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2025年10月に、山口県宇部市にある恩田スポーツパークで、都市型スポーツイベント「UBE URBAN SPORTS FES 2025(以下、UBE URBAN SPORTS FES)」が開催された。会場では、ブレイキン(ブレイクダンス)やスケートボード、パルクールなど、さまざまなアーバンスポーツ(※1)が披露されたほか、初心者向けの体験教室なども展開され、パフォーマーと来場者が一体となって体を動かし汗を流した。
競い合うだけがスポーツじゃない——。本イベントを通して浮かび上がってきたのは、互いをたたえ合い、世代や性別を超えてつながるアーバンスポーツの新しい姿だった。まちを舞台に人と人が交わるこのムーブメントは、地域の活性化や若者のウェルビーイングにも新たな可能性を広げている。本記事では、その現場で見えた変化を、イベントを主催した担当者や参加者の言葉からひもといていく。
(※1)街中で行う都市型スポーツの総称。順位を競うだけでなく、自らが楽しみ、仲間や見る人たちも一体となって楽しむカルチャーを持つ。
「まちのにぎわい創出」と「若者の呼び込み」へ。宇部市がアーバンスポーツを選んだ理由
宇部市が「UBE URBAN SPORTS FES」を開催する背景には、中心市街地の活性化や若者の呼び込みといった、まちづくりの課題意識が深く関わっている。近年、全国的に地方都市の中心市街地では、シャッター街化や人口減少、高齢化といった問題が顕在化しており、宇部市も例外ではない。
このような状況を打開するため、「UBE URBAN SPORTS FES」も単なるスポーツイベントではなく、まちのにぎわい創出や若年層を中心に宇部市の魅力を発信する取り組みとして位置付けられている。
宇部市がアーバンスポーツを推進してきた経緯について、宇部市 観光スポーツ文化部 スポーツ振興課 副課長の宮村 毅氏に話を聞いた。
宮村「宇部市では東京2020オリンピックで注目を集めたアーバンスポーツを、若者の興味を引き付ける新たな魅力として捉え、まちなかで気軽に楽しめる取り組みとして積極的に推進してきました。市が目指す中心市街地のウォーカブルなまちづくりを背景に、2023年には国道を舞台としたパルクールの日本選手権と、アーバンスポーツに触れるイベント『UBE URBAN SPORTS FES』を同時開催しました。このイベントには、多くの来場者にお越しいただいており、まちのにぎわいの創出に貢献したほか、これまでスポーツに縁遠かった市民や観戦者の方々にもスポーツに気軽に触れてもらう機会につながっていると考えています」

宮村氏は、まちづくりとアーバンスポーツの相性の良さも感じているという。
宮村「アーバンスポーツは、都市空間がスポーツのフィールドとして活用されるという特徴があります。従来のスポーツが『グラウンド』や『体育施設』など、特定の場所を前提としていたのに対し、アーバンスポーツは文字通り道端やストリートそのものが活動の場となり得ます。スポーツがまちの中に適応して生活の一部になることで、結果として自然と人が集まり、新たなにぎわいを生み出すことにつながると思います」
本年度のイベントの会場となった恩田スポーツパークは、既存施設の改修だけでなく新たにアーバンスポーツができる施設を付加し、2025年4月にリニューアルオープンした。
宮村「これまで以上に多くの人々、特に若年層を引き付ける魅力的なスポーツパークの実現に向け、構想のコンセプトを『スポーツからストリートカルチャーまで』とし、ストリートカルチャー(若者文化)ゾーンを付加することになりました。近年高まるアーバンスポーツへの関心やストリートカルチャーの可能性に着目し、その要素を取り込むことを目指しています」
リニューアルしたストリートカルチャーゾーンでは、スケートボード、3×3(3人制バスケットボール)といった都市型スポーツを安全かつ存分に楽しめる環境を整備。これまでにない、新しい魅力をパークに付与した。

宮村「新設されたストリートカルチャーゾーンを広く知ってもらい、その利用を促す目的で、3回目の開催となる『UBE URBAN SPORTS FES』は、従来の中心市街地ではなく恩田スポーツパークに会場を移して開催することが決まりました」
子供の選択肢が広がる機会に。多様な世代が集い、アーバンスポーツを間近に体験
イベント当日は恩田スポーツパークの広大な敷地を生かし、スケートボード、ブレイキン、ダブルダッチ、パルクール、3×3など10種のスポーツを中心に、さまざまなアクティビティが次々と繰り広げられた。
例えば「都市型スポーツ広場」では、スケートボード大会「SKATEBOARD UBE ONDA JAM 2025」を開催。観客が見守る中、年齢の異なるスケーターが一堂に集まり、限られた時間の中で数々の迫力ある技を繰り出した。技が決まると、選手のガッツポーズとともに、周囲からは歓声と拍手が巻き起こった。

「にぎわい交流施設」ではブレイキン大会「UBE BREAK BATTLE 2025」が行われ、子供から大人まで、アクロバティックな技を披露した。「屋根付きグラウンド」では初心者向けの体験教室で、子供たちが目を輝かせながら初めてのダブルダッチなどに挑戦。インストラクターの指導の下、盛り上がりを見せていた。

特設ステージでは、地元のパフォーマーによるライブパフォーマンスも行われ、会場全体が活気と熱気に包まれた。
ほかにも3×3では、プロのバスケットボール選手のエキシビションマッチや、人工芝が一面を覆う「多目的グラウンド」ではパルクールの体験会も行われた。

さらにパーク内には、地元飲食店の屋台が多数出店し、参加者はおいしい食事を味わいながらイベントを満喫していた。アクティビティの合間に休憩したり、お土産を選んだりする姿も見られ、芝生広場でピクニックをしたり、遊具で遊んだりするなど、それぞれの楽しみ方も見つけていた。
実際にイベントに参加した人たちは、この日をどう感じたのだろうか。会場で話を聞くと、子供たちの新しいスポーツとの出合いや、家族・仲間との交流など、アーバンスポーツが生み出す多様な“気付き”が見えてきた。
「普段からスケートボードの練習で、よくここに来るんです。近所のお兄さんがやっているのを見て、もう2年以上も夢中ですね。野球やサッカーみたいに、学校でやるのとは違うスポーツを見る機会があることで、子供の視野が広がると思います。こういう公園で、メジャーなスポーツ以外の練習ができることで、子供の選択肢が広がるんですよね。ブレイキンを見るのもすごく楽しみです」(参加者の親)
「ダンス仲間と、ブレイキンの大会に出るために大分から来ました。ブレイキンは個性を表現できるし、自分のペースで取り組めるところも魅力です。地元にはこういうイベントがあまりないので、もっと九州各地でもやってほしいなって思います」(参加した高校生)
「勝ち負けを気にせずに携われるのが、アーバンスポーツの魅力です。特に今回のイベントでは選手から直接教えてもらったり、たくさんのアーバンスポーツを知ったりするきっかけになったと思います。アーバンスポーツの認知はまだまだ低いですが、こういうイベントがあることで、スポーツに夢中になるきっかけになる。地域の人たちとの交流を通じ、バスケを身近に感じてもらう良い機会になりました」(3×3の選手)

「助成金」や「企画」で支援。イベントの価値を高めるパートナーの存在
こうしたイベントの価値を高める存在として、裏側で支援する多くのパートナーの存在も忘れてはいけない。
会場となった恩田スポーツパーク内の一部施設の改修や、「UBE URBAN SPORTS FES」の開催(2023年度〜2025年度)には、スポーツくじの助成金(※2)が活用されている。
会場で歓声を上げる子供たちや、汗を流すプレーヤーたちの多くは、今回のイベントがどのような仕組みで支えられているか、知らないかもしれない。しかし、スポーツくじという仕組みが、誰もが意識せずとも恩恵を受けられる「スポーツのインフラ」として機能しているのだ。購入されたくじの収益は、巡り巡って地方のスポーツの熱気に変わっていると言える。
この助成金があることで宮村氏も、事業を円滑に推進できると話す。
(※2)スポーツくじは、誰もが身近にスポーツを親しめる環境づくりや国際競技力向上のための環境整備など、地方公共団体やスポーツ団体が行うスポーツ振興を目的とする事業の財源として、独立行政法人日本スポーツ振興センターが、2001年に全国販売を開始。スポーツくじの収益の3分の2は、スポーツ振興のための助成金として使われている。(https://www.jpnsport.go.jp/sinko/josei/tabid/77/default.aspx)
宮村「新規事業の予算を確保することは、多くの自治体にとって常に大きな課題とされています。しかし、スポーツくじの助成金を活用させていただくことで、事業を円滑に推進することができています。都市型スポーツ施設の整備が実現したことで、このようなイベントの開催が可能となりました。施設の整備後のイベントなどでも積極的に活用することで、ハードとソフトが結びつき、より多くの効果を生み出すことが可能になっています。また、助成金の存在により、将来的な事業の継続性も見通しやすくなると思います。こうした取り組みにより、市民の方の健康増進や交流促進、さらには新たなにぎわいの創出など、多面的な効果が期待できると思います」
「UBE URBAN SPORTS FES」の企画を支援した株式会社GATHER 執行役員 CSOの坂本 章氏も、こうしたパートナーの存在がイベントの価値を高めると話す。
坂本「スポーツくじの助成金のような第三者からの支援があることで、活動の信頼性が向上します。さらにイベントを大々的に開催できることで、宇部市の取り組みをより広範な層に伝えられると思いました」

そんな今回のイベントの軸となるコンセプトについて、坂本氏は次のように語る。
坂本「私たちが最も重視したのは『地域に根差すこと』です。東京の専門家が協力して一時的にイベントを実施しても、それが地域に根付き、継続していくことは難しい。この課題を解決するため、地域の方々との協働に力を入れようと思いました。例えば、ブレイキン大会とスケートボード大会の主催は、その地域のことをよく知っている地元の方々にお願いすることにしました。『一緒に企画しませんか』と提案することで、私たちが直接関与しなくなったとしても、地域の方々に主体的にこの場所を活用し、アーバンスポーツの活動を継続してもらいたいと考えたのです。
また、大会には地元の方々にも選手として参加してもらい、その家族や知人が応援に来るようにしました。このように地元の方々を巻き込むことによってイベントが終わった後も、『こんなことをやりたい』というニーズが生まれたとき、自主的に企画や運営ができる。それが、地域の活性化につながり、スポーツがどんどん盛り上がっていく、そんな循環を生み出せればと考えました」

宮村氏も、今回のイベントは地元の団体との連携を強化し、継続的な活動につながるきっかけになったと話す。
宮村「今回の『UBE URBAN SPORTS FES』の開催を通じ、地元の関係団体と連携し、具体的に事業を進めさせていただきました。この連携をさらに深め、地域に根差したイベントやプログラムを継続的に実施していく予定です。地域の皆さんが参加者として、努力や成果を共有できる環境を提供することが、地域コミュニティーの活性化につながっていくと思います」

「スポーツ=うまくなければ」から「誰もが気軽に楽しめる」へ
今回のイベントで印象的だったのは、スケートボードの競技中に、ライバル同士が互いの技に拍手を送っていたことだ。勝負の場でありながら、称賛と笑顔が飛び交う光景。競技が終わると、選手たちは言葉を交わし合い、技を教え合う姿も見られた。こうしたつながりこそが、アーバンスポーツの魅力だと坂本氏は語る。
坂本「一般的な球技は、試合が終わると交流が途絶えがちですよね。でも、アーバンスポーツはイベントの空間でいろいろな交流が生まれます。例えば、すごい技が決まると、自然と『いいね』と言い合う承認と称賛の文化が深く根付いています。スケートボードでは、対戦相手でも良いプレーには拍手が送られます。これによって、参加者同士が自然と会話を交わしやすくなって新しい友情が芽生えるなど、競技を超えたつながりが生まれるのです」
また、ブレイキンでは子供から大人まで、性別も関係なくチーム戦が行われるなど、多様な人が入り混じって競技する姿も印象的だった。もちろん彼らは特別に意識しているわけではなく、あくまで自然にそうなっている。
宮村「アーバンスポーツの魅力は一人でも気軽に楽しめるところにあると感じています。自らが楽しみ、世代を超えて仲間や見る人たちも一体となって楽しんでいる雰囲気があり、校区の枠を超えた交流や、世代間のコミュニケーションを活性化する役割を果たしていることがとても印象的です」

さらに、アーバンスポーツは若者のウェルビーイングに寄与する点も多いと話す。
坂本「今の若い子たちを見ていると、体を動かす楽しさをもっと知ってほしいと心から思います。最近はゲームとか家の中で遊ぶことが増えているため、少しだけでも体を動かす新しいきっかけをつくってあげたいと感じます。その点、アーバンスポーツは一人でも気軽に始められる点に加えて、チームスポーツと比べ試すハードルが低いところもあります。結果として体を動かす選択肢が増え、若い子たちが心身共に、健康になれるのではないでしょうか」
ハードとソフトの連動で「自分らしくいられるまち」へ
宇部市は、今回のようなイベントを今後も継続して開催し、恩田スポーツパークを活用しながら地域に根差した、新しいにぎわいを創出していく予定だ。
宮村「今回のイベントでは、県外から多くの参加者が訪れており、宇部市が新たな交流の場となる可能性も感じられました。イベントで購入した用品や、関係を築いた団体とのつながりを生かしながら、世代を超えて楽しめるコンテンツや、地域の魅力を伝える方法を工夫することで、関わる全ての皆様に喜んでもらえるイベントを目指していきたいです」

「地域に根差す」というコンセプトの下、宇部市の地域特性を尊重しながら市民が主体的に関わることで、一過性のイベントにとどまらず、継続的に地域を活性化させる仕組みへと発展している「UBE URBAN SPORTS FES」。
さらに、若者だけでなく、子供から高齢者までが共にスポーツを楽しみ、互いに刺激し合うことで、新たな交流と連帯感が広がっている。その輪は少しずつ広がり、「自分らしくいられるまち」という未来を形づくり始めている。
「UBE URBAN SPORTS FES」は宇部市の新たな象徴として、まちの未来を動かしていくだろう。
取材・文:吉田 祐基
写真:水戸 孝造