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ゲームのメカニズムやデザインを非ゲーム分野に応用することを意味する“ゲーミフィケーション”。日本国内では2011年ごろに導入が進み、ポイント付与やランキング、バッジなどの手法が広まり、一躍脚光を浴びた。
そんなゲーミフィケーションが、今再び注目を集めている。2020年以降、コロナ禍の影響も相まって企業のDX化が進んだ。これに伴い、テクノロジーの発展や顧客体験の向上、社会課題の解決への関心が高まったことが、ゲーミフィケーション再注目の背景となった。
国内にとどまらず世界に目を向けると、ゲーミフィケーションの世界市場(推計基準年:2023年)は、2024年に224億5,000万米ドルに達すると予測されている。今回は、日本のゲーミフィケーション分野で目覚ましい躍進を遂げる、セガ エックスディーの谷英高氏に話を伺った。

- 谷 英高(たに ひでたか)プロフィール
- セガ エックスディー 代表取締役社長 執行役員 CEO。セガにエンジニアとして新卒入社。ソーシャルゲーム事業立ち上げではリードエンジニアとして従事し、後に新規事業立ち上げの開発責任者として複数の新規事業の開発を管掌。スマートフォンゲームの分析基盤の構築・クラウド導入を始めとした社内DXを推進。2016年より株式会社セガ エックスディー(旧クロシードデジタル株式会社)にて従事し、2021年11月に現職。
あらゆる業界で新規ユーザー獲得が難しくなっている時代を生き抜く鍵は“ファン化”にある
2016年8月創業のセガ エックスディー。ゲームをはじめとする多様なエンターテインメントビジネスで培った、セガグループの“感情を動かす”ノウハウを強みに、事業戦略から大規模開発、プロモーションまで手がけ企業課題や社会問題の解決に取り組んでいる。
ゲーミフィケーションが再注目される以前から、この市場で先駆的な実績を積み上げてきたセガ エックスディー。だからこそ見える、日本国内での業界の定着度について、まず話を聞いた。
谷氏「昨年の市場調査によると、一般層におけるゲーミフィケーションの認知度は約16%でした。商品やサービスの開発に携わっている開発者でも、40%程度にとどまっており、再注目されているとはいえ、まだ国内には広く浸透しているとは言い難い状況です。
ただ、これは必ずしも悪いことではありません。日本は海外に比べ、ゲーム産業の歴史が長く、文化として深く根付いています。そのため、ゲームに親しみ過ぎているがゆえに、あえて意識されることが少ないのかもしれません。ゲーミフィケーションをあえて定義しなくても、“日常にゲーム的なエンターテインメントが自然と溶け込んでいる”と感じられる場面が多いのではないでしょうか」
現在のゲーミフィケーションが再熱している理由としては、時代の変化が挙げられるという。
谷氏「かつては、製品を購入する際の決め手はスペックでした。その価値を伝えるためのマーケティング手法も多く存在していました。しかし、近年は市場の成熟に伴い、機能的価値による差別化が難しくなっています。
そうした状況では、別の方法で新たな価値を創出し、それを効果的に伝えていく必要があります。そこで注目されたのがゲーミフィケーションです。2011年ごろに初めに脚光を浴びた当時と比べ、DXという概念が広く浸透したことも、再注目の大きな要因となっていると思います」
機能的価値による差別化が難しくなった現在、新規ユーザーの獲得も一層厳しくなっている。そこで重要になるのが、既存ユーザーにどのように商品を体験してもらい、いかにファンになってもらうかという点だ。そのアプローチとして、ゲーミフィケーションが有効に機能する。
ゲーミフィケーションが生み出す“情緒的価値”──1を100に変える力
ここまでは日本国内の現状を伺ったが、海外ではすでにゲーミフィケーションという概念が広く浸透しているという。では、具体的にどのような成功例があるのか。谷氏に話を聞いた。
谷氏「日本でゲーミフィケーションが脚光を浴びたのは、やはり2011年ごろの海外の影響が大きいと感じます。海外では当時から研究が進んでおり、すでに多くの事例がありました。例えば、Googleマップ。地図は、本来、道が分かれば十分なものですが、Googleマップはそれだけにはとどまりません。ユーザーに情報を編集する権限を与えることで、新たな活用法を生み出し、ファンを獲得しています。また、もう一つの例として紹介するスターバックスもそうです。同社は単に飲料を提供するだけでなく、心地よい空間や接客、さらにはアプリを活用した特別な体験を通じて、ブランドへの愛着を高めています。こうした要素をうまく取り入れることで、ゲーミフィケーションの概念を実践しているのです」

10年以上前から成長を続ける海外でのゲーミフィケーション市場。それに対し、日本市場のポテンシャルはどのように見られているのか。具体的にどのような成功例があるのか、谷氏に話を聞いた。
谷氏「先ほどお話した通り、DXの基盤が整いつつある今、日本のゲーミフィケーション市場も成長が期待できると考えています。ある調査によると現在のグローバルシェアは、北米が40%、アジアが20%ほどです。そのアジアの中でも、中国のシェアが特に高い状況です。そう考えると、日本にはまだ成長の余地があると言えます。
さらに、私が注目しているのは、日本ならではの体験価値です。インバウンド需要の拡大により、日本ならではの体験価値が世界で注目されています。例えば、“おもてなしの精神”をアプリやウェブサービスに取り入れることで、新たなゲーミフィケーションの形を創り出し、それを海外市場へ展開することも十分可能だと考えています」
ここまでの話から、ゲーミフィケーションとDXが密接に関わっていることが見えてきた。では、通常のマーケティング手法とは何が違うのか。改めて確認すると、その対象や狙いが根本的に異なることが分かる。
新規ユーザーの獲得には、まず通常のマーケティングがある程度確立していることが前提となる。一方で、ゲーミフィケーションが強みとするのは“既存ユーザーのファン化”だ。このファン化を促進し、ロイヤリティを高めることで、コスト面でも効率的な成長が可能となる。
谷氏「全ユーザーのうちの2割がその製品やサービスの売り上げの8割を支える、これは“2:8の法則”と呼ばれるものです。つまり、2割ほどの熱心なファンを獲得できれば、企業は安定した事業運営が可能になるのです。
そのため、市場が成熟し、新規ユーザーの獲得が難しくなってきたタイミングこそ、ゲーミフィケーションが最適な手法と考えています。
ゲーミフィケーションは、機能的価値を基盤としながら、そこに“体験価値”を加えるアプローチです。従来のマーケティングでは、他社よりも機能が優れている、味が美味しい、といった機能面の訴求が中心でした。
しかし、ゲーミフィケーションでは、それに加え、体験してよかった、また体験したくなる、といったユーザーの感情に訴えることが重要です。だからこそ、私たちはゲーミフィケーションを“情緒的価値”とも呼んでいます」
ゲーミフィケーションを取り入れることでファンが増え、サービスの解約率が低下し、購入率が向上するといった成果が実際に表れていると谷氏は語る。通常のマーケティングが“0を1にする”ものだとすれば、ゲーミフィケーションは“1を100にも1,000にもする”可能性を秘めた手法なのかもしれない。
セガ エックスディーが提唱する「ゲームフルデザイン」──その可能性と親和性の高い領域
セガ エックスディーは、ゲーミフィケーションを単なる“手法”ではなく、体験そのものを設計する「ゲームフルデザイン」として提唱している。

この「ゲームフルデザイン」を採用した企業やプロジェクトの成功事例として、神奈川県総合防災センターにて実施したゲーム体験型防災訓練『THE SHELTER(ザ・シェルター)』が挙げられる。防災訓練といえば、「やらされている」という受動的なイメージが強いが、体験設計の視点を取り入れることで、「自ら体験しに行きたくなる、防災訓練」へと変化する。

まず、ユーザーを引き込むための工夫として、このポスターに注目してほしい。従来の自治体が提供する文字の多いデザインのポスターとは一線を画し、まるでハリウッド映画のようなデザインに仕上がっている。まずビジュアルで参加者の注意を引き、謎解きゲームのようにストーリー性を持たせることで、世界観へと引き込んでいく。こうしたゲームフルデザインの要素が随所に散りばめられている。
谷氏は「防災士の資格を持った社員がコンテンツを設計しているため、実際に得られる知識の正確性も保証されています」と語る。通常の防災訓練に“自分事化”できるワクワク感やドキドキ感を融合させた、新しい体験のかたちが実現されている。
谷氏「こうした事例に加え、教育やヘルスケア、環境の分野でも、“ゲームフルデザイン”はその真価を発揮すると考えています。特に、継続性やユーザーの行動変容が求められる領域とは相性が良いでしょう。なかでも環境分野は、DXの浸透が十分でないこともあり、現時点では取り組みが少ないのが実情です。しかし、それだけに今後の成長余地は大きいと感じています」
ゲーミフィケーションが商品・サービスのファンを増やし、ビジネスを加速させる
最後に、ゲーミフィケーションを活用し、今後どのように日本市場を牽引していくのか、セガ エックスディーの展望を伺った。

谷氏「ゲーミフィケーションの認知度向上を目指し、昨年市場調査を行いました。しかし、現状ではまだ数字的にもまだまだ低いと感じています。
まずは、ゲーミフィケーションの認知度を高めるために、私たちが業界をリードしていきたいと考えています。また、セガ エックスディーのノウハウを積極的に発信し、企業や社会全体で課題を解決できる環境を築いていきたいですね。ファンになりたくなるようなサービスや商品が増えれば、社会全体がより良いものになっていくのではないかと考えています」
2025年4月11日には、『ゲームフルデザイン「やりたくなる」を生み出すゲーミフィケーションの進化』(翔泳社 著者:伊藤真人)が発売予定。本書では、ゲームフルデザインの考え方や、その実践ノウハウがわかりやすくまとめられている。
ゲーミフィケーションがどのような影響を社会にもたらすのか、気になる人はぜひ手に取ってみてほしい。