米国における生成AI利用、PCとインターネットの黎明期を超える普及率に 最新データが示す生成AI活用の実態

PCよりも速く普及する生成AI

ChatGPTが一般公開されてから2年に満たないが、最新調査でかつてのパーソナルコンピューター(PC)やインターネットの黎明期を大きく上回るペースで生成AIが普及している実態が明らかになった。

セントルイス連邦準備銀行、バンダービルト大学、ハーバード・ケネディスクールの共同研究チームが実施した全米規模の調査によると、2024年8月時点で米国在住者(18~64歳)の39.4%が生成AIを利用していることが判明。また職場で利用している割合は28%、このうち10.6%が毎日使用していると回答した。

特に注目されるのが普及率の速さだ。ChatGPTの一般公開からわずか2年で約40%という普及率は、PCが20%の普及率に達するのに3年を要したことと比較しても、極めて速いスピードとなる。また、インターネットが20%の普及率に到達するのにも2年を要したとされる。この比較からも、生成AIの普及速度の速さが際立つ。

生成AI(青丸)とPC、インターネットの普及率比較
https://s3.amazonaws.com/real.stlouisfed.org/wp/2024/2024-027.pdf

この急速な普及の背景には、アクセスの容易さとコストの低さがある。PC普及の初期には、高価な機器の購入が必要だったのに対し、生成AIは既存のデバイスからウェブブラウザを通じて利用できる。この「ポータビリティとコスト」の違いが、家庭での利用における普及速度の差につながっているとされる。

一方で、職場での利用に限ってみると、興味深い傾向が見られる。職場における生成AIの普及率は28%で、PCが3年目に記録した25%とほぼ同水準。つまり、生成AIの急速な普及は、主に家庭での利用が牽引していることになる。

しかし、この普及の裏には新たな課題も浮かび上がっている。学歴が高く、若年層で、高所得者ほど職場でAIを使用する傾向が強く、これはかつてのPC普及時に見られた傾向と酷似しているという。この状況は、労働市場における新たな格差を生み出す可能性があると、研究チームは警鐘を鳴らしている。

職種・業種別の生成AI利用状況

生成AIの職場における利用は、予想を超えて幅広い職種に及んでいることが明らかになった。コンピューター・数学関連職、および管理職での利用率が約49%と最も高く、これにビジネス・金融職(41.6%)、教育職(38.4%)が続く。注目すべきは、いわゆる「ブルーカラー」職種(建設、設置、修理、運輸など)でも22.1%が利用しているという事実だ。

職種ごとの生成AI利用率

業種別に見ると、金融・保険・不動産分野が51.2%と最も高い利用率を示し、農業・採掘業(35.7%)、専門・ビジネスサービス(33.7%)と続く。一方、レジャー・宿泊業は15.2%と最も低い利用率となっている。

業種ごとの生成AI利用率

利用頻度に着目すると、さらに興味深い傾向が浮かび上がる。コンピューター・数学関連職では、28.5%が週に1日以上利用し、さらに17.3%が毎日利用。管理職でも、24%が週1日以上、22.3%が毎日利用するなど、高い頻度で活用していることが分かった。

また企業規模による違いも確認された。大企業ほど生成AIの利用率が高い傾向にあるのだ。ただし、企業規模別の差は予想よりも小さいという。企業が公式に採用していなくても、個々の従業員が独自に生成AIを活用している可能性が示唆される。

性別による生成AI利用率にも違いがみられる。男性の32.2%が職場で生成AIを利用しているのに対し、女性は23.3%にとどまる。これは、1984年のPC普及初期において、女性の利用率(29.6%)が男性(21.6%)を上回っていた状況とは対照的である。当時は、事務職や管理支援職における女性の比率が高く、ワードプロセッサーからPCへの移行期であったことが背景にある。

総じて、生成AIの職場での利用は、特定の職種や業種に限定されることなく、幅広い領域で進んでいることが明らかになった。生成AIが汎用性の高いツールとして認識・活用されていることを示す数字といえるだろう。ただし、性別や職種による利用率の差は、新たなデジタルデバイドを生む可能性を示唆している。

タスク別の生成AI利用状況

職場でのタスク別分析からも、生成AIが幅広い用途で利用されている状況が浮かび上がった。職場での利用において最も重要視されているのは文章作成で、38.4%のユーザーがこれを最重要タスクの1つとして挙げている。これに管理業務(26.8%)、テキストやデータの解釈・翻訳・要約(23%)が続く。

AI利用者が重要視するタスク

実際の利用率を見ると、広範な活用実態が浮かび上がる。職場での生成AI利用者の57%が文章作成に活用し、49.4%が情報検索、47.8%が詳細な指示やドキュメント作成に利用している。調査対象となった10種類のタスクすべてにおいて、24.9%以上の利用率を記録。AIモデル/アプリケーションの精度向上により、これらの利用率はさらに高まることが見込まれる。

AI利用者が実際に生成AIを利用しているタスク

具体的な使用時間を見ると、職場での生成AIユーザーの25%が1日1時間以上利用し、52%が15分から1時間利用している。利用頻度と時間には正の相関が見られ、毎日利用するユーザーの42%が1日1時間以上活用しているという。

これらの数字を基に、研究チームは生成AIの労働生産性への影響を試算している。現状では、全労働時間の0.5%から3.5%が生成AIによってアシストされていると推定。また、最近の研究で示された、生成AI活用によってタスクの生産性が平均25%向上するとの仮定に基づくと、労働生産性全体は、0.125%から0.875%の上昇が見込まれるという。

ただし、研究チームはこの試算について慎重な見方も示している。現在の利用者は、最も生産性向上が見込まれる用途から優先的に活用している可能性が高く、利用が拡大するにつれて収益逓減の法則が働く可能性があるためだ。一方で、技術自体の進化により、より広範な用途への応用が可能になることも考えられる。

この調査結果は、生成AIが既に職場における汎用的なツールとして定着しつつあることを示すもの。特に、文章作成や情報処理といった知的作業において、生成AIは既に重要な役割を果たしていると言える。今後は、技術の進化とともに、さらに多様なタスクでの活用が進むことが予想される。

文:細谷元(Livit

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