- 本コラムは、企業・団体などから寄稿された記事となります。掲載している取り組みやサービスの内容・品質、企業・団体などをAMPが推奨・保証するものではありません。
若年層向けに企業が実施したプロジェクトへと焦点を当てる企画「新世代攻略ガイド」。施策の戦略、視点、そして、どのように訴求したか具体的な手法をコラム形式で共有することにより、若年層にどうアプローチすべきなのか、彼・彼女らの考え方にどう寄り添うべきなのか、その理解を深めていく。
今回はニューホライズンコレクティブ合同会社の取り組みを紹介する。
実施プロジェクト:「みんなの書店」
目的・テーマ | 文化資源による地方創生を目的に、その担い手である全国書店の減少を食い止めるムーブメントを起こす。 |
---|---|
戦略・手法 | Z世代とミドルシニアの協業で「2050年の書店」を構想、書店の新業態を模索している先進的な書店経営者に提案。 |
成果 | プレゼン形式による顧客と未来の消費者(Z世代)との交流自体が、新たなインスピレーションを与えるなど非常に有意義なものとなり、結果、全社的に実装を検討する段階に入った。 |
プロジェクト概要
書店の課題を検討するにあたってはいくつかの「根本的な課題」が想定されました。ひとつは、書店存続の課題が複層的であること。若者の活字離れという言葉すら死語になりつつある出版界全体の地盤沈下、地方の人口自体の減少、事業継承問題など、書店の課題は「日本の課題」の縮図的様相を呈しています。もうひとつは、書店の多くは生活圏内に1~2店舗を展開する「町の書店」規模であること。それゆえ書店の課題といっても事業者ごとに様々であり、最大公約数的な解を打ち出しにくいことが想定されました。
最も深刻に思えたのは、書店側の打ち手の少なさです。出版社が取次を通して書店に書籍販売を委託する委託販売と再販制度は、日本の教養主義と読書文化を支えてきましたが、同時に書店から仕入、マーケティング、価格戦略など戦略の自由度を奪うことになりました。書店の課題とそのソリューション開発といっても一筋縄には解決できない問題でした。
そこで、課題の抽出→ソリューション開発という真っ当なやり方ではなく、全国の生活者が地元書店の意義を考えるムーブメントを起こそうと考えました。書店の最大の危機は生活者が書店の存在を忘れかけていることで、書店に行かなくなった人は多いが、書店が嫌いという人は少ない。業界慣習や制度の話は横に置き、みんなが改めて書店を意識するところから始めようという趣旨から、「みんなの書店」と名付けたプロジェクトを立ち上げました。生活圏内の読書好きと書店が、書店事業のアイデアをやり取りする楽市楽座のようなプラットフォームです。
施策の戦略とアプローチ手法
「みんなの書店」は草の根的活動であり、なかなか認知もされにくいため、プロジェクトに弾みをつける意味でもシンボリックな第1弾アクションが必要でした。
その時に浮かんだのが、未来の書店の主要顧客は間違いなく今のZ世代なのだから、未来の書店像を考えるのもまたZ世代の若者たちが適任なのではないか、ということでした。デジタルネイティブと呼ばれるZ世代は果たして自分たちの未来の生活に「書店」をプロットしてくれるのでしょうか。
そこで、森山博暢氏率いるアイデンティティ・アカデミー(IA)に相談し、IAの学生31人に「2050年の書店を構想する」というテーマで未来の書店のあり方を考えてもらうことにしました。IAは、海外のようなインターンシップ経験の少ない日本の大学生に、実社会でのリアルな課題を与え、投資や金融リスクなども踏まえた事業構想をさせる実戦型の学校です。
書店をテーマに、Z世代がミドルシニアになる2050年の知的生活のあり方を、現在のミドルシニアがサポートしながら構想しようという図式です。こうしてZ世代とミドルシニアによる協働プロジェクトが立ち上がりました。
今回ミドルシニアとZ世代が協業したことにはいくつかの狙いと発見があります。まずプロセスにおいては、Z世代の手法とミドルシニアの手法の足し算(≠掛け算)を狙ったこと。デジタルネイティブでリサーチ力も高く、リモートでさっと集まって意見交換してまとめていくZ世代の機動力に、まず売り場を見に行き、書店経営者に話を聞くといったある種古式ゆかしいミドルシニアの手法を導入しました。その中で、書店経営者との対話を通じてその経営思想を聞くことで、初めてその書店らしい事業がみえてくるといった、新たなブレイクスルーがありました。
一方、事業のアイディエーション自体にはミドルシニアはあまり口を挟まず、Z世代の自由な発想を尊重しました。遠慮も忖度もないZ世代のアイデアを実務経験のあるミドルシニアが具体化することで、業界の常識や慣習の壁を壊すような新たな事業提案を生み出すのが狙いです。
結果的に学生たちの提案は、全体として書店の事業を「小売からサービス」へ大きく転換することを示唆するものとなりました。参画したある書店経営者は、「書籍販売とは結局、出版社が決めた価格×部数が市場(規模)であり、ただそれをシェアするビジネスモデルだが、今回のプレゼンは改めてそれに気づかせてくれた」と感想を述べていました。
施策から得られた成果
今回のプロジェクトが書店経営者を巻き込む形で進められたことは非常に有意義でした。プレゼン先でもある書店経営者の皆さんはグループワークや中間発表などにも積極的に参加頂き、経営視点からの厳しい講評や、学生が気付かないアイデアの芽を積極的に評価することに情熱を注いでくださいました。Z世代との交流自体が経営者の皆さんにとって気づきが多かったという感想などは、本プロジェクトの手法が課題解決のひとつの有効な方法論であることを示唆しています。
プレゼンについては、今回6チームに分かれて提案した6案のすべてが、そのままでの実装はないにしても検討に値するという評価を受け、現在経験豊富なミドルシニアたちが鋭意検討と精緻化による企画の「編集作業」を始めています。一方、参画頂いた5書店、協力頂いた1社の計6書店は、いずれも今回のZ世代の提案をベースにした新たな事業提案を鋭意検討すると回答しています。
今後に向けて
1つの書店経営者は、今回参加したZ世代の中から志のある数名を募い、実際に事業化に取り組む第2フェーズを準備しています。参加する学生は、自身の人生プランも含めてそれなりの覚悟が必要ですが、一方で新事業が日の目をみれば、いきなりその事業の責任者や新事業会社のCEOになる可能性もあります。
「書店は、若い世代が地方で起業する新たな試みのプラットフォームになる」とその経営者は抱負を語ります。
そのようにして若い世代を大きく巻き込みながら、これからの書店の関係人口や関与/関心人口を増やしていくことこそ、「みんなの書店」の描く近未来の理想像なのです。
「2050年の書店」を考えるとは、無機的社会空間化が進むこの時代を生きるすべての生活者が、知の「有機的個人空間」を維持し、豊かな人生を送る方法を構想するというテーマなのです。
- ■ニューホライズンコレクティブ合同会社について
-
・会社名:ニューホライズンコレクティブ合同会社
・所在地:New Horizon Collective合同会社銀座オフィス(東京都港区新橋1丁目7−1 近鉄銀座中央通りビル9F)
・代表:山口裕二、野澤友宏
・設立:2020年11月12日
・詳細URL:https://lifeshiftplatform.com/
・受賞歴:「日経リスキリングアワード2024」 企業・団体イノベーティブ部門 最優秀賞
・事業概要:株式会社電通が100%出資し、「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」を運営しながら、プロフェッショナルパートナーとともに社会に対して新たな価値提供をする会社。
・LSP概要:「人生100年時代」、さまざまな専門性を有するビジネスパーソンが、年齢を理由に活躍を制限されることなく、自律したプロフェッショナルとして中長期的に価値を発揮しつづけることができるようサポートする基盤。現在253名のミドルシニアが参加している(10月1日現在)。