INDEX
国際NGO「国境なき記者団(以下、RSF)」は、2025年版「世界報道自由度ランキング」を発表した。今年の報告書では、報道の自由が世界的に過去最悪の状況にあると警告している。特に、メディアの経済的脆弱性が主要な脅威として浮上しており、報道機関の独立性と持続可能性が深刻に損なわれている。
「世界報道自由度ランキング」とは何か
「世界報道自由度ランキング(World Press Freedom Index)」は、国際ジャーナリスト支援団体「国境なき記者団(Reporters Without Borders/RSF)」が毎年発表している報告書であり、世界180カ国・地域における報道の自由の状況を比較・評価したものである。
RSFは1985年にフランスで設立された国際NGOであり、報道の自由の擁護、ジャーナリストの保護、情報へのアクセス確保を目的に活動している。
同ランキングは、報道の自由に関する5つの主要指標――「政治的環境」「法的枠組み」「経済的条件」「社会的状況」「安全性」――に基づき、各国のジャーナリスト・研究者・人権活動家へのアンケートとRSFが収集する客観的データを組み合わせてスコア化。
世界各国における報道機関の独立性や法制度の整備状況、取材活動への妨害や暴力の発生、メディアへの経済的圧力、社会的分断による言論の萎縮など、多角的に評価されている。
国際社会やメディア界において非常に高い注目を集めており、各国政府への政策提言や民主主義の評価指標としても活用されている。また、報道関係者や研究者にとって、自国および他国の言論環境を相対的に捉える重要な資料である。
世界的な傾向とランキングの概要
2025年のランキングでは、ノルウェーが9年連続で1位を維持し、エストニア、オランダ、スウェーデン、フィンランドと続いている。上位15カ国のうち14カ国がヨーロッパ諸国であり、欧州西部が報道の自由において最も良好な状況を保っている結果に。
ノルウェーが高評価を得ている背景には、強固な法制度と政府からの完全な独立を保つ公共放送、ジャーナリストへの高い社会的信頼、安全な労働環境、そして政治的干渉や経済的圧力がほとんど存在しない点が挙げられる。また、情報公開法などにより市民や記者が政府情報にアクセスしやすく、透明性の高い統治が報道環境を支えている。
一方、最下位層にはエリトリア(180位)、北朝鮮(179位)、中国(178位)、シリア(177位)、イラン(176位)などが位置しており、これらの国々では報道の自由が極めて深刻な状況にある。
RSFは、評価対象となった180カ国のうち160カ国でメディアが経済的困難に直面しており、報道の自由の状況が「困難」と分類されたのは初めてだと指摘している。特に、広告収入の減少、メディア所有の集中化、国家からの支援の欠如が、報道機関の経済的独立性を脅かしている。
経済的脆弱性と報道の自由
RSFの報告書によれば、報道の自由を評価する5つの指標のうち、経済的指標が過去最低の水準に達したという。これは、メディアが財政的に自立できず、質の高い報道を維持することが困難になっていることを示している。報告書は、「経済的独立なしに自由な報道は存在しえない」と強調している。
また、メディア所有の集中化が報道の多様性を損ない、自己検閲を助長していると指摘。例えば、フランスでは8つの大手財閥が全国紙の81%、週刊誌の95%を所有しており、メディアの独立性に懸念が生じている。
地域別の動向
地域別に見ると、欧州西部が報道の自由において最も良好な状況を維持しているが、他の地域では状況が悪化している。アメリカ大陸では、26カ国中22カ国でメディアの経済的健全性が低下しており、アルゼンチンは2年間で47位も順位を下げている。アジアでは、インドが151位と低迷しており、ジャーナリストへの脅迫や暴力が深刻な問題となっている。
日本がG7最下位にとどまる背景

日本は、2025年のランキングで66位となり、前年の70位から4つ順位を上げたものの、G7諸国の中では9年連続で最下位である。RSFは、日本における報道の自由の原則と多様性は概ね尊重されているとしながらも、いくつかの構造的な問題が報道の自由を制約していると指摘している。
政治的・経済的圧力と自己検閲
RSFは、日本の主流メディアが政府や企業からの圧力を受けやすく、特に汚職やセクハラなどのセンシティブな話題に関しては自己検閲が強く働いていると述べている。また、報道機関の経営陣が政治的・経済的な利害関係に影響されやすく、ジャーナリストが監視者としての役割を十分に果たせていない状況があるという。
記者クラブ制度と情報の独占
日本独自の「記者クラブ」制度も、報道の自由を制約する要因である。この制度は、主要メディアに対して政府や官公庁の記者会見へのアクセスを独占的に提供し、フリーランスや外国人記者の参加を制限している。これにより、情報の多様性が損なわれ、報道の独立性が脅かされているとしている。
ジェンダー不平等とメディアの多様性
RSFは、ジェンダー不平等が日本のメディア業界における多様性の欠如につながっていると指摘。女性ジャーナリストの割合が低く、意思決定の場における女性の参画が限られていることが、報道内容の偏りや特定の視点の欠如を招いているという。
結論
2025年版「世界報道自由度ランキング」は、世界的に報道の自由が深刻な危機に直面していることを示した。特に、メディアの経済的脆弱性が報道の独立性を損ない、民主主義の根幹を揺るがしている。
日本においても、政治的・経済的圧力、記者クラブ制度、ジェンダー不平等といった構造的な課題が報道の自由を制約している。これらの課題に対処し、真に自由で多様な報道環境を実現するためには、制度改革と社会全体の意識改革が求められる。
文:岡徳之(Livit)