アメリカ・カリフォルニア州インディオで開催される世界最大級の音楽フェスティバル「コーチェラ・フェスティバル(Coachella Valley Music and Arts Festival)」が、2025年も多彩なアーティストと観客を迎えて開催された。

開催日は4月11日から13日までの第1週と、4月18日から20日までの第2週の2週末。エンパイア・ポロ・クラブを舞台に、音楽、アート、ファッション、政治、テクノロジーが交錯する3日間となった。

2025年のコーチェラでは、いくつかのパフォーマンスがSNS上で爆発的な話題となった。エド・シーランはモハーヴェ・テントでの親密なセットに加え、突如自身のパブ「The Old Phone Pub」からアコースティックパフォーマンスをライブ配信し、来場者とオンライン視聴者を同時に魅了した。

音楽的多様性と驚きのコラボレーション

2025年のコーチェラにおいて際立ったのは、その音楽的多様性である。特にアフリカ大陸からのアーティストの存在感が強まった。

ナイジェリアのRemaとSeun Kuti、南アフリカのTyla、そしてガーナ系アメリカ人のAmaaraeが登場し、それぞれがアフロビーツやアフロポップのリズムでオーディエンスを沸かせた。中でもAmaaraeは、コーチェラ史上初のガーナ人アーティストとして登場し、歴史的瞬間を刻んだ。

さらに、Green DayのBilly Joe ArmstrongがThe Go-Go’sのステージにサプライズ登場し、往年のパンクスピリットを注入。Zeddがロサンゼルス・フィルハーモニックと共演し、エレクトロニックとクラシックの境界を越える挑戦を見せるなど、ジャンルを超えたコラボレーションも観客の記憶に残った。

日本人アーティストの躍進

また、日本人アーティストの存在も今大会では重要な意味を持った。XGは日本人女性グループとして初めてセカンドラインに名を連ね、13日と20日のステージで圧巻のパフォーマンスを披露した。

XGは『AWE』の世界的ヒットとワールドツアーの成功を背景に、グローバルアーティストとしての地位を確立している。彼女たちのステージは、完璧に揃ったダンスとラップで構成され、観客を終始圧倒した。

ファッションの最先端:Y2Kリバイバルとセレブスタイル

ファッション面では、Y2Kスタイルのリバイバルが顕著だった。シースルー素材やローライズボトム、レザーやスカーフの多用など、2000年代初頭のスタイルが会場を席巻していた。

セレブリティの装いも話題を呼んだ。レディー・ガガはヴィクトリアンスタイルの赤い衣装で登場し、メーガン・フォックスはバスティエとチャップスを組み合わせたフェスティバルらしい装いで注目を浴びた。

コーチェラは音楽フェスであると同時に、ファッションの最先端を示すランウェイでもあることを改めて証明した。

政治的メッセージが交錯するステージ

政治的メッセージの発信も今大会の特徴のひとつであった。

アイルランドのヒップホップグループKneecapは、パフォーマンス中にイスラエルに対する抗議を展開し、「Free Palestine」と叫ぶ観客の声を先導した。この発言を受けて、シャロン・オズボーンが彼らの米国ビザの取り消しを求めるなど、フェスティバルの枠を超えて波紋を広げた。

Kneecapのメンバー

また、Clairoのステージには米国上院議員バーニー・サンダースと下院議員マクスウェル・フロストが登場し、アーティストの政治的信念を支持する意志を表明。音楽と政治が交差する場面が随所に見られた。

テクノロジーとサステナビリティ:未来志向のフェス体験

テクノロジーの進化もフェス体験を大きく変えつつある。

2025年のコーチェラでは、バーチャルリアリティ(VR)による視聴体験が導入され、物理的に会場に行けないファンにも没入型の参加機会が提供された。ステージ上の視点からライブを体験できるこの仕組みは、音楽フェスの未来を予感させるものだった。

さらに、再生可能エネルギーを用いたアトラクション「Energy Playground」や、乗り合いによる移動を促す「Carpoolchella」など、サステナビリティへの取り組みも強化された。

チケット販売の停滞と気候変動という課題

一方で、課題も浮き彫りになっている。過去には即完売だったチケットが、2025年は両週ともに完売に至らず、特に第2週の一般入場チケットの販売は伸び悩んだ。

YouTubeでの高品質な無料配信の普及や物価高騰、観客の期待とのギャップがその背景にある。また、高額な飲食費(レモネード1杯で17ドル)など、来場者の体験の質を脅かす要素も存在した。

これに加えて、気候変動の影響も無視できない。今世紀末には85°F(約29.4°C)以上の気温の日数が現在の1.5倍以上に増加するとの研究があり、極端な暑さによる健康リスクや地域経済への影響が懸念されている。

終わりに:進化するコーチェラの行方

総じて、2025年のコーチェラは、音楽と文化の先端を体現する場であると同時に、課題と可能性が共存する複雑な現場であった。

音楽の多様性、テクノロジーの革新、政治的メッセージの発信、そして気候変動への対応など、多くのテーマが交差するこのフェスティバルは、今後さらに進化が期待される。

文:岡徳之(Livit