身近なメールツールで始めるAI活用術

朝、出社すると未読メールが100通。そんな「メール地獄」に悩むビジネスパーソンに朗報だ。

AIの進化により、メール処理が劇的に効率化されつつある。

まずGmailでは、Workspace向けにAI要約機能が自動化された。これまで手動でリクエストする必要があったAI要約が、長いスレッドや複数の返信があるメールで自動的に生成されるようになった。新しい返信が追加されると要約も自動更新される仕組みで、スレッド/返信が長くなっても、論点を逃す心配がなくなる。現時点では、英語のメール、モバイル版のみの提供となっているが、要約を生成するAIモデル「Gemini」の日本語能力の高さを考慮すれば、日本語対応版が登場するのも時間の問題と言えるだろう。

AI自動サマリー機能(グーグルウェブサイトより)
https://workspaceupdates.googleblog.com/2025/05/gemini-summary-cards-gmail-app.html

Gmailの既存のAI要約機能も、便利かつ日本語対応しているので、フル活用したいところだ。受信メールのタイトル下部に表示される「このメールを要約」ボタンをクリックすれば、一発で要約が生成される。メールにアクションアイテムがあれば、そのアクションを提示することもできる。実際に筆者が使ってみて便利だと感じたのは、言語の制約を受けない点だ。英語のレポートであっても、日本語でプロンプトを入力すれば日本語で回答が生成されるので、長い英文メールでも時間をかけず内容を把握することが可能となる。

Gmailに表示される「このメールを要約」ボタン

一方、マイクロソフトのCopilot for Outlookでは、より包括的な機能が実装された。単なる要約だけでなく、メールの下書き作成、スケジュール管理、フォルダ整理まで幅広くカバー。特に注目されるのが、Outlookの「Prioritize My Inbox」機能だ。これは約40年前のDEC社でのAI研究に端を発するメールフィルタリング技術が進化したもの。上司からのメールや重要プロジェクトに関する連絡を見逃さないよう、視覚的なインジケーターで表示する。

プライバシー面でも配慮がなされている。グーグルは「スマート機能」の設定を分割し、ユーザーがデータの利用範囲を細かく制御できるようにした。マイクロソフトも、Copilotがユーザーデータを基盤モデルの学習に使用しないことを明確化し、さらにはデータの暗号化や監査ログの提供など、企業での利用に必要なセキュリティ対策を実装した。

これらの機能により、従来数十分かかっていたメール処理が数分で完了するようになる。ただし、現時点では言語や利用環境に制限があるため、日本のユーザーが恩恵を受けるにはもう少し時間がかかるかもしれない。

特化型AIツールが実現する「超効率」メール管理

AIによって進化しているのは、GmailやOutlookだけではない。特化型の新興AIメール管理ツールが急速にシェアを拡大し、メール対応のあり方を再定義している。その筆頭がSuperhumanだ。

SuperhumanはOpenAIのAPIを活用し、メール処理速度を劇的に向上させることに成功。同社CEOのラーフル・ヴォーラ氏は「多くの人々が、年間数冊の小説が書けるほど大量のメールを書いている」と指摘する。この課題に対し、音声入力から完全なメールを生成する「Write with Your Voice」機能や、ワンクリックで返信できる「Instant Reply」機能を実装した。実際、ベータ版ユーザーは従来の2倍の速さでメールを作成でき、週に1時間以上の時間の削減を実現したという。「Write with AI」機能の平均使用回数は週25回で、ローンチ時から55%増加しており、ユーザーの日常業務に深く浸透しつつあることがうかがえる。

元グーグル社員が開発したShortwaveも注目を集めている。最大の特徴は、メールの要約を自動的に表示する「インスタントサマリー」機能だ。冒頭で触れたようにGmailがようやく、この機能を英語向けで提供開始したが、Shortwaveでは2024年の段階で、この機能の提供を開始している。長いスレッドでも一文で要点を把握でき、タップすればより詳細な要約も生成される。OpenAIなどの基盤モデルを活用した高精度な要約が売りだ。

Shortwaveの独自性は「Shortwave Method」と呼ばれる体系的なメール処理手法にある。すべてのメールを「対応不要」「即座に処理可能」「時間を要するタスク」の3カテゴリーに分類し、受信トレイをゼロにする明確なプロセスを提供する。AIアシスタント機能では、「山田さんが提案したレストランの住所は?」といった自然な質問でメール検索が可能になり、複雑な検索演算子を覚える必要がなくなった。

詳細な「AIルール」機能を提供するMissiveも見過ごせない。従来のフィルタリングを超え、メール内容を理解して自動的にアクションを実行する機能を備える。たとえば「この顧客は怒っているか?」という自然言語のプロンプトで、感情分析に基づいた優先順位付けを行うことが可能だ。ある法律事務所では、締切や期限を含むメールを自動検出し、タスク化することで、提出期限の見逃しをゼロにしたという。

Gmailのスマートカテゴリーのような分類を、より柔軟にカスタマイズできる点もMissiveの強みの1つ。たとえば「SOCIAL」「PROMOTIONS」「UPDATES」などの任意のカテゴリにメールを自動分類し、それぞれに異なるアクションを設定できる。

納期管理から顧客対応まで、AIが変える日本の職場

海外で急速に進化するAIメールツールは、日本の職場にどのような変革をもたらすのだろうか。

現在、日本企業の多くはGmailやOutlookを主力メールツールとして採用しているが、海外ではすでに次の段階へと移行が始まっている。AI活用により従業員の85%以上が新機能を積極的に利用し、受信トレイの処理速度が2倍向上したSuperhumanのような事例が、普及促進の背後にある。

このようなAIメールツールによる生産性向上は、日本の働き方改革にも大きく貢献する可能性を秘めている。

Missiveの具体的な導入事例は、日本企業にとって特に参考になるはずだ。ある顧客サービスチームは「この顧客は怒っているのか?YES/NO」というシンプルなプロンプトでメールを分析し、怒っている顧客のメールを自動的に優先フラグ付けしてシニアエージェントに割り当てる仕組みを構築した。一方、営業チームは「これは見込み客か、一般的な問い合わせか」を判定し、見込み客は営業パイプラインへ、一般問い合わせはサポートチームへと自動振り分けする仕組みを構築。これにより、営業担当者は商談により多くの時間を割けるようになったという。

日本では特に顧客対応の質が重視されるが、AIによる感情分析と優先順位付けにより、重要な顧客への迅速な対応が可能になる。特に情報共有不足により、部門間の連携がうまくいっていない企業にとって、AIによる自動振り分け機能がもたらす効果は意外と大きいのかもしれない。

また、海外市場との接点を持つ企業は、翻訳ルールの自動適用機能で生産性を高めることができるだろう。Missiveでは、受信したメールを特定言語に自動翻訳するAIカスタムルールを作成できる。Missiveのプラットフォーム自体は日本語対応していないものの、背後にある基盤モデルの性質を考えれば、現行バージョンでも受信メールの自動日本語翻訳は問題なくできるはずだ。

さらに、納期管理という観点からもAIメールは大きな利点をもたらす。たとえば、Missiveでは、締切自動検出機能が実装されており、「このメールに締切、期限、時間的制約はあるか?」を判定し、自動的にタスク化して通知を送ることが可能だ。納期管理が重要な日本の製造業や建設業にとって重宝する機能となる。前述したが、ある法律事務所では、この機能により提出期限の見逃しが完全になくなったとのことだ。

課題は言語対応だ。現在、多くのAI機能は英語に最適化されており、日本語での精度には改善の余地がある。しかし、OpenAIなどの基盤モデルの多言語対応が進展しており、近いうちに、この障壁はなくなるはずだ。日本市場での本格普及は、2026年以降になると予測されるが、先進的な企業では全社レベルでAI活用が始まっており、その一環でAIによるメール対応も実践されているものと考えられる。

文:細谷 元(Livit