コロナ禍も落ち着きを見せてからしばらく経ち、スタジアムでスポーツ観戦を楽しむ人も戻りつつある。そうした中、スポーツ観戦に限らない目的で、活用されるケースも増えつつある。その1つが、2020年に完成した京都府亀岡市にオープンした「サンガスタジアム」だ。同施設では、スポーツ観戦にとどまらず、あらゆる世代がスポーツを楽しむためのさまざまなプログラムを展開。音楽・地域振興の催し物などのイベント会場としても活用されており、スポーツ振興だけでなく、地域活性化の拠点として多様なアプローチを行なっている。
再び人々で賑わうスタジアムは、地域経済にどのように貢献していくのか?サンガスタジアム by KYOCERA(以下、サンガスタジアム)の所有者である京都府、そして指定管理者としてスタジアムを運営管理する合同会社ビバ&サンガのコメントを踏まえ、スタジアムが生み出す新たな価値を探っていく。
スポーツ観戦だけじゃない。地域活性化拠点としてのサンガスタジアム
サンガスタジアムは、約21,600人の観客収容能力を誇る、京都府内唯一の専用球技場だ。京都サンガF.C.のホームスタジアムとして活用されるほか、サッカーやラグビーなどの国際試合も開催している。
さらに、最新設備のVRフィットネスゾーンやeスポーツゾーン、日本初の国際基準を満たした屋内型スポーツクライミングジム、3×3バスケットボールコートなど、さまざまなスポーツを気軽に体感できる施設が充実している。
こうした、スポーツに限る試合の開催や施設の拡充だけではない。例えば、音楽イベントでは「亀岡ジャズフェスティバル2024」を開催したほか、スポーツイベントでは「ツールド・京都丹波」の発着点としても利用されている。また、亀岡市と一緒に、市内の小学生を招いてスタジアムツアーを行う「シビックプライド醸成プロジェクト」も実施した。
ほかにも、天然芝のピッチを園庭として利用できる「びばっこ保育園」をはじめ、体を思いっきり動かすことをテーマにした木育広場「KIRI no KO」、無料で利用できる足湯、レストランが集結したフードコートなど、子ども連れでも安心して楽しめる施設も付帯している。
京都府が目指す”子育て環境日本一”の実現に貢献するため、ビバ&サンガ代表の小森俊史氏は、「人を育てるスタジアムにしたい」ともコメントしている。
“びばっこ保育園に通う0歳の赤ちゃんが、いつもピッチではいはいをしているんですよね。もしかしたらその子は将来京都サンガF.C.の選手になるかもしれないし、ファン・サポーターになるかもしれない。長期的に京都サンガF.C.やスタジアムのファンを増やすことにもつながっていくといいなと思っています” ※
このようにサンガスタジアムは、スポーツの試合だけでなく、人を育てたり地域のにぎわいを創出したりする拠点と京都府の担当者は語る。
「京都府の総合計画でも、スタジアムを中北部地域の交流や観光ゲートウェイと位置づけており、今後も、音楽などの文化イベントや地域資源を活用したイベントを実施することで、周遊・にぎわいづくりを進めたいと考えています」(京都府)
サンガスタジアムを支える「スポーツくじ」の存在
そんなサンガスタジアムの建設には、スポーツくじの助成金が活用されている。
スポーツくじは、誰もが身近にスポーツを親しめる環境や国際競技力向上のための環境を整備するための財源として、独立行政法人日本スポーツ振興センターが、2001年に全国販売を開始した。
スポーツくじの収益の3分の2は、スポーツ振興のための助成金として使われる。例えば、オリンピック・パラリンピックの選手育成や指導者育成、グラウンドの芝生化、地域のスポーツ施設の整備など、日本のスポーツの振興のために幅広く役立てられている。つまり、スポーツくじを買うことで間接的にこれからの日本のスポーツを支える仕組みだ。
スタジアムの建設といったハード面だけでなく、京都府が開催する「京都キッズスポーツフェスタ」など、スポーツイベントでもスポーツくじの助成金は活用されている。京都府文化生活部スポーツ振興課の三輪優太氏は、次のようなコメントも残している。
“スポーツイベントでもスポーツくじの助成金を活用させていただくことで、多様な競技を実施できましたし、アスリートをお呼びすることで子どもたちに夢を与えることもできました。サンガスタジアムには、スポーツくじのロゴが大きく掲出されています。それによって利用してくださる多くの方々にも、こうした取り組みが、子どもたちの健全育成や地域貢献につながっているとお伝えできているのではないかなと思います” ※
スタジアムがあることで、地域経済に及ぼす効果とは?
スポーツくじの助成金のもと実施した、京都キッズスポーツフェスタを通じ、参加者からは次のような反響もあったという。
「『TVで見ていたみくちゃん(京都カグヤライズ/松島 美空選手)に卓球を教えてもらってうれしかった』とのお声をアンケートでいただきました。またキッズスポーツフェスタで初めて『ジャベリック』を投げ、その後ご協力いただいた団体さまのスクールに入会された方もいらっしゃいましたね」(ビバ&サンガ)
「ほかにも『たくさんのスポーツを同時に体験するイベントは今まであまりなかったのでとても楽しかった』といういろいろなスポーツを体験できたことや、プロ選手やコーチに直接指導してもらえたことへの喜びコメントもいただいており、91.5%の参加者が『とても楽しかった』『楽しかった』と回答しています。また、82%の参加者が『このイベントをきっかけにスポーツをやりたい』とも回答しています」(京都府)
サンガスタジアムは、まちづくりや地域活性化の核となる施設として、スポーツ庁と経済産業省から「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」のモデル拠点にも選定されている。
「年間を通じてにぎわう施設とするため、音楽イベントや球技以外のスポーツなどでも活用し、クライミングウォールやフードコート、VR・eスポーツ施設や保育園などを併設していることが評価されたと思います。こうしたスタジアムのポテンシャルを活かし、さまざまな取り組みを行っています。取り組みの結果、試合のある日だけでなく、試合のない日の利用者も順調に増加し、2023年度には府総合計画に掲げる目標を一年前倒しするかたちで、年間40万人を超える利用者数を達成できました」(京都府)
さらに、専用競技場としてサッカー観戦の人数も順調に増加。スタジアム完成の前年となる2019年の京都サンガF.C.のリーグ戦平均入場者数は1試合あたり7,850名(当時J2)だったが、2023年は13,229名(J1)にまで成長している。
地域の人に愛されるスタジアムを目指して。サンガスタジアムの挑戦
今後は、大型イベントがない日の施設利用を、さらに加速させていきたいという。
「サンガスタジアムでは、スタンド席を利用した『はたちの会(成人式)』や、VIPラウンジを使用した企業さまの新入社員研修やご宴会などでも活用されています。さらに、貸会議室での会見や講習会、会議など、天然芝のピッチだけにとらわれない活用例もあり、こうした諸施設の稼働をさらに上げていきたいと考えています」(ビバ&サンガ)
また、京都府としては国際試合の誘致を積極的に行っていきたいと話す。
「京都府でも、スタジアムをもっと活用し、地域を盛り上げようと計画しています。大きくは、ニュースポーツやeスポーツ、プロスポーツや全国規模の大会の誘致・開催。音楽などの文化イベントや、京都の特徴を活かしたイベントの実施。そのうえで、イベントや観光情報を積極的に発信したいと考えており、これらの取り組みを通してスタジアムを多くの人が集まる場所にしたいんです。さらに、2024年3月にはサッカー国際親善試合(U-23日本代表vsU-23マリ代表)を開催しましたが、2026年にもアジア大会の誘致を計画しています。このように、国際大会を誘致することで、スポーツの魅力を身近に感じられるようにしていきたいです」(京都府)
京都サンガF.C.のファン・サポーターはもちろん、京都府内外から老若男女が集まるサンガスタジアム。さらなる地域への貢献について、小森氏は次のようにコメントを残している。
“サンガスタジアムのような地域創生の核となる施設がスポーツくじの助成金を活用して作られていくことは、地域への大きなインパクトになります。スポーツ施設が整備されることで地域の経済や人材育成にも好影響を与え、ひいては日本社会全体への貢献にもつながるはず。そのうえで、まずはサンガスタジアムの全エリアが365日賑わうことを実現したいですね。そのために、試合日以外にもいろいろな教室やイベントを実施するなどソフト面をもっと充実させていきたいですし、サンガスタジアムが日常的に活用できる場であるとより多くの人に知っていただけるような活動をしていきたいです” ※
コロナ禍を経てリアルの価値が再認識される今。専用競技場の枠を超えて拡張するサンガスタジアムのような場が地域のハブになることで、周辺地域の活性化につながりそうだ。