ニュージーランド全土の集乳量の約80%を占めるニュージーランド最大の乳製品輸出会社「フォンテラ」。同社は、温室効果ガスの排出量が最小レベルの「グラスフェッド酪農(牧草を食べて育つ放牧飼育)」を採用し、日本を含む100以上の国と地域にチーズ、バター、乳たんぱく質などを輸出している。

自社での飼育以外に、酪農家を成功に導くデジタルツールを開発して契約酪農家へのサポートも提供。日本に支社を持ち、北海道内での放牧酪農の展開可能性を調査するプロジェクトを実施している。同社の製品はコンラッド東京にも採用され、持続可能性と品質の両面で評価されているという。

2025年2月26日にコンラッド東京で実施された「コンラッド・レーズンサンド」試食会に参加し、「持続可能な放牧酪農の強み」と「日本市場への期待」をフォンテラに聞いた。

フォンテラが強みとする「循環型の放牧酪農」とは

フォンテラでは、ニュージーランドでは中心的な酪農方法である、広大な緑一面の酪農場で乳牛が放し飼いされ、牧草を食べて育つ「放牧酪農」を採用している。ニュージーランドでは、温暖な気候や豊潤な土壌、潤沢な降雨に恵まれ、放牧酪農のための理想的な環境が整っているためだ。

ニュージーランドでは、放し飼いで牧草を食べて育つ「放牧酪農」が中心だという

放牧酪農では、乳牛が牧草地を自由に移動して草を食べ、糞尿は土の中の微生物や虫が分解して土に還っていく。自然なサイクルで土壌が豊かになり、質の良い牧草が生え、それを食べることで健康な牛が育つ。こうしたサステナブルな循環ができることから、放牧酪農は「循環型酪農」と呼ばれている。さらに、放牧酪農には以下4つのメリットがあるという。

①温室効果ガス排出量が最小レベル

酪農においては、補助飼料や肥料が少ないほど温室効果ガス排出量は削減される。フォンテラの契約酪農家における放牧酪農では飼料の96%が牧草であり、温室効果ガス排出量の抑制につながっている。

②生産コストの抑制

牧草を中心とした飼料で乳牛が育つため、穀物飼料購入費は最低限に抑えられる。労働力においても、一般的な舎飼いで発生する餌やりや除ふんなどの作業量が削減される。

③乳牛の健康状態が良い

乳牛は放牧地で自由に動き回ることができる。また、環境由来細菌にさらされる量が少ないため病気にかかりづらく、乳牛に抗生物質を与える必要性が低い。ニュージーランド乳牛の泌乳サイクル(搾乳が可能な回数)は生涯で平均4.5回と生産寿命が長い(参考数値として、米国の乳牛の泌乳サイクルは平均2.8回)。

④豊富な栄養素を含む

一般的に、牛乳にはカルシウム、たんぱく質、ビタミンA、リボフラビン(B2)、ビタミン12などの栄養素が含まれる。放牧酪農によるニュージーランド産の牛乳には、β-カロテンや共役リノール酸、ビタミンDといったその他の栄養素も含まれる。

ニュージーランドは世界の乳製品貿易の27%(約4分の1)を占め、国産乳製品の97%以上を輸出しており、酪農大国と言える。フォンテラは、ニュージーランド全土の集乳量の約80%を占める乳業メーカーだ。

ニュージーランドは、世界の乳製品貿易の27%(約4分の1)を占める
フォンテラは、ニュージーランド全土の集乳量の約80%を占める乳業メーカー

同社では、「世界中の顧客に高品質な乳原料を届けること」と、ニュージーランドの数千戸の酪農家を代表する酪農協同組合として、「酪農家の株主に最高のリターンを提供すること」の2つの事業に注力して、事業拡大を図っている。

契約農家に対しては、酪農家が成功するために必要なリソースや専門知識、サポートを提供。具体的には、情報に基づく意思決定を支援し、生産性・収益性向上を目指すデジタルツールや、情報共有・品質管理等に役立つ3つのデジタルアプリを提供している。

業界初、製品のCO2排出量を把握するシステムを導入

フォンテラは、事業成長と同時にサステナビリティにも本気度が高い。温室効果ガスの排出量から吸収量や除去量を差し引いて「正味ゼロ」とする「ネットゼロ」を2050年までに達成することを目標に掲げて、具体的なロードマップを公表している。

フォンテラは2050年までに「ネットゼロ」の達成を掲げている

2025年のマイルストーンとしては、「フォンテラにミルクを供給するニュージーランドの農場の100%が農場環境プランを持つ」、「世界的な基準に基づいて、2025年12月までに森林破壊につながる可能性のあるフォンテラの主要な関連商品全体で森林破壊ゼロを目指す」、「気候変動関連の初の義務的開示報告書の発行」などを掲げている。

さらに、2030年までに2018年比で温室効果ガスの排出量を50%に削減、2037年までに全拠点において石炭の使用停止といった計画が策定されている。

乳牛の飼育から加工、輸送までの全工程で、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいる

より具体的な施策として、フォンテラの契約農場における温室効果ガス排出量を削減するために、新たなインセンティブ施策を2025年8月に開始すると決定。一定の基準を定め、それを達成した契約農家に対して、2種類のインセンティブを用意している。

また、世界中の顧客がフォンテラから購入するニュージーランド産製品の温室効果ガス排出量を把握できるシステム「NZMP(※)カーボン・フットプリンター」も開発。これには、生産における温室効果ガス排出量に加え、ニュージーランドから世界中の主要目的地に製品を輸送する際に発生する平均的な温室効果ガス排出量の数値も含まれるという。

日本の牧場は約6割が赤字。日本での酪農プロジェクトにも注力

一方で、日本の酪農方法を調べてみると、牛舎での飼育が一般的だ。牛舎の牛房に牛を1頭ずつ繋留して飼う「つなぎ飼い方式」、牛舎の中で乳牛を放し飼いする「フリーバーン方式」、両者の中間的なスタイルの「フリーストール方式」の3種類があるそうだ。

一般社団法人中央酪農会議が2024年12月発表したプレスリリースによれば、指定団体で受託している酪農家の戸数を集計した結果、2024年10月に初めて1万戸を割り9,960戸に。過去5年間で約3,400戸減少し、日本の酪農は生産基盤の危機を迎えているという。

日本の酪農家の個数は、2024年10月に初めて1万戸を割り9,960戸に(出典:一般社団法人中央酪農会議のプレスリリース)

酪農業を営んでいる全国の酪農家236人を対象に、経営状況に関する調査を実施したところ、83.1%の酪農家が「現在の経営環境が悪い」と回答。58.9%が「赤字経営」であり、47.9%が「離農を検討している」と答えた。

経営環境に悪影響を与えている要因は、「円安」(91.8%)がトップ、さらに、「原油高」(68.4%)、「ウクライナ情勢」(67.9%)、「インフレ」(38.8%)、「人手不足」(36.7%)と続いた。

日本の酪農家の約8割が「経営環境が悪い」と回答した(出典:一般社団法人中央酪農会議のプレスリリース)

フォンテラでは、日本でのセールス・マーケティング会社として、先行2社(日本プロテン社とエヌ・ゼット・エム・ピー・ジャパン社)の合併によるフォンテラジャパンを2000年に創業。「粉末製品」「乳脂肪製品」「チーズ」「乳たんぱく製品」、ラクトフェリンなどの「スペシャリティ製品」を扱い、年間販売量は約12万トンにのぼる。さらに、大手乳業メーカーや製菓メーカーなど80社近くとの取引がある。

2014年には、CSR活動の一貫として、北海道内での放牧酪農の展開可能性を調査するプロジェクトを開始。ニュージーランド大使館、放牧酪農のトータルサポートを提供するファームエイジ社、フォンテラジャパンが主体となり、北海道とホクレンも協力している大型プロジェクトだ。

その結果、調査対象になった農家の年間労働時間が2,150時間(約3割)削減され、所得が約3倍になり、日本酪農研究会から「黒澤賞」(最優秀賞に相当する賞)を授与されるといった成果が出ているという。

コンラッド東京でも採用、シェフが語る「製品の魅力」

フォンテラの乳製品は日本企業でも多く使われており、そのうちの1社が「コンラッド東京」だ。同ホテルでは、約10年前から続く「アフターヌーンティ」の盛り上がりもあり、1カ月に約300キロのバターを使用しているという。

コンラッド東京で発売している、フォンテラのバターを使用した菓子製品(筆者撮影)

同ホテルが、フォンテラのバターと出会ったのは2019年。フォンテラジャパンが主催する年1回の製菓・製パン製品開発コンクール「フォンテラグランプリ2019」への参加がきっかけだった。コンクールへの参加にあたり、フォンテラのバターを取り寄せたというコンラッド東京の魚住美恵子シェフは、「想像していた味とは異なり濃厚、かつ口どけが非常にいい」と、その味わいを表現した。

「コンラッド・レーズンサンド」試食会に登壇したコンラッド東京の魚住美恵子シェフ(筆者撮影)

魚住シェフが考案したのは、健康的な乳牛から採れた栄養豊富なフォンテラのバターを活かした、“おいしくて健康的”なお菓子。全粒粉やブラウンシュガーなど他の素材にも配慮してできあがったのが、「コンラッド・レーズンサンド」(6個入り4,000円、2025年3月中の限定発売)だ。

レーズンサンドは甘すぎず上品で、お酒にも合いそうだ。フォンテラのバターを使用した「リッチバニラパウンドケーキ」(写真中央)は、濃厚でリッチな味わいだった(筆者撮影)

コンラッド・レーズンサンドは、オレンジキャラメルソース、ホワイトチョコレート入りバタークリーム、そしてオレンジの皮やシナモンスティックとともにラム酒に漬けたゴールデンレーズンをサブレに挟んだ一品で、「フォンテラグランプリ2019」焼き菓子部門の最優秀賞を受賞した。

レーズンサンドといえば、広く知られた有名商品が存在するが、「甘くて濃厚で1つで満足感が得られる」という同製品とはあえて差別化したと魚住シェフ。「フォンテラのバターは融点が低く口の中に長く残らない。後味がスッキリしていて、フルーツとの相性がいい。異なる要素を持つバターとフルーツが調和して、おいしい仕上がりになったと思う」と商品のこだわりを説明した。

魚住シェフはニュージーランドのフォンテラの農場にも訪れたことがあり、放牧酪農の魅力にも言及した

魚住シェフは、「香りの良さや濃厚さ、味覚を刺激するような黄色味が強い色合いといった商品の魅力に加え、サステナブルな農場経営においても時代をリードするバター」だと、フォンテラの商品の印象を語った。

現代では、豊富な栄養素やサステナブルなど付加価値の高い食品への関心が高まっている。そうした傾向や国内の酪農業が危機を迎えている現状を踏まえると、フォンテラの放牧酪農への注目度は、ますます高まりそうだ。

(※)NZMPは乳原料のグローバルブランド

写真提供:フォンテラジャパン
取材・文:小林香織