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アメリカの調査会社YouGovが「Value Brand Ranking(価格に見合う価値があるブランドランキング)」を発表した。40セクター、2,000以上のブランドにわたりアメリカの消費者マインドを調査した結果は、パンデミック以前のレベルへと経済が堅調に回復しつつあり、インフレが続く状況にもかかわらず個人消費の伸び率がG10各国首位のアメリカの現状を映し出すものとして注目されている。
アメリカの消費者意識
深刻なインフレが続いているアメリカ。今回の調査で「過去6カ月に価格上昇を最も感じたもの」として男女ともに8割の人が回答した食品が1位となった。第2位の家庭用品については女性が6割、男性は5割弱が回答したことからも、食品価格の高騰がいかに深刻であるかが伺える。
この食品価格の高騰に関する回答で興味深いのは年齢別分析で、65歳以上では91%、55~64歳は88%と年齢層が下がるごとに数値も下がり、18~24歳では70%という数字となったこと。2024年のインフレは、年齢が高くなるほどに深刻に感じられているようだ。
なお、こうした中でも11月の調査実施時点で、この先12カ月の展望は明るいと答えた人が54%と半数を超えている。トランプ次期大統領が当選確実となったのが11月5日であることを鑑みても、この結果は新政権への期待が多少なりともあることが見られる。
業種別消費者心理

このValue Brand Rankingは、業種ごとに「最も価値がある」ブランドと「最も価値がない」ブランドを選択し、スコア化したもの。
同時に調査された業種別の「価値」では、ホーム&パーソナルケア用品(業界平均15.6)が最も高い評価を得ており、食品(13.4)、医薬品(12.1)と続いた。
また2023年と比較して2024年に評価改善が見られた業種は自動車が第1位(2.6ポイント上昇)、続いてケーブルテレビ・配信サービス(同2.1)、航空会社(1.9)、ビデオゲームシリーズ(1.8)、ギャンブル(宝くじを含む)、消費者向け銀行、ファッション、ホテル・宿泊、家電、旅行というランキングになった。
総合ブランドランキング
総体的に、最も価値があるとされたブランドはAmazon(スコア59.0)、次いでヘアケア・スキンケアブランドのダヴ(同46.0)、家庭用洗剤などのダウン(同46.0)、Amazonプライム、スキンバームのヴァセリン、サムソン、ホームセンターチェーンのホームデポ、トヨタ、ウォールマート、アメリカのリフォームと生活家電チェーンのロウズがトップ10という結果になっている。

Amazonが評価された理由を分析すると、第1位は配達のスピード、2位がバラエティ豊かな品ぞろえで、それぞれ70%前後の人が価値ある理由と回答。次いで会員特典(Amazonプライム)、第4位が価格、信頼性、配送料、返品のしやすさ、レビュー、定期購買によるディスカウント、という結果であった。
消費者が思う価値
また前年(2023年)と比較して、よりお得になったと感じたブランドの調査では、第1位がNike、続いてRolex、Amazon、グッチ、FIFA(ビデオゲーム)、ディズニーランド・ディズニーワールド、暗号通貨のCript.com、バンクオブアメリカ、eBay、メルセデスベンツがトップ10の顔触れ。カジュアルな価格の生活密着型のものから、高価格の奢侈品までバラエティ豊かなのが特徴的だ。
お得感の増したNikeは2024年、売り上げの落ち込みと共に株価の急落などを受け、ブランドの危機的状況が報道された。また、同年2月には小売店での大幅割引が報道されており、平均して44%の割引、2022年と比較すると19.4%もの割引率の上昇が見られたことが、消費者にとって「お得」なブランドであるとダイレクトに感じられたのだと予測される。

また、高所得層と低所得層で評価が大きく分かれる業種も存在している。コストコは高所得層で24.3ポイント高い評価を獲得した一方で、宝くじのパワーボールは低所得層で20.8ポイント高い評価を得ている。高所得者グループでランクインしたコストコ(第2位)、トヨタ(第3位)は低所得グループでトップ10入りしておらず、代わりに医薬品メーカーのバンドエイド(第9位)、スーパーマーケットのAldi(第10位)がランクインし、中間所得層ではトヨタ(第5位)、Aldi(第9位)がトップ10入りしている。
業種別ベストとワースト詳細
今回の調査では26の業種別にベスト5、ワースト5も発表されている。
自動車部門では、第1位がトヨタ、2位がホンダ、3位スバルと続き、残りはアメリカのシボレー、フォード。ワースト1位がテスラ、次いでジャガー、アルファロメオ、ポルシェ、トライアンフというランキングでベストのトップ3を独占したのは日本のメーカーとなった。

ファストフード・クイックサービスレストラン部門では、トップにドミノピザ、次に2004年に日本を撤退したアイスクリームのデイリークイーン、人気ファミリーレストランIHOP、デニーズ、アメリカで業界第3位のピザチェーン Little Ceasars という顔ぶれで、ワースト1位がスターバックスであった。
唯一のマイナスポイント(-12.5)をつけたスターバックスは、第2位のファストフードLong John Silver’sの+0.2ポイントと大差でのワースト1位となった上、この業種で唯一のマイナスポイント。
CNNの報道によると、2024年第2四半期にスターバックスは世界規模で3%の売り上げダウン、北米では2%のダウン(開店1年未満の店舗を除く)を記録。同社初の四半期2連続でのダウンを記録し、その原因の一つは高価格にあると指摘されている。
現在北米の9,500軒あまりの直営店で、売り上げの70%がドライブスルーとモバイルオーダーとなっているスターバックスは、着席式のカフェからドライブスルーやモバイルオーダーへとシフトしたことで他のドライブスルー式チェーンとの競争が激化。しかもホットコーヒーよりも、アイスコーヒー、紅茶、レモネードが売り上げの大半を占めるという状況。
同社は顧客の奪回戦略として、5~6ドルの飲み物と軽食のセットメニュー販売や、オペレーションを効率化させてコールドドリンクの出来上がりまでの待ち時間の縮小などを試みている。

ファッション部門では、GAPの姉妹ブランドOld Navyが第1位、続いてリーバイス、フルーツオブザルーム、ヘインズ、スケッチャーズと日本でもなじみのあるブランドが揃い。ワーストでは第1位がルルレモン、Abercrombie & Fitch、デビアス、ジミーチュー、ルブタンが挙げられた。ファッション部門でベストと評されたブランドは、普段着やカジュアル、Tシャツがメインのブランドであるのも興味深い。
家電ブランドのランキングは、サムソン、LGと韓国ブランドがベストの上位を占め、アメリカブランドのWhirlpoolとKitchenAid、MAYTAGが続く。個人用電化製品でもトップ2はサムソン、LG、第3位がSony、続いてRoku、HP。ワーストではワイヤレスイヤホンで知られるBeats by Dre、3DビジョンのApple Vision Pro、コンピュータウィルス対策のMcAfee、スマートリングのOura、ファーウェイの順となったが、この業種ではワースト1で0.0ポイントと、マイナス評価ではない。
ケーブルテレビおよび配信サービスでは、Netflixがベスト1、Amazonプライムビデオ、Hulu、Rokuチャンネル(日本では未配信)、Paramount+が続いた。
食品でのランキングはオートミールメーカーのQuakerがトップ、続いてキャンベル(スープをはじめとする缶詰)、日本ではチーズで知られるKraft、シリアルのCheerio、ケーキや菓子パン生地を主に販売するPillsburyがベスト5となった。一方でワースト5には1位2位に植物由来の食品メーカー、3位が肉のデリバリー会社という内容。植物由来食品・肉の先進国とされるアメリカならではのランキングと言える。

食料品店のランキング、トップ5はAldi、Kroger、Trader Joe‘sなどがランクインし、ワーストの1位はオーガニック食品を取り扱うことで知られるホールフーズ・マーケット、続いてセブンイレブンというランキングに。
菓子メーカーのランキングでは、チョコレートのM&M’S、続いてリッツ、Hershey(チョコレート)、オレオ、スニッカーズがベストで、グルテンフリーチョコレート、天然成分の菓子、栄養補助食品、ビーフジャーキーのブランドがランクイン。ビーフジャーキーを除けば、機能性食品ともいえるブランドがワーストに選出されるほどに、アメリカ人の生活に密着しているようだ。
ノンアルコール飲料部門では、紅茶のリプトン、クランベリージュースのOcean Spray、缶入りアイスティーメーカー、ぶどうジュースのWelch’s、コーヒーブランドのFolgerが価値あるベストに選出され、ワーストではエナジードリンクのブランドが4つと、スターバックスの瓶入りフラペチーノが挙がった。
旅行に関するランキングでは、オンライン予約サイトが上位3つを占め、残り2つはレンタカー会社。ワースト1位は2023年10月に入場料の値上げをしたディズニーランド・ディズニーワールド、2位以下はクルーズ会社が占めている。

ホテルおよび宿泊施設は、手ごろな価格帯が売りのホリデイ・イン エクスプレス、ホリデイ・インが1、2位で、以下全てリーズナブルでカジュアルなホテルグループに。価値がないとされたホテルはトップがトランプホテル、続いてヒルトン系最高級ブランドのウォルドルフアストリア、シャングリラ、リッツカールトンと名門ホテルのラインナップに加えてアメリカで1,450超のモーテルを有するMotel6という結果であった。
トランプホテルは高級路線であることに加え、トランプ政権とリンクしたネガティブイメージでワースト1に選出された模様で、他の高級ホテルは価格と価値が釣り合わないと感じた消費者のスコア。Motel6は平均60ドル以下の価格設定で宿泊業界ではアメリカ経済のキープレイヤーであるにもかかわらず、清掃や設備、Wi-Fi、サービス面での苦情が多いことからランクインしたと見られる。
オンラインブランドでは、Amazon、Amazonプライム、eBay、Spotifyと続き、デジタルヘルスケアサービスのGoodRxと合わせてベスト5、ワーストはコンサートチケット販売のTicketmaster、2位からはマッチングアプリが3社、第5位はオンラインフードデリバリーのGrabhubとなった。

調査結果をもとにYouGovアメリカVPのBrello氏は、ラグジュアリーブランドが手ごろな価格のブランドとランク入りしていることを指摘し、「お得であることは価格がすべてではない」とコメント。特に高所得層では「ブランドの価格と品質、市場での印象を天秤にかけていることを示している」と分析している。
堅調な個人消費を背景に、物価上昇が止まらないアメリカ。新政権のスタートが近づく中で、これからの消費者感情がどのような変化を見せるのか。世界一の輸入国アメリカで、新たに追加関税導入を示唆している新政権の動きと共に注目したい。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)