SSをハブに広がる多角経営──過疎化地域ビジネスの着眼点とは?
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日本の地域社会で進む人口減少は、マーケット縮小と担い手不足の連鎖を生み、ビジネスに乗り出す事業者の障壁にもなっている。限られた条件の中で新規事業を創出するには、既存アセットの活用やDX推進、行政との連携など、多くの手段を駆使することも必要だ。創意工夫により育まれたサービスは、生活の質の向上など、さまざまな面で地域に貢献する。
出光興産株式会社が推進する「スマートよろずや構想」は、こうした地域ニーズに応えるプロジェクトだ。同社系列のSS(サービスステーション。ガソリンスタンドを指す)に新たな機能を組み込み、燃料供給にとどまらない生活支援拠点へと進化させ、地域課題の解決を目指している。SSを運営する事業者(特約販売店)と出光興産が協力し、ユニークな相乗効果を生み出している事例も多い。
AMPでは連載を通じ、「スマートよろずや構想」の事例を紹介。第8回となる本記事では、次世代モビリティや飲食、物産、宿泊など、多角的に事業を展開する株式会社西東を取材。SSを起点に広範な商圏を築きながら地域課題を解決する、同社のビジネスモデルを掘り下げる。
地域の暮らしに寄り添う、創業100年の特約販売店
静岡県内で6カ所のSSを運営する、株式会社西東。創業は大正10年(1921年)の椿油販売にさかのぼり、昭和期以降はSSと事業者向け販売の2軸で石油事業を展開。2000年ごろよりセルフSSへの転換を進め、近年はカーライフサービス全般への事業拡大に注力している。地域のエネルギー需要を分析し、経営の最適化を図るのは、代表取締役社長の西村 孝明氏だ。

西村氏「若年世代の流出、高齢者の免許返納、低燃費車やEVの普及が進み、石油需要の減少は年々加速しています。事業者として収益構造の転換が必須であるとともに、人口減少を受けた産業の衰退など、地域課題の解決にも取り組まなければなりません。こうした経緯から、SSを起点に展開できるカーライフサービスを強化しながら、多様なニーズに応える体制を整えてきました」
同社は現在、「ライフコンシェルジュとしてお客様の生活を豊かにします」を経営理念に掲げ、カーライフサービスにとどまらない事業を展開している。
西村氏「創業以来、エネルギーで人々の生活を支えてきた当社には、『お客様に最適な商品・サービスを届けたい』という考えが企業活動の根底にあります。SSの利用者や地域の皆様に、より豊かな生活を楽しんでいただくため、飲食、物産センター、宿泊など、業態の垣根を越えた事業も展開しています」
西東の事業展開に伴走するのが、出光興産株式会社 関東第一支店の中川 富仁氏だ。燃料供給の安定化やマーケティング、人材育成とともに、近年は「スマートよろずや構想」に伴う経営支援も行っている。

中川氏「地域密着の事業を100年以上継続してきた西東様の特徴は、お客様の暮らしを支える姿勢にあります。SSに勤務する従業員の方々の提案力をはじめ、サービスの品質は非常に高く、当社はこのポテンシャルを最大化するため、多面的に事業をサポートしています」
地域のニーズを捉え、ダイナミックに事業を多角化する西東は、どのような価値創造モデルを備えているのだろうか。次からは、カーライフサービス、ライフデザインの両視点から、同社の戦略を見ていく。
カーライフ“コンシェルジュ”を実現させるDXオペレーション
西東の多彩なカーライフサービスの中でも、近年コア事業として成長しているのが車検だ。同社は民間整備工場のM&Aを通じ、2拠点で車検・整備事業を展開している。
西村氏「SSで給油するお客様の生活を豊かにするため、より良い提案を行うのがカーライフサービスの第一歩。洗車、オイル、タイヤ交換など、メンテナンスを通じて信頼を積み重ねることで、車検もお任せいただける関係性を築くことができます。また事業シナジーを生かすことで、既に接点のある地元企業の皆様にもサービスを広げてきました」
SSから関係性を発展させるプロセスでは、さまざまな工夫も求められる。西村氏は「体験価値を高め、ファンになっていただく」という考えの下、現場オペレーションの強化に努めてきた。

西村氏「給油のお客様と徐々に関係を強化するためには、少しずつ当社サービスの魅力を感じていただくナーチャリング(継続的に関係性を育てていく取り組み)が大切です。また、『このお客様は車検を利用しないだろう』といった属人的な判断が、提案機会の損失につながるケースもあります。複雑なコミュニケーション戦略を6カ所のSSで実践していくために、オペレーションのDXを推進してきました」
中川氏「DXによるオペレーション強化を支えるのが、出光興産のソリューションです。例えば、出光興産のカーメンテナンス予約システム『PIT in plus』を活用することで、電話対応の削減や作業スケジュールの効率的な調整を実現できます。過去の利用履歴や車両情報をデータとして蓄積・管理できるため、次回のオイル交換時期や点検案内などの提案をよりスムーズに行うことが可能です。また、出光公式スマートフォンアプリ『Drive On』を活用すれば、店舗情報やキャンペーン、クーポンなどを直接お客様に配信し、リピート来店を促進できます。西東様の『Drive On』や『PIT in Plus』におけるお客様利用率は、全国でトップレベルとなっています」

デジタルツールを活用した顧客管理は、LTV(顧客生涯価値)のみならず、従業員の生産性向上にもつながる。リソースを提案力に集中させることで、カーライフの“コンシェルジュ”が実現するのだ。
中川氏「人手不足もSS業界全体の課題であり、従業員が忙しく、顧客管理まで手が回らない特約販売店様は多いです。しかしデジタルソリューションを活用することで、提案の精度が飛躍的に高まります。円滑なDXをサポートするのも、私たちの大きな役割です」
西村氏「SSには、一方的な販売促進を重視するあまり、お客様側のタイミングやお財布事情への配慮が十分でなかった側面もありました。本来は『夏の〇〇キャンペーン』のようなプッシュ型の施策ではなく、必要な商品やサービスを必要なタイミングで提供する姿勢こそが、長期的な関係を育むはずです。このOne to Oneマーケティングを実現する上で、デジタル活用によるCRM(顧客関係管理)は必須といえるでしょう。
また、これらの活動全体を当社とは違う目線で観察してくれる、出光さんの現場支援スタッフのフィードバックも大変ありがたいです。販売部YOROZU推進課の山本 兼司さんには、車検を中心にコンサルに近いことをやっていただいています」

飲食から宿泊まで、送客ネットワークで広がるライフデザイン事業
エネルギー供給やカーライフサービスで培ったノウハウは、他の事業でも役立てられている。西東は2025年10月から2026年1月にかけ、掛川市との協働でスモールモビリティ施策の「カケガワdeチョイノリ!」を展開。電動キックボードと三輪モビリティのシェアリングサービスで、地域観光の活性化に貢献した。

西村氏「過疎化が進む地方自治体では、公共交通機関の機能不全にカーボンニュートラル対策が加わり、スマートモビリティ導入のニーズが高まっています。私が観光協会の理事を務める島田市では、4年前から新モビリティを活用した実証実験や企業イベントに関わってきました。この実績を生かす形でスタートしたのが、『カケガワdeチョイノリ!』です。企画立案、マーケティング、充電や在庫調整といった現地オペレーションなど、事業全域の業務を請け負いました」
さらに掛川市では、観光物産センター「こだわりっぱ」、イタリアンレストラン「ペーザロ」も運営している。「ペーザロ」の名は、掛川市が姉妹都市提携を結ぶイタリアのペーザロ市に由来しており、同地産のワインやオリーブオイルを使用した料理を楽しむことができる。
西村氏「もともと『こだわりっぱ』は行政の指定管理事業として運営されており、行政・民間双方で運営課題を抱えていました。当社のノウハウを注入することで事業再興が可能と考え、施設を行政より有償で借り上げ、独立採算での運営をスタート。当初のミッションは、施設経営の立て直し、独立採算による収益化、ペーザロ市との“互産互消”です。ワイン輸入など未経験の事業に挑戦しながら、使用されていなかった2階部分を改装し、新たにレストランをオープンしました」

自治体との連携を強化する同社は、川根本町にある「もりのくに」や「接岨峡(せっそきょう)温泉会館」、島田市において大井川鐵道株式会社とコンソーシアムを組成し共同運営を実施する「田代の郷」など、行政施設の受託管理も展開する。
西村氏「接岨峡温泉会館は、閉業状態から指定管理事業がスタートした再生案件です。人手不足が課題であったことから、未使用だった居室をDXオペレーションで無人運営を行う宿泊施設として展開。食堂運営のノウハウを生かすことで施設全体の運営品質を向上させ、収益性の抜本的な改善と黒字化を実現しました。新規事業を模索する当社側も、施設をゼロから立ち上げると莫大なコストが発生します。投資を抑えながら、サービス事業者としてのノウハウを生かせる点において、指定管理事業は親和性が高いんです」
他にも複数の飲食・宿泊施設の運営、清掃事業や不動産事業など、事業ポートフォリオを充実させてきた西東。近年は売上比率においても、車検整備事業やライフデザイン事業が占める割合が徐々に拡大しているという。
西村氏「重要なのはカーライフサービスと同様、SSを拠点とした送客ネットワークを活用することです。例えば、掛川のSSでイベントを開き、『ペーザロ』のピザ半額券を来店特典でお客様に配布すると、配布数に対し5割を超える方がそれを利用してくれます。商圏形成による送客に勝ち筋を描けるかどうかが、事業参入の決め手になっているのです」

サービス事業者としての力を生かし、地域課題を解決する
地域課題を解決しながら、自社の事業拡大を実現してきた西東。その経営モデルは「『スマートよろずや構想』の優れた事例」だと、中川氏は先進性を説明する。
中川氏「エネルギー需要が減少する中、地域貢献への強化を目指すのが『スマートよろずや構想』の方針の1つですが、実際に新規事業を展開するのは容易ではありません。自社と地域の強みを生かし、行政とも連携する西東様のビジネスモデルは、多くの特約販売店様にとってヒントになると思います」
西村氏「地域ニーズを把握するためには、自治体や周辺事業者との協議の場に、積極的に参加することも大切です。商談の提案では、出光さんの持つ次世代エネルギーなどのソリューションも役立ちます。地域の課題解決に資する事業を推進し、蓄積された実績を発信することで、さらに新たな相談を受ける。こうしたサイクルが回れば、チャンスは次々と広がります」
地域課題にアプローチする「スマートよろずや構想」は、今後どのように展開されていくのだろうか。「特約販売店は、新規事業拡大のポテンシャルを秘めている」と、西村氏はその可能性を語る。
西村氏「日々SSでお客様と向き合う特約販売店の従業員は、サービス事業者としての高度なノウハウを既に培っているはずです。同時に、担い手不足が進む地域社会では、生活の質を高めるサービスの需要は高まっています。全国の同業者には、自社の強みを生かし、視野を広げながら、地域貢献に挑んでほしいです」
地域へのサービス供給は、生活の質の向上のみならず、雇用創出や観光活性化、人口流出の防止など、さらなる効果も期待できる。ライフコンシェルジュを経営の軸に据え、次々とサービスを展開する西東の、地域課題解決のモデルづくりに、今後も注目したい。
