米国で「空飛ぶ無人タクシー」の実現が迫りつつあるーー。
米国に本社を置くボーイングの子会社・Wisk Aeroが、無人航空タクシーの開発を加速させている。同社は2010年に開発に着手、これまでに6世代の航空機を開発しており、1,750回を超えるテスト飛行を実施している。
現状は技術面の課題や規制当局との調整が必要な段階だが、ボーイングは2030年までに米国でWisk Aeroの無人航空タクシーが実用化されることを期待しているという。さらに、10年以内にアジア市場への参入計画もあると報道されている。
航空タクシー業界をリードするWisk Aeroの野望とは。
4人乗りの全電気式・無人エアタクシー
Wisk Aeroが開発した最新の第6世代eVTOL(イーブイトール、電動垂直離着陸)エアタクシーは、乗客輸送用に設計された世界初の全電気式、自律型、4人乗りの航空タクシーだという。
予備バッテリーを含めて1回の充電で90マイル(144km)の飛行が可能。海抜2,500~4,000フィート(762~1,220m)で120ノット(138mph/222kph)で巡航できるとされている。
小型の飛行機のようなデザインで、厳格な航空安全基準(事故発生確率が10億分の1)を上回るよう設計されている。極力簡素化した設計を採用し、安全性と飛行に不可欠な可動部品の総数を削減している。可動部品が減ることで故障も減少するためだ。
システムは単一障害点を排除し、冗長化を取り入れている。これは、1つが働かないとシステム全体が停止するような箇所を作らず、万一システム障害が発生しても機能を維持できるように予備システムを準備しておく、ということだ。
飛行の際はヘリコプターのように垂直に離着陸し、その後前進飛行に移行する。完全に電動で燃焼エンジンを持たず、ヘリコプターよりも大幅に騒音が少ないとされている。
2017年以降、Wisk Aeroでは機内にパイロットを乗せない自律飛行での開発や飛行試験を続けている。多くの同業他社が有人飛行を優先するアプローチで市場への参入計画を立てているなか自律飛行にこだわるのは、「結局は自律飛行が業界の最終目標であるから」だと同社は答えている。
自律性を達成することで、安全性の向上、規模の拡大、手頃な価格の確保といったメリットがある。つまり、自律性は商業的実現可能性と事業のスケールの両方を実現するためのカギとなるのだ。
Wisk Aeroの航空タクシーが運行する際は地上に人間の監督者がおり、すべての飛行を監視している。人間の監督者はパイロットというより「航空交通管制」の役割に近いという。航空機システムに異常事態が発生した場合は、監督者が航空機に新しいコマンドを送信して介入し、航空機がそれを自力で実行できるように設計されている。
各国・州との提携、飛行試験を着々と実行
Wisk Aeroでは航空機の開発と並行して、安全性や実現可能性を実証するための飛行試験や論文の発表、航空タクシーの実用化へ向けた各国・州との業務提携をスピーディーに実施している。
例えば、ニュージーランドでは、有人航空機が管理する空域に無人航空機が安全に統合できることを実証するための飛行試験を2023年12月に実施。Wisk Aeroは「無事に完了した」と報告している。
ニュージーランド政府は、2019年に空域統合試験プログラム(AITP)を発表しており、これは航空技術の進歩、地域社会の期待、経済的利益の実現を踏まえ、空域システムが卓越した安全レベルを維持することを実証する4年間にわたる世界初のプログラムだ。Wisk Aeroは同プログラムにおける初の業界パートナーであり、2020年にニュージーランド政府とMOU(覚書)を締結して以来、多段階のテストを実施している。
2024年2月には、自律型先進航空モビリティ(AAM)をヒューストン大都市圏に導入するための提携をテキサス州シュガーランド市と締結。同年6月には、ヒューストン空港とも提携し、グレーター・ヒューストン地域とヒューストン空港を結ぶ航空ルートを開発すると発表している。
10年以内に「アジア市場」への参入を計画、JALと提携も
海外メディアの報道によると、ボーイングでは米国での飛行に加え、これから10年以内にアジア市場での航空タクシー事業に参入するという野心的な計画があるという。
「長年にわたり国外へ事業を拡大しているボーイングは、米国以外にオーストラリア、韓国、インドに研究開発施設を持っている。ボーイングはすでに航空機の供給提携を結んでおり、三菱重工、川崎重工業、SUBARU(スバル)など日本の大手メーカーも地域に工場を設立している」と記事では紹介されている。
Wisk Aeroでは、2023年5月に航空タクシーを日本に導入する目的で日本航空(JAL)とパートナーシップを締結している。両者は日本における航空タクシーの保守、および運用計画を策定するために緊密な協力体制を築くとしている。
同時に、Wisk AeroとJAL、日本国国土交通省航空局(JCAB)、その他の日本政府関係機関における協力の枠組みを確立するMOUも締結。これには、規制要件、安全対策、関係各社の利益などの検討が含まれるそうだ。
こうした動きを見ると無人航空タクシー実用化への期待が高まるが、1度の充電で複数回の移動を可能にする強力なバッテリーの開発などの技術的進歩に加え、安全性の確立や規制の検討など、まだまだ超えるべきハードルは多いようだ。2030年までに「空飛ぶ無人タクシー」が現実になるのか。Wisk Aeroの挑戦を引き続き注視したい。