DeepSeekの台頭で金の無駄遣いとの批判も、OpenAIの75兆円「Stargateプロジェクト」の意義とは

OpenAIが2025年1月に発表した大規模なAIインフラ投資計画「Stargateプロジェクト」が大きな波紋を呼んでいる。

このプロジェクトは、OpenAIが、ソフトバンク、オラクル、MGXと共同で、今後4年間で総額5,000億ドルを投じ、AIインフラを米国内に構築するというもの。同社CEOのサム・アルトマン氏は、ドナルド・トランプ大統領とともにホワイトハウスに登壇。「これは我々の時代における最も重要なプロジェクトとなる」と述べた上で、数十万人規模の雇用創出にもつながると、同プロジェクトの意義を強調した。

しかし、このプロジェクトを巡り、賛否両論が巻き起こっている。同じ週に中国のDeepSeekが公開した「DeepSeek R1」が、OpenAIの最新モデルと同等以上のパフォーマンスを、わずか3%のコストで実現したと報じられたためだ。このモデルはMITライセンスの下で公開され、商用・非商用を問わず自由な利用が可能となっている。

DeepSeek R1の登場が提起するのは、将来的にこれほどのコストをかけてAIインフラを構築する必要があるのかということ。テクノロジー評論家のアルノー・ベルトラン氏は、「OpenAIの顧客は、一体何に対してお金を払うことになるのか。莫大な資金をデータセンターに費やしたというだけでは、顧客にとってのメリットにはならない」と指摘。さらに、DeepSeekの成功は、規模ではなくイノベーションと機敏性が現代のAI進歩の鍵であることを示していると論じる。

一方、こうした批判は、直近のAIモデル開発コスト低下を論拠とするところが大きく、将来的なAI需要の拡大やそれに伴うAIインフラ需要の拡大を十分に考慮したものではない点には留意が必要となる。長期的かつ米国と同盟国の国益・安全保障の観点から見ると、このプロジェクトには大きな意義があるとの主張も存在する。

AI評論家のデービッド・シャピロ氏は「米国はStargateプロジェクトにより、今後50年の地政学的優位性を確保した」と評価。マンハッタン計画やNASAのアポロ計画に匹敵する歴史的な取り組みになると論じている。

2030年に向けたAI需要予測、米国人口の7割がAIを日常利用へ

今後AI需要がどれほど拡大するのかを鑑みると、Stargateプロジェクトが米国に何らかの恩恵や優位性をもたらす可能性は低くないように見える。

Statistaのまとめによると、米国のAIユーザー数は2025年の約1億3,300万人から、2030年には約2億4,150万人に到達する見通しだ。これは米国人口の70%以上に相当し、毎年数千万人規模でAIユーザーが増加することを意味する。

消費者市場では、AIアシスタント、生成AI、スマートデバイスなどの普及が加速。2025年だけでも、世界の新規AIユーザーの3分の1を米国が占めると予測されている。法人市場においても、AIの導入は急速に進んでいる。IDCの2023年末時点の調査では、企業のリーダーのうち、すでにAIを活用していると回答した割合は71%に上ったことが判明。またデロイトの最新調査(2024年第4四半期)では、78%の企業が次年度のAI投資を拡大する意向を示し、また生成AI関連の予算も増額傾向にあることが明らかになった。

実際の活用シーンも多岐にわたる。研究開発分野では、データ分析やシミュレーション、新薬開発などでAIの活用が一般化。2030年までには、気候変動モデリングなど、科学研究の標準ツールとしての地位を確立する見込みだ。また、AIが産業界の中核的なワークフローに組み込まれることで、数百万人規模の米国労働者が、意思決定支援や自動化などの場面でAIツールを日常的に使用するようになると予測されている。

AI需要の成長率は、年間10〜20%以上という高水準を維持すると予想される。2025年から2030年にかけての米国におけるユーザー数の増加(約1億3,300万人から約2億4,150万人)は、年平均成長率で約13%、5年間の総増加率では約80%に達する。企業のAI導入率は2010年代後半から約2〜3倍に増加、またユースケースも増えており、この先も需要増加傾向は続くと予想される。

こうした急成長の背景には、クラウドAIサービスの充実や既製モデルの普及により、AIの導入障壁が低下していることがある。また、AIがもたらす効率化、コスト削減、意思決定の質的向上といった具体的なメリットが、さらなる普及を後押ししている。AIは2030年までに、スマートフォンやインターネットに匹敵する普及率を達成すると見られている。

さらに生成AIのロボットへの導入も進む可能性が高く、上記の予想を超える需要が生まれるシナリオも考えられる。またStargateプロジェクトなどによりインフラが整い、導入障壁がさらに下がることで、AI活用をさらに後押しする好循環が生まれるシナリオも想定される。

AIインフラ投資競争が本格化、メタが2,000億ドル規模の新設計画

DeepSeek R1は、AI開発コストが低下している状況を物語る事例の1つだ。

しかし今後のAI需要拡大を想定した場合、より重要になるのは運用をどうするのかということ。特に処理するトークン量が通常よりも多くなる、OpenAIのo3やDeepSeek R1のような推論モデルの利用が拡大するとなれば、AI運用向けのインフラ拡張は急務の課題といえる。

実際、この状況を先読みしOpenAIのほかにも、さまざまなプレイヤーが本格的に動き始めている。

The Informationが2025年2月末に報じたところでは、メタは最大2,000億ドル規模のAIデータセンターキャンパスの建設を検討しているという。ルイジアナ州、ワイオミング州、テキサス州などが候補地として挙がっており、同社の幹部陣が今月、候補地の視察を行ったという。ザッカーバーグCEOは、2025年だけで、AIインフラ拡張に最大650億ドルを投じる方針を明らかにしている。

アリババも、今後3年間で約524億ドル(3,800億人民元)をクラウドコンピューティングとAIインフラに投資する計画を発表。単一の民間企業による中国最大規模のコンピューティングプロジェクトとなる。この投資額は、同社が過去10年間でAIインフラに投じた総額を上回る規模だ。エディ・ウー・ヨンミンCEOは、直近のアナリストとの電話会議で、今後3年間でAIとクラウドコンピューティングインフラに「積極的な投資」を行う意向を示していた。

AIインフラの拡大には、電力供給能力への投資も必須となる。

グローバルなデータセンターの電力需要は、2023年の約60ギガワットから2030年には171~219ギガワット(中位予測)まで3倍以上に増加する見通しだ。高成長シナリオでは約298ギガワットに達する可能性もある。2030年には、データセンター需要の約70%がAIワークロードによって占められる可能性も指摘されている。

文:細谷元(Livit