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IT化と生成AIの登場により、私たちの働き方やビジネスの進化は急速に加速している。その中で、さまざまな場面で求められるエンジニア職の需要が急激に高まっており、2030年までに最大79万人のIT人材が不足(※)すると予測されている。今や業界の枠を超え、あらゆる分野でエンジニアが重要な役割を果たしており、AIの活用やデータ処理の効率化に貢献するプロフェッショナルの需要はさらに拡大している。
GIFTechは、エンジニアの創造性を刺激し、モノ創りの喜びを再発見することを目的としたプロジェクトであり、急速に進化する技術とエンジニア不足という社会的課題に対しても独自の立ち位置で事業を展開している。アカデミーや次世代型ハッカソンを通じて、仲間と共にゼロからプロダクトやサービスを開発するアイデアや技術を深め、これらの体験を通じて「テクノロジーとモノ創りを楽しむ才能」を伸ばしていく。
さらに、単に技術力を高めるだけでなく、創造性を引き出し、問題解決能力を高める場を提供することで、エンジニアとしての成長を促進している。また、YouTube上に「GIFTech CH」を開設し、取り組みの過程を動画で公開することで、多くの人々に知識と情熱を共有し、エンジニアリング分野における未来のプロフェッショナル育成に貢献しようとしている。これらの活動を通じて、2030年に予測されるIT人材不足という課題にも対応することを目指している。
今回は、GIFTechの立ち上げから関わっている3名に、このプロジェクトの背景やエンジニア育成にかける思い、そして今後の展望について話を伺った。
GIFTechの立ち上げとエンジニアのモノ創りへの想い
エンジニアとしての創造性を引き出し、モノ創りの楽しさを再発見できる場を提供するGIFTech。その活動は、単に技術力を育成するだけではなく、エンジニアとしての本質的な「楽しさ」を取り戻し、仕事に活かしてもらうことを目指している。そんなGIFTechの立ち上げに関わってきた株式会社レアゾン・ホールディングス シニア・クリエイティブディレクター、大泉共弘氏は、その背景にある思いについてこう語る。
「このプロジェクトは、『エンジニアにもっとモノ創りを楽しんでほしい』という思いから始まりました。エンジニアの多くは、もともとモノ創りに魅せられてこの道に進んだ人たちです。しかし、仕事として取り組むうちに、その楽しさが薄れてしまうことがあります。そこで、エンジニアが本来持っている『モノ創りの楽しさ』を、仕事にもっと活かしてほしいと考えました」
大泉氏「社内のエンジニアに話を聞いてみると、『0→1のモノ創りはやりたいけど、一人でやるのは少し不安』という声が多く、発想力を磨く機会も少ないのが現状だと分かりました。また、普通のハッカソンでは技術の向上が主な目的であり、発想法を学びながら、仲間と共に0→1を作り上げる場が少ないのが現状です。Z世代のエンジニアへの調査でも、『やりがいを感じている』と答えた人は52%に留まり、理由として『新しいことに挑戦する機会があるから』という声が多い一方で、やりがいを感じていない人は『新しい挑戦のチャンスが少ない』と答えています。こうした声を受けて、GIFTechはエンジニアが仲間と共に0→1のプロセスを楽しみ、発想力を磨ける場を提供したいと考え、立ち上げました」
テクノロジーの進展とエンジニアに求められる新たなスキル
テクノロジーの進展に伴い、求められるスキルや考え方は大きく変化している。特にAI技術の成長は、エンジニアに求められるスキルの幅を広げ、AIエンジニアやデータサイエンティストといった新たな職種の拡大を促してきた。また、生成AIの登場により、エンジニアの業務効率や学習効率は飛躍的に向上した一方で、そのコードが業務上で必要十分なものであるかどうか、「考える力」が必要になった点が浮き彫りになっている。昔と今で求められるスキルや考え方の変化について、大泉氏は次のように述べている。
「昔から技術的な優位性や効率性が重視されてきましたが、現在では、それに加えてユーザー体験(UX)を意識した開発がエンジニアにも強く求められていると感じます。エンジニアは単にコードを書く役割だけでなく、プロダクト全体のビジョンやユーザーのニーズを深く理解し、実際に価値を提供する力が必要とされています。ただ、エンジニアとしての探究心や、エンジニアリングから価値を届ける想いを持った人材は多く、今もなお社会で求められ続けています。時代の変化の中で柔軟に適応しながら、技術と正しくタッグを組むことで、より大きな価値を生み出し続けることがエンジニアに期待されているのです」
エンジニアの需要が高まる一方で、エンジニアの「モチベーション格差」には課題があると感じている。実際、レアゾン・ホールディングスが全国のZ世代エンジニアを対象に行った調査では、「やりがいを感じてない」と回答としたエンジニアは、自身の将来性への不安や新しい取り組みに参加できる機会の少なさを課題として挙げていた。本来のエンジニア像と職種としてのエンジニアには、乖離があるのかもしれない。
GIFTechの試みとエンジニアの成長
「GIFTech」では、著名企業のサービス開発ストーリーにおいて重要な役割を果たしたエンジニアに焦点を当てたドキュメンタリーフィルム『MVP Focus』と、参加型イベントである次世代型ハッカソンを開催し、たった一人に向けたパーソナライズドサービスを開発する「N1エンジニアリング」の2つを展開している。これにより、①0から開発ができるスキルを身につける、②仲間と共創する能力を習得する、という2つのポイントを軸に、エンジニアの創造性を刺激し、モノ創りの喜びを再発見するためのコンテンツを提供している。
第1回となったGIFTech2024春では、「N1エンジニアリング」の考え方を通じて、「不特定多数の人が喜ぶプロダクトを最初から作るのは難しい。しかし、たった一人のユーザーにとって価値のあるプロダクトならどうだろうか。それなら創ることができるはず」という視点を提供した。
大泉氏「プロジェクトの発起人はマーケターでもあります。マーケティングの視点からも『N=1を深掘る』ことの重要性を強く感じています。一人のユーザーを深く理解するというミクロな視点を持ち、その結果を基にマクロなインパクトを生み出すのがマーケティングの基本戦略です。GIFTechでは、その一人をどう深掘るか、その学びをどうアイデアに落とし込み、実際のプロダクトに反映させるかを学びます。これをすぐに実践で試すことができるからこそ、ユーザーに喜ばれるプロダクトが生まれ、それを創る側も満足感を得られる。これがGIFTechの目指すところです」
プロジェクトに参加した株式会社レアゾン・ホールディングスのエンジニア、櫻井春樹氏は次のように振り返る。
櫻井氏「全体的に大満足という声が多かったです。1カ月という、ハッカソンとしては長めのスパンでしたが、1チームも欠けることなく最後までやり抜くことができました。現在でも、同チームだったメンバーはもちろん、他チームのメンバーとも交流があり、非常にかけがえのない経験となりました。また、申し込み時点では大学生だった自分にとって、キャリアのある先輩エンジニアと共に仕事ができたことは大変刺激的な経験でした」
さらに、プロジェクトを通じた心境の変化についても、櫻井氏はこう語る。
櫻井氏「当初はエンジニアとして開発に専念することが主な役割だと考えていましたが、プロジェクトを進める中で、自分の役割が単なるエンジニアに留まらないことを実感しました。具体的には、N1ユーザーに対するインタビューやプロダクトのアイデア出し、デザイナーとの協業といった活動を通じて、技術的な貢献だけでなく、プロジェクト全体の成功に対して責任を持つことの重要性を強く感じました。チーム全体として最大限の成果を上げるためには、各メンバーの強みを生かした協力が不可欠だと実感しています。また、エンジニアとしてコードを書くことに留まらず、プロダクト全体の成功や価値提供に対する責任感を持つことが、自分の成長に繋がると考えるようになりました」
GIFTechプロジェクトの目指すものとエンジニアの成長の可能性
新卒3年目ながらGIFTechプロジェクトをリードする株式会社レアゾン・ホールディングス エンジニア、佐藤貴子氏は、今後のプロジェクトを通じて参加者への思いを述べた。
佐藤氏「GIFTechは、モノ創りの楽しさを実感できる環境を提供していきます。なぜエンジニアになったのか、どんなエンジニアになりたかったのか、その想いを胸に、GIFTechなエンジニア(クリエイター)としてモノ創りを楽しんでいただきたいと思っています。私たちが掲げるGIFTechなエンジニアとは、テクノロジーとモノ創りを楽しむ才能を持ったエンジニア、つまり『仲間との共創能力に長け、プロダクトやサービスを0から開発できるエンジニア』です。ユーザーにプロダクトを届けるためには、従来のエンジニアの枠を超えて、良い意味で領域侵犯をしていくこと姿勢が求められます。プロダクトをより良くするために新しい技術へ挑戦し、一つのプロダクトを創り上げる力をぜひ身につけてほしいと思います」
GIFTechは、エンジニアにモノづくりの本質的な楽しさを提供するクリエイティブな環境を構築している。エンジニアが自身の原点に立ち返り、なぜこの道を選んだのか、どんなエンジニアを目指しているのか、その思いを抱きながら、自らの可能性を広げていく場となるだろう。
次回の開催は2025年春と、期間が空く。第1回で得られた結果を基に、より良いプロジェクトにするため、すでに次のステップに向けた準備が進んでいる。
大泉氏「GIFTechのプロジェクトでは、『価値のあるモノ創り』を学びながら、エンジニアが『モノ創りを楽しむ』姿勢は変わりません。ただ、その楽しさをさらにレベルアップさせることも重視しています。『N1エンジニアリング』を通じて社内にノウハウを蓄積してきましたが、現在は新たな開発アプローチを試しています。目標は、多くのユーザーに喜ばれ、プロダクトが話題になることです」
次回の開催に向けた現時点での構想についても、一部明かしてくれた。
大泉氏「GIFTech2025春の次回開催では、ハッカソンで生み出されるプロダクトが広く注目を集め、社会に影響を与える仕組みを構築したいと考えています。エンジニアにとって、自らの創造物が認知され、評価されることは大きな喜びです。仲間と協力して0→1を生み出す開発プロセスを楽しみ、そのプロダクトが世に出て進化する過程を見守ることは、エンジニアにとって最も『楽しい』経験の一つだと確信しています」
モノ創りの喜びを再発見するためのプロジェクト「GIFTech」。新時代のエンジニアを育むこの活動に、今後も注目していきたい。