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献立も調理も、AIに任せる CES 2026で見えた”人を支えるキッチン”の未来

Consumer Electronics Show(以下、CES)は、毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー見本市である。2026年のCESでは、出展企業4,100社超、来場者数約14万8,000人という規模の中で、「AIが生活の中で何を担うのか」がこれまで以上に実装レベルで示された。

その中で、ひときわ現実味を帯びていたのがキッチンと料理の領域である。自動調理ロボット、調理判断を代行するAI、献立から調理までを一体で支援する家電群。これらは料理を不要にする技術ではない。料理を一人で抱えなくても成立させるための技術として提示されていた点が重要だ。

料理を「起動」するという発想──AI調理ロボット「Nosh」

Noshと創業メンバー(出典:Nosh Robotics)
https://us.letsnosh.io/ces2026?utm_source=chatgpt.com

CES 2026で注目されたAI調理ロボット「Nosh」は、調理体験を根本から再構築する製品として多くのレビューを獲得している。従来の調理家電とは異なり、ユーザーの関与を極限まで減らすことを目指した設計だ。

最大の特徴は、500以上のレシピを内蔵し、イタリアン、タイ料理、韓国料理など多様な料理を自動で調理できる点である。ユーザーはレシピを選び、それに必要な材料を下ごしらえして個別のトレイにセットする。Nosh内部には水と油のタンク、約8つのスパイスボックスがあるため、具材や調味料を自動で鍋に投入し調理してくれる。

さらに、カメラを使ったコンピュータビジョン機能も搭載しており、調理中にカメラが食材の状態を逐一モニターし、加熱や撹拌のタイミングをAIがリアルタイムで判断する。料理中に「焦げていないか」「均一に熱が通っているか」などの微細な状態チェックが行われるため、ユーザーは一度スタートしたら見守るだけでよい。

特筆すべきは、ユーザーは味付けや火加減を心配する必要がないことだ。手動でスパイスを振ったり火力を微調整する代わりに、Noshが素材の状態を解析し、油やスパイスの分量も自動で調整する。特にソース中心の料理(カレーやスープ、パスタソースなど)を得意とし、従来の電子レンジやオーブンでは難しい“工程全体の管理”をAIが代行するという。

ユーザー体験という観点では、アプリの存在も重要だ。NoshはWi-Fi経由でスマートフォンと連携し、遠隔で調理開始や完了通知を受け取る機能がある。仕事や用事で外出している間に材料を入れておき、帰宅時にちょうど完成している、といった使い方ができる可能性があるのだ。

また、Noshは複数の食材トレイを備える設計であるため、一度の投入で複数の料理の下ごしらえを同時並行で進められるという利点もある。平日の夕食準備もまとめて済ませられ、いわゆる“ミールプレップ(複数食分の一括準備)”にも対応できる設計だ。

AIが判断を引き受ける──Bosch「Cook AI」

Boschが国際デビューさせた「Bosch Cook AI」は、従来の“レシピを表示するだけのアシスト”ではない。生成AI、センサー技術、家電の制御機能を統合し、調理プロセス全体を対話的にガイドするAIアシスタントとして設計されている。

Cook AIの利用はシンプルだ。まずスマホのHome Connectアプリを起動し、冷蔵庫や調理台にある食材の写真を撮る。アプリは食材を認識し、可能なメニュー案をいくつか提示する。ユーザーは好みの料理を選び、「ミディアムレアのステーキ」など仕上がりの希望を入力するだけだ。そこからCook AIが判断を引き受け、複数の調理機器や温度センサーを連携させて、リアルタイムで温度調整や工程の最適化を行う。

既存のBosch AutoChef機能(鍋底温度や加熱量の自動制御技術)と組み合わせることで、Cook AIは「指定した仕上がりに合うように火力を制御し続ける」だけでなく、Bluetooth温度プローブなどのセンサーと連携し、食材の内部温度まで追跡する。このため、調理途中で別の作業をしていても、AIが最適な調理状態を維持する。

この設計により、ユーザーは「焼き加減」「火力」「調理時間」といった細かな判断から解放される。例えばステーキを調理する際、通常なら何度も火加減を確かめながら経験に頼って調整する必要があるが、Cook AIは指定した仕上がりを達成するために最適な工程を自動で管理する。

さらに特徴的なのは、複数料理の同時進行にも対応する設計だ。Home Connectアプリは複数の調理機器(コンロ・オーブン・プローブ付き調理器具)を連携させ、全体の工程を統合しながら最適なタイミングで各調理を進める。複数のステーキを異なる焼き加減で仕上げるケースでも、AIがそれぞれの温度・火力を管理するため、ユーザーは待つだけでよい。

特筆すべきは、Cook AIが「知らない料理」にも対応可能な学習型の支援である点だ。単に指定された手順をなぞるのではなく、入力された食材の組み合わせや仕上がり希望に応じて調理方法を自律的に判断し、必要に応じて温度や時間を調整する。

献立から調理までを一本化する──SamsungのAIキッチン

Samsungが掲げたのは、「Companion to AI Living(AIと暮らす相棒)」というビジョンだ。これは単なる“機械のアップデート”ではなく、家電が自ら状況を理解し、提案し、生活者の負担を減らすパートナーになる未来像である。

Samsungはこのビジョンの中核として、AI Vision搭載のキッチン家電群を紹介した。中でも進化が目立つのは「Bespoke AI Refrigerator Family Hub」だ。内蔵カメラで冷蔵庫内の食材を認識し、何があるかを把握するだけでなく、食材が追加・取り出されるたびにAIが状態を分析し、最適な使い道や提案を出す仕組みが導入されている。

例えば、冷蔵庫にある食材を認識し、「鶏肉が余っているからこのメニューが合う」といったレシピ提案を行う。また、単にメニューを提示するだけでなく、食材の消費傾向を学習してレコメンドを改善したり、買い物リスト生成したりするFood Manager機能も備えている。

さらにSamsungは、冷蔵庫だけでなく オーブンや電子レンジ、スマートディスプレイとの連携も視野に入れている。刷新されたキッチンラインナップでは、AI Visionを備えた家電がユーザーの声やカメラ映像、センサー情報を基に現状を理解し、次に取るべきアクションを示唆する体験が目指されている。

道具が判断する安心感──HisenseのAI搭載インダクションレンジ

スマートインダクションレンジ(出典:Hisense)
https://www.hisense-usa.com/ces-2026/home-appliances-2026?utm_source=chatgpt.com

Hisenseが打ち出したのは、ConnectLife AIプラットフォームによってキッチン家電同士が連携し、日々の料理をより直感的でシームレスにする体験である。特に注目されたのが、AI Cooking Agentを搭載したスマートインダクションレンジと、それを中心に据えたキッチンエコシステムだ。

このレンジの最大の特徴は、中央に配置された高解像度タッチディスプレイにより、従来の「コンロとオーブンを別々に操作する」体験を統合していることにある。ディスプレイにはレシピの一覧が表示されるだけでなく、選択した料理に合わせてConnectLife AI Cooking Agentがステップごとの調理ガイドを提示する。

公開されている操作の流れを見ると、ユーザーはまずタッチディスプレイから「今日作りたい料理」を選択する。次に、画面の指示に従って材料をセットし、AIの提案にOKを出すだけで調理が開始される。AIは食材や工程を認識し、必要に応じて加熱パターンを調整するため、調理中に火加減やタイマーを見張る必要が大幅に減る。

さらに興味深い点は、Hisenseのスマート冷蔵庫など他のConnectLife対応機器とのエコシステム連携だ。対応冷蔵庫は食材を認識して保存情報を管理し、AI Cooking Agentと連動して献立提案や食材の使い道のレコメンドも行う。これにより、「冷蔵庫の中身→レンジでの調理→料理の完成」という流れが、AIによって一連のサポート体験として可視化される。

味付けや火力の調整といった細かな判断もAI側で扱われるため、調理のストレスや失敗の不安は大きく軽減される。

料理は「する/しない」ではなく「任せ方を設計する行為」になる

CES 2026で示されたキッチンテクノロジーの本質は、「料理を自動化すること」そのものではない。より正確には、料理という行為に含まれてきた判断・管理・責任を、どこまでテクノロジーに委ねられるかを具体的に提示した点にある。

Noshは調理工程そのものを引き受け、BoschのCook AIは判断を肩代わりし、SamsungやHisenseは献立や工程管理といった“前後の思考”をまとめて引き受ける。それぞれアプローチは異なるが、共通しているのは「人が頑張らなくても料理が成立する状態」を前提にしていることだ。

この変化は、料理を好きか嫌いかという話ではない。忙しさ、疲労、気力の波といった現実を無視せず、料理との距離を自分で調整できる余地をつくるという発想である。今日は任せる、今日は少し関わる、今日は全部やる。その選択が罪悪感なく行える状態こそが、これからの“自炊”の新しい形になる。

文:岡 徳之(Livit

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