2050年までにチョコレートが食べられなくなる? 温暖化の影響を受け生産可能になった世界のエリアもーーこの先、生き残るのは誰か

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世界的に最もファンが多いスイーツといえばチョコレートだろう。2024年初め、原料のカカオ豆の収穫が減少し、価格が急騰。記録的な数字となって以来、高価格は依然として続く傾向にある。チョコレート菓子の価格への転嫁も見られ、チョコレートが高嶺の花になってしまうのではないかという、消費者の悲鳴も聞かれる。

しかし、今後も今まで通りチョコレートを楽しめるようにと、各分野で取り組みが始まっている。カカオ豆の生育・収穫方法の改善、栽培農家への支援、生産地の見直し、カカオ豆の代替品の採用などが行われている。世界で最も愛されるスイーツは、今後もその地位を維持できるだろうか。

高価格でカカオ豆の加工がストップし、さらに高価格に拍車がかかる

世界196カ国の経済指標を調査している『Trading Economics』によれば、2024年初頭からカカオ豆の価格は上昇し、約75%も高くなったという。4月には、1トン当たり約1万2,000米ドル(約214万円)と最高記録を打ち立てた。

この価格急騰の影響は、社会のあらゆる面に波及している。私たちが手にするチョコレート製品は、加工業者が生のカカオ豆で、バターやリキュールを作らない限り、存在しない。しかし、加工業者は豆の価格が高騰したために豆を買う余裕がない状況に陥っている。世界の生産量の60%以上を占めるといわれるカカオ豆の最大生産エリア、西アフリカのコートジボワールとガーナでも、加工業者が豆の購入を中止したり、工場の操業を停止したりしている。

経済・金融情報の提供を行う、『ブルームバーグ』は、カカオ豆の高騰は、チョコレート製品を生産する、世界中の企業の経営を脅かしていると伝えている。

老齢化の一途をたどる、カカオの木に、気候危機が加わり、収穫減に

カカオ豆の価格高騰の原因は、主に収穫の激減にある。世界のカカオ豆産出国が加盟する国際ココア機関によれば、世界の全収穫量は2021/2022年には約483万トン、2022/2023年には、約495万トン。2023/2024年の収穫は前年比で11%減ると見られている。

カカオ豆の収穫が減っている理由は幾つかあるが、その1つが気候危機だ。カカオ豆育成に適しているのは、赤道を挟み、南北緯度10度以内のエリア。特に熱帯雨林が最適だという。しかし、気候危機で気温が上がり、カカオの木や土壌から水分を奪われ、乾燥化が進む。木には良質のカカオ豆が実らず、病害虫にも弱くなり、木が死んでしまう。気候危機による問題が、現存のカカオの木の老齢化に加わり、さらに収穫を難しくしている。

主要穀物の買い付けから集荷、輸送、保管までを手がける専門の大手商社、カーギル社の南米の食品原料・小売り・食品サービス担当マネージングディレクターである、ラエルテ・モラエス氏は、ブラジルのリオデジャネイロのニュースを発信する『リオ・タイムズ』にアフリカの生産モデルはサステナブルではなくなってきていることをもらしている。

「スマートタワー」、気候インテリジェンス、アプリなどテクノロジーで生産支援

© USAID U.S. Agency for International Development (CC BY-NC 2.0)

カカオ豆不足をこれ以上長引かせず、今後生産を強化するために必要なのが、近代的な農業技術の利用を広めること。中でもハイテクの導入は重要だ。実際、南米では効果を上げつつあるという。

例えば、コロンビア。データをビジュアル化してわかりやすく解説するウェブサイト『World Population Review』によると、収穫量では世界第10位(2022年)のコロンビアでは、カカオ豆を生育する方法を変革するといわれるColombian Cocoa Control System(COLCO)が、現在500人の農民、260軒の農家を支援している。目標は、国内の農民の10%に当たる5,000人を訓練することだという。

COLCOが用いるテクノロジーの1つが、3Dプリントで作り出された「スマートタワー」だ。センサーが内臓されており、農家が収穫後、発酵作業を行う際に、最良の条件で作業を行えるよう、温度、湿度、pH レベルを監視する。

カカオ豆の質を判断するアプリも開発・利用されている。コンピュータービジョン技術を利用し、カカオ豆の色やサイズ、バリエーションに基づき、客観的に品質を評価する。これを用いることで、農家と加工業者の両方が品質についての公平性を確保できる。と同時に、完全なトレーサビリティと情報の発信元の評価を行うことも可能だ。

気候インテリジェンスも採用している。気候インテリジェンスは、農家の意思決定や作物を守りつつ、最大限収穫できるようにするにはどこに資金を投入するのが適しているかを決める際の手助けになっている。

また第7位の生産国ブラジルでは、従来の労働集約的な作業から効率が良い方法に切り替えた農場もある。小さな列車の形をした機械を開発し、カカオポッドの収穫を自動化し、効率アップに成功している。

ほかにも、灌漑システムや、病気や気候の変化に強い遺伝子組み換えを行った改良種子など、カカオ豆生産にテクノロジーによる支援が採用されている。

健全な収益なくしては、病害虫防除、サステナブル農法、気候危機対策はあり得ない

The Alembics Labのウェブサイトより

今回のカカオ豆不足は、西アフリカのカカオ豆農家への支援不足を明らかにした。サポートが受けられれば、農家は再び以前のような収穫高を期待できる可能性がある。多くの農民が国際貧困ライン(2.15米ドル=約330円/日)以下の生活を強いられ、基本的な生活水準を維持するための金額未満で暮らしている。

カカオ豆の価格が高くなっても、農民への見返りはない。産出国の政府は、価格を前年の売り上げに基づいて設定しており、世界的に1トンの価格が1万米ドル(約153万円)を超えても、農家は1,600~1,800米ドル(約24~27万円)の固定額を受け取るのみと、データとリサーチを用い、社会に対する理解を含めるウェブサイト『Sustainability by Numbers』が伝えている。

現在のこの仕組みでは、最低額は保証されるが、価格が上がっても収入には反映されない。健全な収益を得られなければ、病害虫から作物を守ったり、より効率よく生産するための農法の導入は難しい。気候危機などの環境についての教育を受けることもできない。

2024年4月にはコートジボワール政府が50%、9月にはガーナ政府が45%、カカオ豆農家の収益アップを発表し、今後、西アフリカのカカオ豆の収穫減に歯止めがかかることが期待される。

今までカカオ豆の生産が無理だった香港などでも、気候危機でそれが可能に

一方、西アフリカへの依存を減らすために、他のカカオ豆産出国が注目されている。例えば、カカオ豆生産では世界第3位のインドネシア。国内での自給自足とフードセキュリティが重視され、その一環として、国内に全世界向けのカカオ豆加工拠点の設立も計画している。

第39位のマレーシア、第24位のフィリピン、第11位のパプアニューギニアも、インドネシア同様の観点から、カカオ豆生産増を目指す。特にマレーシアは「メイド・イン・マレーシア」ブランドのチョコレートを創り出すことが目標だ。

気候危機で収穫量が減る西アフリカをよそに、気候危機で天候が変わったからこそ、カカオ豆生産のチャンスが巡ってきた国もある。

2009年香港でカカオ豆を育成し始めた、ビーントゥバー・ブランド「チョコビアン・チョコレート」の創設者、アンドリュー・リュウ氏は、気候が変わった影響で台湾や中国本土で良質なカカオ豆を生産できる可能性が出てきたことを、香港発行の日刊英字新聞『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』に話している。

フードテックのスタートアップは、「クリーン」なカカオ豆を提供

気候危機の影響で収穫が減り、価格が上がるカカオ豆は、森林破壊で炭素排出量を増加させ、気候危機に拍車をかけてもいる。フードテックのスタートアップは、気候危機とは無縁なカカオ豆の代替品の発見・開発に力を入れている。

ドイツのプラネットAフーズ社は、オート麦とヒマワリの種を使い、植物性脂肪などと混ぜ、カカオ豆を使わないチョコレート「チョヴィヴァ」を創り出した。オート麦は特別な方法で発酵・焙煎してある。「チョヴィヴァ」は、スイスのチョコレート大手、リンツ社を含むメーカーに供給。ドイツでは、12種類以上の製品の原料として、使用されている。

米国のヴォヤージュフーズ社は、ワインに使われた後のブドウの種を植物性油、きび砂糖、ヒマワリ油のタンパク質を利用した粉などに混ぜてチョコレートを作っている。2024年4月、カーギル社は、ヴォヤージュフーズ社のブドウの種製のチョコレートを菓子に採用することを発表した。

カカオ豆の代替品として、たった1つの食材を用い、カカオ豆の味と香りを再現しているのが英国のヌココ社だ。その材料とは、ソラマメ。ソラマメを生化学的プロセスで変化させると同時に、発酵・乾燥・焙煎・粉砕して、パウダー状にし、チョコレートの代替品として、菓子などに使う。2024年初めに130万ユーロ(約2億円)のシード資金を調達。2025年のローンチを目指し、月に数千トンを生産できるよう準備中だ。

ヌココ社は、欧州市場向けにソラマメを選んだのは、同エリアで豊富に採れ、コスト効率が良く、土壌にも良い影響をもたらすからだという。今後アジア市場に乗り出す際には、また違う、アジアならはの豆類を材料にする予定だという。こうすることで、同社が利用するテクノロジーを、柔軟性があり、規模の拡大にも対応できるものにしていこうという狙いがある。

2024年末に導入が予定されていた、欧州連合(EU)の森林破壊防止規則(EUDR)の施行が、2025年末に先送りとなったことが、10月に明らかになった。EUDRが導入されると、違法な森林伐採に関与していないことが証明でき、サプライチェーンのトレーサビリティが可能な商品のみ、EUに輸入できることになる。

今まで生産が振るわなかったエリアのカカオ豆が台頭し始め、代替品も登場。そこへ2025年にはEUDRの施行と、西アフリカのカカオ豆生産は、さらに苦戦を強いられるだろう。同エリアの、カカオ豆農家にとって死活問題であり、国の経済を担うだけに、今後の取り組みに期待がかかる。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

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