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東南アジアの給与、2025年は軒並み5%以上の上昇へ
東南アジアの給与水準は、2025年に一段と上昇する見込みだ。専門サービス企業Aonが2024年7月から9月にかけてインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの950社以上を対象に実施した調査で、2025年の給与上昇率が2024年を上回る結果が示された。
国別の2025年給与上昇率予測を見ると、ベトナムが6.7%と最も高く、これにインドネシアが6.3%、フィリピン5.8%、マレーシア5.0%、タイ4.7%、シンガポール4.4%と続く。業種別では、テクノロジーと製造業が5.8%と最も高い上昇率を見込んでおり、小売業、コンサルティング、ライフサイエンス分野がそれぞれ5.4%上昇するという。このほか、エネルギー業界は4.9%、金融サービスは4.8%、運輸業は4.1%などとなっている。
この調査では、東南アジアにおけるテクノロジー人材需要の高まりが注目されている。Aonのタレントアナリティクス部門ディレクターを務めるチェン・ワン・フア氏がCNBCに語ったところによると、東南アジアは多くのテクノロジー企業にとってサンドボックス(実験場)となっており、特にシンガポールでは多くの企業が拠点を開設しているという。
人材の確保・維持が、アジア太平洋地域の企業経営における最重要課題の1つとなっていることも浮き彫りとなった。Aonのグローバルリスクマネジメント調査によると、「優秀な人材の確保・維持」は、企業が直面するリスク要因のランキングで、2021年の9位から2023年には4位まで上昇。この背景には、デジタル化の進展や新興産業の台頭により、専門性の高い人材の需要が急増していることがある。企業間での人材獲得競争の激化は、東南アジア各国で給与水準を押し上げる主な要因となっている。
ベトナムの給与事情、その詳細
東南アジアで最も高い給与上昇率が見込まれるベトナムの給与水準は、2024年第1四半期時点で月額平均900万ベトナムドン=VND(約5万6,000円)。低コストの労働力と高学歴の労働者層、そして起業家精神を支援する政府の姿勢により、IT、製造業、BPOアウトソーシング企業にとって理想的な環境を生み出している。
ベトナムの給与体系の特徴として、年間ボーナスとして13カ月目の給与が支給されることが一般的だ。加えて、旧正月(テト)前には、給与1~3カ月分に相当するテトボーナスが支給される。職種別では、会計、カスタマーサービス、事務職が最も低い給与帯となる一方、IT、銀行、金融サービス、土木、マーケティングが最も高い給与帯を形成している。
IT分野の給与水準は平均を大きく上回る。たとえば、6年の経験を持つバックエンドデベロッパーの月給は3,560万VND(約22万円)。同じく6年の経験を持つフロントエンドデベロッパーは3,050万VND(約19万円)、フルスタックデベロッパーは3,635万VND(約22万円)、7年の経験を持つモバイルデベロッパーは4,010万VND(約25万円)と平均よりも4〜5倍以上高い水準となっている。
過去の産業別給与上昇率を見ると、コロナ禍の影響を受けた2020〜21年において、旅行業界が1%、銀行業界が2%、建設業界が3%と低迷する一方、IT業界は6%、ヘルスケア業界は8%と高い上昇率を示していた。特にIT業界の人材需要は旺盛で、米国の開発者が時給100ドル、ポーランドの開発者が時給35~55ドルであるのに対し、ベトナムではトップクラスの開発者でも時給20~40ドルと、コスト競争力はかなり高い。
ベトナムのIT・ソフトウェアアウトソーシング産業は、東欧と比べて50%、インドと比べて30%低いコストを実現。大手コンサルティング企業カーニーの2021年グローバルサービスロケーションインデックスでは、ベトナムはコスト面での魅力度で世界6位にランクインし、マレーシアやタイなどのアジア諸国を上回る評価を獲得している。
テック人材は平均の2〜3倍稼ぐ、インドネシアの給与事情
東南アジア最大の国インドネシアの月額給与は、平均320万ルピア(約3万1,000円)。低コストの労働力を背景に、人気のアウトソーシング拠点として地位を確立しており、顕著な経済成長を達成している。
ベトナムと同様に、IT分野の給与水準は平均を大きく上回る。たとえば、首都ジャカルタにおけるフルスタックエンジニアの月額給与は、600万〜1,050万ルピア(約5万8,000〜10万円)と平均の2〜3倍の水準にある。フロントエンドエンジニアもほぼ同じ水準となっている。
給与に関してインドネシアでは最低賃金の引き上げが発表されたばかりで、今後全体の水準もさらに上昇していくことが見込まれる。
2024年11月末、同国プラボウォ大統領は、2025年の最低賃金を6.5%引き上げると発表。これは、2020年の雇用創出法の改正を命じた憲法裁判所の判決を受けたもの。スビアント大統領は記者会見で、この引き上げについて「企業の競争力を考慮しながら、労働者の購買力を向上させることを意図している」と説明した。
ベトナム、インドネシアと若干異なるタイの状況
タイは2025年に4.7%の給与上昇が見込まれているが、国内の労働市場は、ベトナムやインドネシアとは若干異なる様相を呈している。Aonによると、タイの人材は他国に比べ英語力が相対的に低く、国内市場にとどまる傾向がある。このため国際的な人材獲得競争の影響を受けにくく、賃金上昇圧力も比較的低い状況が続いているという。
首都バンコクにおけるソフトウェアエンジニアの給与は、月額4万〜8万バーツ(約18万〜36万円)とベトナムやインドネシアに比べ若干高い水準となる。
地元紙バンコク・ポストが伝えたマーサーの調査によると、2024年はタイ企業の99.8%が給与引き上げを実施し、2025年は調査対象企業の100%が引き上げを予定していることが判明。給与上昇に影響を与える主な要因は、個人の業績、給与レンジ、企業のパフォーマンス、労働市場における競争力など。調査対象企業の91%が賞与などの短期インセンティブ制度を導入。また、ストックオプションなどの長期インセンティブを提供する企業の割合も、2023年の78.9%から2024年には80.7%に増加していることが明らかになった。
文:細谷元(Livit)