちが描いているのは、『個人の輝きがチームの力となり、お客様の喜びへと繋がる』という未来です」
制服そのものが目的ではなく、自由と一体感という一見して“相反する価値”を両立させる文化をつくること。その象徴として制服が位置づけられている。
「今回の新制服の導入は、社会情勢や環境変化への対応ですが、その根幹にある想いは揺らぐことはありません。今後は、この揺るぎない土台を維持しながらも、変化を受け入れる柔軟性を兼ね備えた組織へと進化させていきたいと考えています」
マルハン東日本カンパニーによる制服改革は、業界で常識とされてきた“見た目の画一性”から一歩踏み出し、多様性と一体感を両立させる新しい働き方を提案するものだ。
Z世代が求める価値観、エンタメ業界の慣習、組織文化。その3つの接点を丁寧に設計し直した本プロジェクトは、今後のサービス・エンタメ業界のあり方に大きな示唆をもたらすはずだ。