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リンクトイン調査が示すIT人材不足の実態
トランプ新政権が5,000億ドルに上るAI投資計画を発表し多くの注目を集めた。これに続き、フランスも2025年2月10日、1,120億ドルに上るAI投資計画を明らかにするなど、AI巨額投資のドミノ効果が始まりを見せている。
こうした国家主導の巨額投資は、ChatGPTの登場以来すでに大きな影響を受けている労働市場の需給バランスにさらなる変化をもたらす可能性がある。
実際、リンクトインの最新調査(2025年1月23日発表)では、最も需要の高い職種ランキングにおいて、ソフトウェアエンジニアが初めて営業職を抜いてトップに躍り出たことが明らかになった。同ポジションは、前四半期から1ランク上昇。これまで5四半期連続で首位を維持してきた営業職を2位に退けた。
またソフトウェアエンジニア需要は、前四半期比で5倍という大幅な伸びを示していることも判明。同様にITコンサルタントは9倍、ITアナリストも5倍と、テクノロジー関連職求人は軒並み大幅に増加の様相となっている。ITコンサルタントの前四半期比9倍という伸び率は、ソフトウェアエンジニアを大きく上回る。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進において、戦略立案から実装までを一貫して支援できる人材のニーズが高まっていることが背景にある。
また、電気エンジニアも前四半期から47ランク上昇し、7位にランクイン。この躍進は、AI時代における半導体需要の高まりや、データセンターの拡充需要を反映したものとみられる。さらに、機械技術者の求人も前四半期比8倍に増加。製造業のスマート化や自動化の進展に伴い、IoTやロボティクスの知見を持つエンジニアの需要が拡大している状況が示唆される結果となった。
リンクトインは、2025年の人材市場トレンドとして、AIが代替できない対面業務とテクノロジー人材の二極化が鮮明になると指摘。営業職や顧客サービス担当者などの人的接点を重視する職種と、ソフトウェアエンジニアや電気エンジニアといったテクノロジー職の需要が、今後も継続的に高まる見込みという。
この調査は、2024年7月から12月までのリンクトインにおける有料求人情報を分析したもので、各四半期で1,000件以上の求人があり、かつ単一企業からの求人が過半数を超えない職種を対象としている。
高水準が続くIT人材の給与、データエンジニアは年収2,700万円以上も
IT人材需要の急速な高まりに供給は追いついていないようだ。ロバート・ハーフ・テクノロジーの最新調査では、IT人材給与の高止まりが確認された。
たとえば、米国のデータエンジニアの給与は上位25%で年間17万9,500ドル(約2,726万円)に達する。中央値でも15万4,000ドル(約2,338万円)と、調査対象職種の中で最も高い水準となっている。
データエンジニアに続いて高給なのが、シニアソフトウェアエンジニアだ。上位25%で17万7,250ドル(約2,619万円)、中央値で14万7,500ドル(約2,240万円)という水準。シニア未満のソフトウェアエンジニアは、上位25%で15万3,000ドル(約2,323万円)、中央値で13万750ドル(約2,005万円)となっており、経験値による給与格差も明確となった。
ロバート・ハーフは、IT人材市場において今年は興味深い変化が見られると指摘。昨年は49%の専門職が積極的に転職活動を行っていたのに対し、今年はその割合が35%まで低下したという。これを裏付けるように、必要人材の確保に苦心していると回答したIT採用担当者の割合は90%に上る。この状況を受け、企業の60%がAI、機械学習、セキュリティ、プライバシー、コンプライアンス、ソフトウェア開発などの分野で契約社員の活用を増やしていることも判明した。
職種別の必要スキルを見ると、データエンジニアに求められる言語・知識としては、マルチクラウドコンピューティング、データ可視化、機械学習、AI、NoSQLの経験に加え、Python、Ruby、Apache Spark、Rustなど挙げられている。また、自動化、スクリプティング、エンタープライズアーキテクチャの理解も重要度が高まっているという。
一方、ソフトウェアエンジニアには、C#、C++、Javaなどのプログラミング言語と.NETフレームワークの経験が求められる。さらに、ハードウェアとソフトウェアの統合テストのためのチーム間連携能力や、ソフトウェア仕様書の作成経験も重要な要件となっている。
米国IT人材市場、高まる技術職への教育投資の重要性
ロバート・ハーフの調査では、IT人材の転職活動低下が報告されているが、その理由の1つとして考えられるのが、企業による既存人材に対する手厚い学習機会の提供だ。
Skillsoftの「2024 IT Skills and Salary Report」でその一端を垣間見ることができる。
まず、IT分野におけるスキルギャップを感じているという経営層の割合は65%に上る。この課題への対策として、最も割合が高いのが「既存の人材を育成する」(72%)という選択肢だ。72%という割合は、新たに高度スキル人材を雇う(38%)、AIで代替する(30%)、外部コンサルタントを起用する(27%)など、他の選択肢を大きく上回る。

https://insight.skillsoft.com/it-skills-and-salary-report/p/1
理由はいくつかある。その1つとして、上記ロバート・ハーフの調査でも指摘されているように、新たに高度スキル人材を雇用するのが困難になっている状況が挙げられる。
また既存人材の育成が多くの利点を生むことも企業の人材育成取り組みを加速させる理由だ。Skillsoftの調査では、経営層の60%が人材育成の取り組みでチームの士気が高まった、55%が生産改善につながった、さらに49%が人材維持率と顧客満足度の向上につながった、など多くの恩恵を報告しているのだ。
こうしたポジティブな側面が寄与し、72%の企業が既存人材に対しトレーニング機会を提供、またトレーニングを福利厚生の一環として提供している割合も62%に上る。
経営層による教育投資に関するROIも認識されており、手厚い学習機会を提供するという傾向は今後も続く可能性が高い。資格保有者による付加価値を年間3万ドル(約455万円)以上と見積もるIT部門意思決定者の割合は22%、1万5,000〜1万9,999ドルは12%、1万〜1万4,999ドルが14%という具合だ。

https://insight.skillsoft.com/it-skills-and-salary-report/p/1
人材育成の具体例には、オンデマンド動画学習コンテンツによる資格学習機会の提供などが含まれる。注目される資格としては、サイバーセキュリティの基礎を網羅する「CompTIA Security+」、情報セキュリティの国際的な上級資格「CISSP(Certified Information Systems Security Professional)」、AWSクラウドの基礎知識を証明する「AWS Certified Cloud Practitioner」、CompTIAが提供するネットワーク技術の基礎資格「Network+」などが挙げられている。
一方、社員視点では、スキル学習における課題も浮き彫りとなった。回答者(社員)の41%が予算不足を指摘し、28%が業務量の多さを、同じく28%が個人的な時間的制約を挙げている。また、24%が研修のための出張が困難と回答するなど、オンラインやハイブリッド形式の教育プログラムに注目がシフトしている状況も判明した。
今後はこれらの課題にどう対応していくかが、企業の競争力を左右する重要な要素となりそうだ。
文:細谷元(Livit)