AIコンテンツの著作権、「人間の創造性」が中心要件に

生成AIツールを使った画像、動画、音楽などの作品に著作権が与えられるのかどうか。多くの人々が関心を寄せるトピックとなっている。

米著作権局は2025年1月末、AI生成コンテンツの著作権保護に関する包括的な報告書を公開した。1万件を超えるパブリックコメントに加え、現行法や現時点の技術を考慮した見解が示されたものだ。

報告書によると、パブリックコメントの大多数が「完全にAIによって生成された素材は著作権保護の対象外」とする現行法の考え方を支持。一方で、AIが人間の創作プロセスを補助するツールとして機能する場合や、人間がAI生成素材を編集・アレンジする場合の著作権保護については、意見が分かれる結果となった。

著作権局は、この分析結果を踏まえ、AIと著作権をめぐる8つの結論と提言を示している。そのなかで特に重要な点として、AI生成コンテンツの著作権保護には「十分な人間のコントロール」が必要であることを強調。人間の創作性が十分に反映されているケースについては、その作品にAI生成素材が含まれていたとしても、著作権保護の対象となることを明確化した。

具体的には、(1)人間が作成したコンテンツがAI出力に組み込まれている場合、(2)人間がAI生成素材を大幅に修正・編成している場合、(3)人間の貢献が十分に表現的・創造的である場合、といった3つのシナリオで著作権保護が認められる可能性を示している。ただし、これらの判断は個別のケースごとに行われ、人間の創造的貢献の度合いが慎重に評価されるとのこと。

現行法の改正は不要との判断も注目される。著作権局は、現行著作権法の枠組みで、AI時代における著作権保護の課題に十分対応できるとの立場だ。今後は『米国著作権局実務要覧(Compendium of U.S. Copyright Office Practices)』のアップデートを通じて、AIを活用した作品の著作権登録に関する、より明確なガイドラインを提供していく方針という。

一方、著作権局は、今後の技術発展と司法判断次第では、これらの結論を修正する可能性についても言及している。

なぜプロンプト入力だけでは著作権が認められないのか

どのような場合、AI生成コンテンツの著作権が認められないのか。

著作権局は、AI生成コンテンツの著作権判断において、プロンプト(テキストによる指示)の入力だけでは著作権が認められないとの見解を示す。その理由として、現在の技術レベルでは、プロンプトによるAIシステムの出力制御が不十分であることが挙げられている。

報告書によると、プロンプトは本質的に「アイデアや指示を伝える手段」であり、著作権法で保護される「表現」には該当しない。プロンプトがいかに詳細であっても、それはあくまで「こういうものを作ってほしい」という要望を伝えているに過ぎず、最終的な表現の決定権はAIシステムにあるとの判断だ。

この見解を裏付ける例として、同一のプロンプトを入力しても、AIシステムは毎回異なる出力を生成する点が指摘されている。

たとえば、以下のような詳細なプロンプトであっても、出力をコントロールすることは難しいのが現状だ。

米著作権局がグーグルGeminiで作成した画像(2025年1月17日)
https://www.copyright.gov/ai/Copyright-and-Artificial-Intelligence-Part-2-Copyrightability-Report.pdf

プロンプト:

professional photo, bespectacled cat in a robe reading the Sunday newspaper and smoking a pipe, foggy, wet, stormy, 70mm, cinematic, highly detailed wood, cinematic lighting, intricate, sharp focus, medium shot, (centered image composition), (professionally color graded), ((bright soft diffused light)), volumetric fog, hdr 4k, 8k, realistic

(プロンプト訳)

プロのような写真、ローブを着てメガネをかけた猫が日曜新聞を読みながらパイプを吸っている様子。 霧がかかって、湿った、嵐のような雰囲気。 70mmレンズで撮影したような、映画的な質感。 木材の細かいディテール。 映画のような照明効果。 複雑で繊細な表現、シャープなフォーカス。 ミディアムショット(中距離からの撮影)。 画像の中央に主要な被写体を配置。 プロフェッショナルな色調補正。 明るく柔らかな拡散光。 立体的な霧の表現。 HDR 4K、8K品質の解像度。 リアルな質感。

この例では、まず「木材の細かいディテール」という指示が反映されていないこと、また猫に関する詳細なプロンプトがないところに、AIが自身で猫の色やサイズをコントロールしたことなどが見て取れ、人間が完全にコントロールできていないことが示されている。

さらに、著作権局はプロンプトの改良や繰り返しの試行によって望ましい出力を得ようとする「プロンプトエンジニアリング」についても言及。多大な時間と労力をかけてプロンプトを最適化したとしても、それは「創作的な表現」ではなく「目的達成のための試行錯誤」に過ぎないと位置づけている。

AIシステムの内部動作が「ブラックボックス」であることも、プロンプトによる著作権主張を困難にする要因として挙げられている。システムの開発者でさえ、特定のプロンプトがなぜその出力を生成したのか、正確な理由を説明できないケースが多いためだ。

また、テキストから画像を生成する場合や、テキストから音楽を生成する場合など、入力と出力で異なるメディアが使用される場合、プロンプトによる表現のコントロールはさらに困難になる。実際、報告書によると、ある音楽生成AIシステム(Udio)は「どんなに詳細なプロンプトを与えても、実際の楽曲を完全に定義することはできない」と明言している。

Udioによる楽曲生成の説明(2025年2月24日)
https://www.udio.com/guide

このように、プロンプトと最終出力の間には大きな不確実性が存在し、人間の創造的な表現が直接的に反映されているとは言えない。そのため、プロンプト入力のみによるAI生成コンテンツへの著作権付与は認められないというのが、米著作権局の現時点の見解となる。

AIと人間のコラボレーション:著作権が認められる創作パターン

一方、著作権局は、人間の創造性が十分に反映されているケースについては、AI生成コンテンツであっても著作権保護の対象となることを認めている。報告書では、特に「オリジナル表現の入力」と「AI出力の編集・アレンジ」という2つの創作パターンが示されている。

「オリジナル表現の入力」の例として、人間が描いたイラストをAIシステムに入力し、そのスタイルや要素を保持しながら新しい表現を生成するケースが挙げられる。たとえば、手描きのイラストをAIに入力し、写実的な質感やライティングを加えた作品を生成するような場合だ。この場合、元となる人間の創作物の特徴が最終的な出力にも明確に反映されているため、その部分について著作権が認められる可能性があるという。

人間が描いたイラストをAIシステムに入力する事例
https://www.copyright.gov/ai/Copyright-and-Artificial-Intelligence-Part-2-Copyrightability-Report.pdf

この事例のように人間が自身の著作権保護可能な作品を入力し、その作品が出力物において認識可能である場合、少なくともその部分については入力した人間が著作者になると、著作権局は明言している。

また「AI出力の編集・アレンジ」については、Midjourneyなどの画像生成AIが提供する「Region Edit」や「Remix」などの機能を活用した創作プロセスを例示。これらの機能を使用することで、生成された画像の特定の領域を選択して再生成したり、複数の生成結果を組み合わせたりすることが可能となる。このように人間が細かく出力をコントロールし、創造的な判断を重ねることで、著作権保護の要件を満たすことができるとの見解だ。

プロンプトの入力だけの場合と異なり、これらのツールを使用することで、ユーザーは個々の創造的要素の選択と配置をコントロールすることが可能となる。そのような修正がFeist判決で求められる最低限の独創性基準を満たすかどうかは、ケースバイケースで判断される。基準を満たす場合、その出力は著作権保護の対象となる。

ちなみにFeist判決(1991年)とは、米国の著作権法において「最低限の創造性」要件を確立した重要な最高裁判例だ。同判決では、事実やデータそのものは著作権保護の対象にならず、また単なる労力や時間の投資だけでは不十分であり、何らかの創造的な表現が必要だと判示された。

報告書はさらに興味深い事例として、障がいを持つクリエイターの創作活動におけるAI活用を取り上げている。たとえば、グラミー賞受賞アーティストのランディ・トラビス氏は、脳卒中後の発話機能の制限を抱えながら、特殊なAI音声モデルを活用して新曲を制作。人間の声を入力として使用し、AIをツールとして表現を実現した事例として、著作権が認められた。

報告書は、このようなAIの「創作支援ツール」としての使用方法を積極的に評価。人間の創造性を拡張し、新しい表現を可能にするツールとしてAIを位置づけることで、著作権保護と技術革新の両立を図る姿勢を示している。

今後の展望として、AI技術の進化に伴い、人間とAIの協働による創作の形態がさらに多様化することが予想される。そのため著作権局は、技術動向を注視しながら、必要に応じて判断基準の見直しを行う方針だ。ただし、その際も「人間の創造性」を中心に据えた基本的な枠組みは維持される。

文:細谷元(Livit