2025年4月、Meta(旧Facebook)は、コンシューマ向けAIアシスタント市場に本格参入する形で、スタンドアロンのAIアプリ「Meta AI App」を正式にリリースした。OpenAIのChatGPTが牽引するAIアシスタント領域において、Metaは自社開発の大規模言語モデル「Llama 4」を核に、独自のクロスプラットフォーム戦略を打ち出しつつある。

Llama 4搭載、スマートグラス連携──Meta AIの全貌

出典:Meta

Meta AI Appは、スマートフォン(iOS/Android)、PCのWebブラウザ、さらにはRay-Banと共同開発された「Metaスマートグラス」まで対応する、クロスプラットフォーム型のAIアシスタントアプリである。最大の特徴は、Metaが開発した大規模言語モデル「Llama 4」をベースにしており、ユーザーごとの文脈を理解し、自然な対話体験を提供できる点にある。

「Meta AI App」は、従来のAIチャットツールとは異なり、シームレスなユーザー体験を追求している。特にRay-Ban Metaスマートグラスとの連携は先進的であり、視覚情報をそのままAIに送信し、リアルタイムで会話や画像認識を行うといった機能を備える。Metaはこれを「新たな人間とAIのインターフェース」と位置づけており、ウェアラブル領域でのプレゼンス拡大も視野に入れている。

Discoverフィードと画像生成──コンシューマ市場を意識した設計

出典:Meta

Meta AI Appのもう一つの目玉が、「Discover(ディスカバー)」と呼ばれるプロンプト共有フィードである。これは、他のユーザーがどのようなプロンプト(指示)でAIを活用しているかを可視化・共有する機能であり、単なるAIチャットを超えた「創造的なプラットフォーム」としての性格を強めている。

また、Meta AI Appには画像生成や編集機能も統合されており、テキストから画像を生成する、既存の画像に対して修正を加えるといった操作が可能である。クリエイティブなユースケースを重視する設計からも、このアプリが「ビジネスツール」ではなく「日常生活に寄り添うAIアシスタント」として設計されていることが読み取れる。

音声対話とFull Duplex Demo──会話の未来を見せる機能

Metaは、音声インターフェースにおける技術革新にも注力している。その象徴が、発表イベントで披露された「Full Duplex Demo(フル・デュプレックス・デモ)」である。このデモでは、Meta AIがユーザーの話す言葉を同時に理解・処理し、相手の発話の“合間”を縫って素早く返答する様子が示された。従来の音声アシスタントが持つ「ユーザーが話し終えてから返答する」という一方向的な会話体験とは一線を画している。

このデモにより、Metaは人間同士の自然な対話のテンポやインタラクションのリズムに近づくことを目指している。ザッカーバーグCEOも、この低遅延・同時対話型の機能こそが、AIと人間の関係性を変える鍵になると語っている。音声機能は現在、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏市場で先行提供されており、今後のグローバル展開にも期待が集まる。

Facebook・Instagramとの統合──ユーザー理解の深化

Meta AI Appは、Metaのアカウントセンターを通じてFacebookやInstagramと連携可能であり、ユーザーの行動履歴や関心データに基づいた応答の最適化が可能となっている。これにより、ユーザー一人ひとりに合わせたきめ細かなパーソナライゼーションが実現されている。SNSとAIを統合するこの仕組みによって、Metaは他社にはない独自の強みを打ち出している。

初期テストで見えた課題──ビジネスユースには未成熟

一方で、リリース直後の段階では、Meta AIの基本的な推論タスクの正確性やファクトベースの回答能力において課題も見られている。現時点では、OpenAIやAnthropicといった他社のLLMと比較して、情報の信頼性や精度でやや劣る場面も報告されている。

Meta自身もこのアプリを「業務用」ではなく「個人利用」を中心とする方針を明確にしており、現段階ではビジネスシーンでの高度な分析や業務支援には向いていない。ただし、Llama 4が持つ柔軟性や画像・音声処理のポテンシャルを考慮すれば、今後のアップデートによって生産性ツールへ発展する可能性は十分にある。

ザッカーバーグCEOの戦略──AIの“瞬時性”と“パーソナル化”

マーク・ザッカーバーグCEOは、次世代AIには「瞬時のレスポンス性」と「高度な個人最適化」が求められると強調している。今回のMeta AI Appは、まさにその戦略を具現化するものであり、スマートグラスやDiscoverフィード、Full Duplex Demo、Facebookとの統合など、すべてが一貫した構想のもとに設計されている。

これは、単なるAIの搭載競争ではなく、ユーザーの日常に深く入り込み、「AIとともに生きる生活スタイル」を提示するMetaの挑戦である。

まとめ──MetaのAI戦略の今後に注目

Meta AI Appの登場は、AIアシスタントアプリの単なるリリースにとどまらず、Metaが描く次世代AI戦略の端緒である。Ray-Banスマートグラスとの連携、Discover機能、そして人間の対話リズムを再現しようとするFull Duplex Demoは、いずれもAIを「単なる道具」から「相棒」へと昇華させようとする意志の表れである。

今後、Metaはこの技術をさらに磨き上げ、コンシューマ領域からビジネス用途へと領域を広げていくのか、その進展から目が離せない。

文:岡徳之(Livit