帝国データバンクは、「103万円の壁」引き上げに関する企業アンケート調査を実施し、その結果を公表した。

衆議院選挙で議席を増やした国民民主党が、手取りを増やす政策の一環として年収「103万円の壁」を178万円に引き上げる案に注力している。これが実現すれば、パートタイム労働者の働き方が変わり、労働力不足の緩和や実質賃金の増加が期待されている。

■「103万円の壁」、引き上げに賛成67.8%

「103万円の壁」の引き上げについて質問したところ、67.8%が「賛成」、3.9%が「反対」と回答。また、21.9%の企業が「撤廃すべき」と回答し、全体の約9割がこの制度の見直しを求めていることが明らかとなった。

企業の声

企業からは、引き上げ賛成の理由として以下の意見が多く寄せられたという。

「103万円の壁を意識するパートの方が多く、引き上げれば働き控えが解消される」(飲食業)
「最低賃金の引き上げが加速するなか、制度の見直しは避けられない」(運輸・倉庫業)
「減税効果により消費活動が活発化する」(不動産業)

一方で、賛成ながらも以下の懸念の声もあったとのことだ。

「社会保険料の106万円・130万円の壁もあるので、所得税のみの見直しでは働き控えはそれほど変わらない」(情報サービス業)

さらに、「撤廃すべき」と答えた企業からは、制度の複雑さや公平性への疑問も。

「働いても税金を払うことが損になるとの世間の風潮を感じる。103万円の壁は制度が古く、撤廃し、働いたら金額に関わらず応分の税を徴収する文化が最も公平」(情報サービス業)

■企業からのコメント

<賛成>

・専門サービス:最低賃金の増加に対し「年収の壁」がともなっておらず、労働時間をセーブして働く短時間労働者がおり、賃金が増加しても年収が増えない。「年収の壁」が労働時間を抑制させ、人手不足も促進させている一面がある。                         
・放送:パート・アルバイトの応募状況が厳しいなかで、「年収の壁」引き上げで現状の人員でも回転させることが可能となり、人手不足の問題が軽減されるのではないかと考える。
・飲食店:年々、最低賃金が上がる現状で、働ける年間時間が減ってきている。飲食業は、ほぼ9割をパートやアルバイトで運営しており、働ける時間に制限がかかると売り上げに影響するため、103万円の引き上げは賛成。 
・飲食料品小売:壁の引き上げと最低賃金の上昇はどちらもやらないと、このままでは賃上げをしても労働時間が減るだけになる。                         
・繊維・繊維製品・服飾品製造:税制だけでなく社会保険料とセットで議論すべき。年金の3号保険制度そのものを廃止しなければ、103万円の壁だけ撤廃しても意味がない。課税基準を178万円に引き上げても130万円の壁がある限り、働き控えは依然残る。                         

<撤廃>

・紙類・文具・書籍卸売:夫の扶養になる範囲で働くパート従業員がいるため、労働時間が限られ、少ない人材での会社運営に苦慮している点の改善が見込まれる。一方で、社会保険料の負担増が発生するため、一概に賛成できない。 
・精密機械、医療機械・器具製造:収入の壁や労働時間の壁はない方が有難い。実際に忙しいのに、優秀な女性が12月に勤務を控えたり、賞与を辞退したりするケースなどが起きている。         
・その他製造:扶養と控除の仕組みが税金の計算を複雑にしている。扶養をなくしシンプルにみんな働いた分だけ累進課税で納税して、家族がいる場合は状況に応じて給付する方が分かりやすい。

<反対>

・ 建設:壁の引き上げによって財源不足となり、増税となるのではないか。

<参考>
帝国データバンク「『103万円の壁』引き上げに対する企業アンケート