「孫旅」から見える家族旅行の新潮流。ウェルビーイングをもたらす“インヘリツーリズム”とは?
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かつての家族旅行といえば、観光地や名所を巡ることが目的だった。しかし近年は、祖父母と孫が一緒に過ごす「孫旅」や、三世代以上が集う「多世代旅行」が増加している。世代を超えて時間を共有することに価値を見出すこの動きは、家族旅行が「思い出をつくるレジャー」から「世代を超えて心をつなぐ場」へと変化している表れだ。
本記事では、ホスピタリティ業界を牽引するヒルトンが発表した「2026年版グローバル・トレンド・レポート」から、その新潮流を読み解く。
アジア圏で広がる、世代を超えた「孫旅」
アジア太平洋地域の回答者の60%が、「孫旅を経験した」または「計画している」と回答。特に中国やインドでは80%前後と高く、祖父母と孫の絆を深める旅行が一般化している。
日本でも37%と約4割が「孫旅を経験・計画中」と答え、過去1年以内に経験した、または計画したとする回答は18%にのぼり、着実に広がりを見せている。

日本における孫旅の主な動機は、「新しいことを一緒に体験すること」が約半数で最多。一方、アジア太平洋地域全体では「忘れられない思い出をつくること」が58%と最も多く、特にインド(67%)、オーストラリア(64%)、ニュージーランド(63%)で高い傾向が見られた。そのなかで日本は、「発見を共有する」「文化を探求する」といった知的・文化的な体験を重視する点が特徴的だ。
また、孫旅が増加している背景には「親世代が多忙である」(26%)という現実もある。家族で過ごす時間が貴重になるなか、祖父母と孫が主役となる旅行は、新しい家族のつながり方として定着しつつあるようだ。
“インヘリツーリズム=家族で受け継ぐ旅”がトレンドに
どんな旅行を楽しむのか——。その基準となる旅行先での過ごし方や宿泊先の好みは、長年の家族旅行を通じて培われ、世代を超えて受け継がれていく。「2026年版グローバル・トレンド・レポート」では、こうした現象を“インヘリツーリズム(Inheritourism)”という新たなトレンドとして位置づけている。
インヘリツーリズムとは、inherit(継承する)とtourism(観光)を組み合わせた造語。宿泊先の選定からロイヤリティプログラムの利用まで、祖父母や親が持つ価値観が次世代の旅行スタイルに影響を与えるという考え方だ。旅行・ホテル業界にとって、家族単位でのサービス体験は、長期的な顧客関係を築くうえで重要なテーマとなっている。
家族のウェルビーイングを支える宿泊体験へ
インヘリツーリズムを実現するためには、世代を超えて心地よく過ごせる宿泊先の存在が欠かせない。快適な空間づくりはもちろん、多様な体験価値の提供も求められている。
調査によると、家族の約半数(48%)がコネクティングルームやファミリールームといった家族で利用できる部屋を好み、36%が子ども向けアクティビティを重視。さらに35%がリラクゼーションやウェルネス関連の施設・サービスを重視すると回答している。
これらの数字は、旅行が「世代ごとのニーズを満たす場」から「すべての世代が共に満足できる体験の場」へと進化していることを示している。ホテルやリゾートに求められているのは、単なる宿泊施設ではなく、家族全員のウェルビーイングを支えるプラットフォームだと言えるだろう。

ヒルトン アジア太平洋地域ブランド・マネジメント部門上席副社長のタル・シェファー氏は、レポートについて次のように述べている。
「日本では、旅が家族の絆と深く結びついており、それが多世代旅行の増加にも表れています。ヒルトンでは、祖父母、親、子どもがつながりを大切にし、一緒に忘れられない思い出をつくれるよう、あらゆる細部を『とまるところで、旅は変わる』という考えのもとで設計しています」
旅行先で過ごす時間は、心を満たすウェルビーイングの源。世代を超えて家族の笑顔と記憶が重なる場所にこそ、これからの旅行・ホテル業界が目指すべき価値があるのかもしれない。そして私たちにとって旅行は、単なる消費活動ではなく、「家族の絆を受け継ぐ文化」へと変わろうとしている。