日本でも社会実装が進む自動運転技術。しかし開発の現場では、安全性の検証や法規対応、そして膨大なテストシナリオの管理といった課題が山積している。イスラエル発のForetellix(フォレテリックス社)は、半導体開発で培った検証技術を応用し、これらの課題を根本から解決しようとしている。2025年5月、同社CEOのZiv Binyamini氏が来日し、日本市場における同社技術の優位性並びに社会実装に向けたアプローチを語った。

近年、AI(人工知能)は膨大なデータから自動で特徴的なパターンを抽出・学習する深層学習(ディープラーニング)技術を契機に、加速度的に進化を遂げている。様々な分野でのAIの活用が研究され、すでに一部は暮らしの中に組み込まれ始めている。なかでも大きな期待が寄せられているのが、AIによる「自動運転」だ。事故・渋滞・移動弱者などの社会課題を解決すべく、早期実装に向け官民一体となった取り組みが進められている。

自動運転は、車両に搭載されたカメラやセンサー等の情報に基づいて、AIが車両操作(アクセル・ブレーキ・ハンドル)をおこなう。AIに操作を任せる度合いに応じてレベル0から5の6段階で設定され、現在は高速道路の渋滞時などの一定条件下で自動操作するレベル3までが実用化済みだ。

現在は自家用・物流・移動サービスにおいて、システムが全ての動的タスクおよび限定領域における介入を担うレベル4(高度運転自動化)の実装に向けた研究、開発が進んでいる。しかし、導入に向けては緊急時を含めた安全性の確保や法的規制またインフラ整備など課題が尽きない。

参照:Foretellix社:「安全に関する一般論」

特に自律走行車(AV)の頭脳ともいうべきAI開発には莫大な費用と開発期間を要する。加えて、予測不能な要因と様々な条件が重なる一般公道での「AIによる判断と操作」には安全性の担保が不可欠であり、膨大な交通状況(ケースシナリオ)の想定と妥当性の検証も含め、AI開発者が最も頭を悩ませるところと言える。

そこに大きなブレイクスルーをもたらそうとしているのが、イスラエルの企業Foretellix社だ。2018年に設立された同社は自動運転・先進自動運転システムや車載ソフトウェアの開発、提供を主業務に、車両・半導体メーカーやスタートアップ企業と手を組みながらAV向けデータの自動化を加速させている。同社は5月21日にデータ自動化ツールチェーン「Foretify」を発表。

Foretellix CEO & Co-founder Ziv Binyamini

CEOのZiv Binyamini氏は、マーケットにおける自社サービスの強みを次のように語る。

「強力なツールであるAIの登場により、AV開発者は開発・学習スピードの高速化という恩恵を受けることができます。しかし同時に交差点での歩行者や自転車、緊急車両、また天候なども含めた予測不能な側面に備えるという重大な課題にも直面しています。

自動運転技術が一般に普及するためには、あらゆる状況において自動運転技術が本質的に安全であることを検証する必要性が極めて重要になるのです。

『Foretify』はデータ駆動型の開発ツールチェーンであり、実際の走行データから有効な走行シナリオを自動的に抽出し、それらを合成シナリオで補強する機能を備えています。また世界的な半導体メーカーNVIDIAとの提携によって膨大なデータに基づいた合成データを生成・活用した結果、特定の運用設計領域において最適な運用安全性レベルに到達する効率が10倍向上することが報告されました。これらの技術によって、開発に要する期間の半減や数億ドル規模のコスト削減が可能になります。」

参照:Foretellix社「Foretifyの圧倒的な生産性」

一方で日本という市場に向けては次のような見方を示した。

「日本は大きなマーケットですが、保守的でもあります。自動運転レベル2までは従来の検証プロセスでも問題はありませんでしたが、レベル3、4と高度になるとソフトウェアの比重が大きくなり、従来のアプローチの仕方を変えないとなりません。この開発手法の変更が最も困難です。

弊社は十分な検証とエビデンスに基づいたデータドリブンな手法を用いるため保守的な日本のマーケットにマッチしていると感じており、既にWoven by TOYOTAを含めた数社との量産開発に着手しています。日本導入に向けては右ハンドル、左側通行のインフラ面が課題。また個人情報保護法が厳しい点について、データ収集の上でどう乗り越えていくかが鍵となります。」

交通事故や慢性化した渋滞や物流ドライバー不足による機会損失など、様々な社会問題を解決する一助として期待が高まる自動運転技術。Binyamini氏は今後に向けての展望も語った。

「物理的な環境で自律的に行動、判断ができるフィジカルAIは自律走行への近道を切り開き、最終的には私たちの生活の質を向上させ、交通事故の減少、経済的な効率、高齢化社会でのドライバーの減少をおぎなうことが期待されています。しかし、実現には、AIの本質的な限界に対処するための、知的かつデータ駆動型のアプローチが必要です。

AI技術は中国とアメリカがリードしており、日本は少し遅れています。しかしニーズは増えており、アメリカの自動運転タクシーサービス『Waymo』が東京でもデータを収集するなど、今後2、3年の間に日本もAIを中心とした社会への変化が見込まれます。交通環境の複雑さとエッジケースに対応するには信頼性の高いテストシナリオを効率的に生成することが求められており、多様で高品質な合成データを提供する能力がこれらの問題を解決する鍵になります。我々のツールチェーンが、イノベーション促進と自動車メーカーや起業家の参入障壁を低減し、自動運転への道を切り開くことを期待しています」

中央:VP Marketing Roger M.H. Ordman 右:日本法人 岡 照治

Foretellixの革新的なアプローチは、日本における自動運転技術の社会実装を一歩先へと進める可能性を秘めている。課題の多いこの分野において、同社の知見と技術が“次の当たり前”を形づくる一助となることが期待される。

文・写真:小笠原 大介