新世代のA(Action)面とB(Business)面に密着するインタビュー企画。第2回に登場するのは、あくにゃんさん。B面では、会社員としてプロデューサーや広報の仕事をしながら、クリエイターとしても活躍するあくにゃんさんのクリエイターとしての価値観に迫ります。
- 【あくにゃん】
- K-POP、日本のアイドル、地下アイドルなど、さまざまなアイドルを推す男性アイドル好きYouTuber。
普段は会社員として働くかたわら、国内外の現場に通うヲタクとして、YouTube「あくにゃんちゃんねる!」を更新中。
著書に『推しがいなくなっても、ぼくはずっと現場(ここ)にいる―誰も語らなかったアイドルヲタクのリアル―』(主婦の友社)。
- YouTube: https://www.youtube.com/@akunyan
- Instagram: https://www.instagram.com/akunyan621/
- X: https://twitter.com/akunyan621
- TikTok: https://www.tiktok.com/@akunyan621
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“推しにすぐ影響される自分”を楽しむ|あくにゃんのA面
オタクたちが、それぞれのオタ活を楽しめるように
―あくにゃんさんは、YouTubeをメインに、XやInstagramなど様々なSNSを運用していますが、運用する上で大切にしていることは何ですか?
まずは、YouTubeの週2回の投稿を絶対に守ることですね。ずっと前に自分で決めたことで、なあなあにならないように必ず守るようにしています。
また、時間とともに変化してきましたが、自分の中で持っている目的やコンセプトも大切にしています。
最初は「自分の推しを布教する」ことを目的に動画投稿を始めました。推しに今の仕事をやめないでほしくて、推しをバズらせようと思ったんです。だから1本目の動画は自己紹介じゃなくて推しの紹介でした(笑)。
動画投稿を続けるうちに、男の子から「男性アイドルの現場に行きにくかったけど、あくにゃんさんを見てから行けるようになりました」という声をいただくようになりました。その頃は、男性が男性アイドルの現場に行きやすくなるようにしたいということをコンセプトに動画を作っていました。
そして最近は、「無理せず、ゆるく楽しくオタ活しよう」というメッセージを発信できる人でありたいという思いで発信しています。
―その思いを伝えるために普段の発信で意識していることはありますか?
まずは、自分がオタ活を楽しんでいる姿を見せることですね。お金を使いすぎてしまった時や、嫌なことがあった時でも、それをネタにして笑いに変えています。
また、オタクにしかわからない思いを肯定することも大切にしています。例えば、アイドルの熱愛のニュースが出た時、世間からは「アイドルだって人間なんだから恋愛くらいするでしょ」といった意見が聞こえてきますが、オタクたちがショックを受けることもあります。そんな時は、「うるさいな」と世間の声を突き返し、オタクに寄り添うようにしています。
他にも、年末年始に実家に帰らずに現場に行くことや、結婚しない選択をするオタクの方もいますが、そういった選択も肯定し、それぞれがそれぞれのペースでオタ活を楽しめるような発信を心がけています。
―YouTubeを見ている視聴者の方々との繋がりを深めたり、コミュニケーションをとったりするために大事にしていることはありますか?
基本的なことですが、できる限りコメントを返すようにしています。Instagramのフィード投稿にX、YouTube、TikTokなどで8~9割はコメントに返信しています。
とくに大事にしているのは、何かをおすすめされた時は、極力見たり調べたりしてから返すことです。「今度見ます」「そういう子がいるんですね」じゃなくて、「この曲いいですね」「僕はこっちの子が気になりました」と、ちゃんとアクションを挟んで返信するように心がけています。
あとは、Instgramのリールで質問を投げかけ、その回答を動画の中で扱うことも多いです。オタクは他人に興味を持っている人が多いので、他の方が動画にしていたものですが「オタクの私服調査」や「オタクのインマイバック」といったほかのオタクに焦点を当てたコンテンツが人気です。なので、みんなが気になりそうな他のオタクの価値観を発信するコンテンツは定期的に発信するようにしています。
それ以外にも、年に数回ほどオフラインのイベントを開催しています。カフェの1日店長やサイン会、年に1回のバスツアーなど、応援してくださる方たちと直接話せるような機会を作っています。
会社員×インフルエンサーだからできたこと
―インフルエンサー活動を始めてからの最大の挑戦は何でしたか?
最近公開したミュージックビデオ「ランダムは人生だけで十分」の制作ですね。チャンネル史上一番予算をかけた作品で、僕が広告代理店で会社員として培ってきたプロデューサーやクリエイターの経験が生かされた、社会人経験の集大成とも言える大切な作品です。
―その中で学んだことや得たものが沢山あったかと思いますが、特にどんなことを感じましたか?
制作にあたっては、ディレクターを別で立てていたのですが、僕が総合プロデューサーとしてほとんどの部分に関わっていました。スケジュールや予算の管理、給与の支払い、撮影場所となるカフェへの交渉など、いろいろなことを自分でこなしていました。
その中で、もし会社員としての経験がなかったら、ここまで細かく気を回すことはできなかっただろうと感じました。例えば、MVのお披露目の日が決まったら、その日までのスケジュールを逆算して行動したり、撮影日の1週間前にリマインドをして、スタッフが撮影日を忘れないように先回りをしたり。
YouTubeは、トレンドの動画をすぐ翌日に出すようなスピード感が求められるので、あらかじめスケジュールを引いて進めることがほとんどないんですよね。社会人経験がなかったらここまで自分でできなかったと思うし、そういったスキルが身についたことで、すごく自信を持てるようになりました。
―社会人経験を通じて、うまくいくように先を見据えて逆算した行動ができるようになったのですね。それはインフルエンサー活動にも活かされていますか?
失敗せずうまくいくように、という意味では、「炎上しないこと」を意識するようになりました。昔は、好き嫌いをすごくはっきり表現していたんですが、YouTubeを5年ほど続けるうちに、次第に「マス化」してきたんです。丸くなってしまったことが悲しく感じる部分もありますが、視野が広がり、より大きな視点で発信できる「マスな人間」になれたことは誇りにも感じます。
早すぎず、遅すぎず。時流を捉えて作品を残す
―YouTubeのコンテンツのネタを選ぶ基準は何ですか?
過去にバズったものの再生産や、他の人のコンテンツでバズったもの、あとはノリですね(笑)。それに加えて意識しているのは、時代を捉えることです。例えば、紅白の出場歌手が発表されるタイミングで動画を出したり、アイドル関連のニュースがあったらその日中に動画を出したり……。
ただ、そういう動画はあくまで「アンサー動画」であり、コメント欄を掲示板のように使って、他のオタクがどう思っているのかを知るための場として設けているので、“作品”として残らないと思っていて。
僕は、視聴者に「好きな動画はなにか」聞いたら「あくにゃんのこの動画」と答えてもらえるような“作品”を残したいんです。
最近、「ドライヤーをしながら動画を見るからフルテロップがいい」という意見も多いですが、僕はドライヤー中ではなく、ちゃんと腰を据えて見てほしいので、フルテロップにはしていません。その代わりに、言葉にしていない部分やツッコミをテロップで入れて、視聴者が目と耳の両方でしっかり楽しめる作りにしています。
―時代を捉えた動画を作るためにしていることはありますか?
今オタクの中で流行っていることは、世間に取り上げられるまで、2テンポくらいの遅れがあります。なので早すぎないように、あえて少し遅らせることを意識しています。
僕自身、情報のキャッチアップと発信が少し早すぎてしまうこともあると思います。まだ売れていない子を応援するのも好きで、ビジュアルや性格で気になった子がいれば、よく調べて、デビューできるように辛抱強く応援し続けています。
ただ、売れる前のタイミングで動画をあげると、3年後にようやくバズる、なんてこともあります。オタクは意外と、世間が価値を感じ始めたタイミングで応援しだすことも多いですし、YouTubeはオタクの中でも世間に近い場所なので、先取りしすぎないようにタイミングには注意しています。
ビジネスの視点も併せ持つ、唯一無二の地位を目指して
―企業とのコラボレーションを選ぶ際の基準は何ですか?
社会人7年目になって、売上に貢献したいという気持ちが年々強くなってきました。なので、売上に貢献できそうかどうかが大きな基準になっています。さらに、「もう1回依頼がきたら成功、来なければ失敗」という自分なりの基準があるので、引き受けた方にはもう一度、依頼が来るように取り組んでいます。
売上に貢献したい気持ちは、他のYouTuberよりも強い自覚があるんですよね。それはきっと、僕が広告代理店で働いてきたことが関係していると思います。純粋に、売上に貢献できないと申し訳ないし、再生回数が少ないのも嫌です。なので、伸びなさそうな商材のときははっきりと事前に伝えています。
僕は企業寄りで動くタイプのインフルエンサーかもしれません。
―今後コラボしてみたいブランドや企業はありますか?
やっぱりサンリオとは一緒に仕事をしたいですね。
―それはやっぱり「貢献したい」という気持ちも関係しているのでしょうか?
そうですね、貢献したい気持ちが強いです。そもそもYouTubeを始めた理由が「推しを布教する」なので、自分の推しを人に勧めることには前向きにチャレンジしていきたいと思っています。
―過去のコラボレーションで成功したと感じているものを教えてください。
レンタルの防振双眼鏡とのコラボは、売上にも貢献できましたし、別の企業からも依頼をいただいたので、成功したコラボレーションだと思います。特別なことをしたわけではなく、商品の良さが伝わるポイントをしっかり並べたり、実際に自分が使うライブの日に合わせて動画の公開時期を調整したり、会場で使った感想を話したりと、基本的なことをしただけですが、僕との相性がすごく良かったのだと思います。
―コラボレーション以外にも、今後取り組んでみたいと考えていることはありますか?
“男性アイドルについて詳しい人”というポジションを確立したいと考えていますが、その先で“ファンビジネスやオタクビジネスについて詳しい人”というポジションも確立したいと思っています。
そのために、いろいろな界隈のファンがどうハマっていくのか、ファンビジネスやオタクビジネスの実態を知るための企画を進めています。初回は芸能プロダクションのLAPONE、2回目はサンリオ、3回目はスーパー戦隊の話を聞きました。今後はディズニーのダンサーオタクや宝塚など、さらに広げていく予定です。そして最終的には、どこの界隈もある程度分かるようなレベルを目指して、ポジションを確立していきたいですね。
あくにゃんさんは、男性アイドルやファンの動向に詳しく、誰よりもオタクでありながら、ファンからも強く支持される存在でもある。さらに、会社員として培ってきたビジネスの知見も持ち合わせており、オタ活を起点とした知見の深さと視野の広さは、他に類を見ない強みである。“なん足”ものわらじを履く、あくにゃんさんの活躍に今後も期待したい。
文:安藤 ショウカ
写真:小笠原 大介