“バーチャルこそリアル” 既存ビジネスの当たり前を覆すZ世代。エリック教授と考える、新時代への“大人たち”の向き合い方とは

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労働市場にも参入し、購買力を強めていくであろうα・Z世代。彼らは何を考え、どう行動しているのか。大手企業のビジネスコンサルタントを務めながら、青山学院大学では学部長として日々Z世代の学生たちと向き合う松永・エリック・匡史氏に話を伺い、新時代を牽引するZ世代の消費行動を深掘り、“大人たち”が彼らとどうコミュケーションを取り、どのように共創していくべきか紐解いていく。

松永 エリック・匡史
青山学院大学 地球社会共生学部 学部長 教授
1967年、東京生まれ。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了。幼少期を南米(ドミニカ共和国)やニューヨークなどで過ごし、15歳からプロミュージシャンとして活動、米国バークリー音楽院でJAZZを学ぶ。大手メーカーのシステムエンジニア、AT&Tを経たのち、コンサル業界に。アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBMを経て、デロイト トーマツ コンサルティングにてメディアセクターAPAC統括パートナーに就任。その後PwCコンサルティングにてデジタルサービス日本統括パートナーに就任し、デジタル事業を立ち上げ、エクスペリエンスセンターを設立、初代センター長を務めた。2018年よりONE NATION Digital & Mediaを立ち上げ、大手企業を中心にコンサルを行う。2019年、青山学院大学 地球社会共生学部(国際ビジネス・国際経営学)教授に就任、アーティスト思考を提唱。学生と社会人の共感と創造の場「エリックゼミ」において社会課題の解決に挑む。2023年より地球社会共生学部 学部長。事業構想大学院大学特任教授。書籍『直感・共感・官能のアーティスト思考』(学校法人先端教育機構)、『バリューのことだけ考えろ』(SBクリエイティブ)

これからの経済を動かすZ世代。そんなZ世代の消費行動にみられる特徴とは

ーエリックさんは大学で学生たちと直接かかわる機会が沢山あると思います。その中で、Z世代の消費行動の特徴をどのように捉えていますか?

僕はバブル世代で、当時は高価なブランド品が最高とされていた“モノ世代”なんですね。お金をたくさん消費することが正しくて、「ブランド品を持っている人はかっこいい」みたいな風潮がありました。

Z世代の消費行動はそんな僕のブランド品世代とは全く違っていて、持っていればかっこいいと言われるようなブランドではないところに価値を求めていると思います。お金を出す対象が変わってきているんですよね。

彼らの消費行動って、自分が何をしたいかより、周りからどう見られるかにすごくフォーカスしているんですよ。同調圧力が強いんでしょうね。高価なモノよりも、SNSでたくさんシェアされているモノをいち早く身につけたり、食べたりし、それを再度SNSでシェアすることに価値がある。だから、甘いものが好きでもないのに人気のパンケーキを食べに行ってSNSに投稿したりするわけです。そのように、モノの本質ではなくネット上の情報やSNSにコントロールされていて、そこにある情報が“正”になっているのは大きな特徴だと思います。

松永・エリック・匡史氏

あと、これは良い方の動きなのですが、僕の世代にはなかったと思うのが、自分のための消費ですね。

以前、エリックゼミの学生とジュエリーブランドとのコラボレーションでZ世代のブランド観について議論をしたことがあったんです。その時に面白いと思ったのが、今の若い子たちは自分が頑張ったご褒美でジュエリーを買うと言うんです。僕らの時代はジュエリーは男性が女性に貢ぐもので、クリスマス前には高級ブランドショップに列ができたくらいでした。自分で稼いだお金だから価値があるという考え方は新鮮でした。今の若い世代は、自律も大事なんですね。

他にも、高級フレンチを女の子だけで食べに行くような女子会や一人フレンチも変ではなくなっている。ダイバーシティの考え方から今は、自立して自分の力で豊かな生活を送りたいという人が増えているからこそ、自分で自分のためにお金を使う傾向も強いんですよね。これは新しい市場だと思っています。

ーその新しい市場はなぜ生まれたのでしょうか?

「個の時代」に変化しているのではないでしょうか。人生は誰のためにあるのか、人生は自分のものではないかみたいなことを、みんな考え始めているんですね。だから、自分で自分の人生を豊かにするためにお金を使う。一昔前までは「出世できる」「給料が上がる」を餌にすれば人は働いていたんですよ。でも、今の子たちはSNSに頼っている一方で、SNSの同調圧力に違和感を感じ、自分の価値観に向きあうような消費行動が生きる価値へと変わっているんだと思います。

今の市場には大きな伸びしろがある。Z世代の消費行動に対して企業が知っておくべきこと

ーZ世代の消費行動を踏まえて、企業はどんな視点を持つべきなのでしょうか。

Z世代にとっては我々の世代が考えるバーチャルも実はリアルなのである、という考えを持たなければならないと思います。コロナ禍を経て様々なことがオンラインでもできるようになり、生成AIの台頭によってさらにバーチャルの世界にシフトしてきている。オンラインのコミュニケーションとリアルなコミュニケーションの比率やコンピュータとの対話レベルも格段に上がることによってバーチャルの方をリアルと感じる若者が出てきてもおかしくない状況になっている。

でも、Z世代より上の人たちは、手に触れられる生(なま)こそがリアルであると勘違いしがちです。その考えを捨ててリアルの再定義をしないと、Z世代と感覚が合わなくなってしまいます。

逆に、Z世代は手に触れられる生としてのリアルでしかできないことがあると気づいていないところがあるんです。そういう意味では、これからは世代間のコラボレーションが新しい価値観を生み出し、大きな意味を成すと思います。この大きな伸びしろがある今の市場を、僕はすごく魅力的に感じています。こんなに無垢な市場ってないですよ。

ーZ世代に向けては、どのような訴求方法が効果的でしょうか。

今の市場で勝っている企業は必ず1on1マーケティングをしています。「個の時代」の今、“百人百色”、同じ人は誰一人いません。

その背景にあるのが「情報」です。今は情報過多だと言われますが、実は逆で、情報が全然足りていないんですよ。なぜなら、スマートフォンやパソコンといった情報を得るための手段があり、いつでも調べられる安心感からか意外と自分で調べず、信頼性の低いネットの情報を、情報源を確かめることなく頼っている傾向がある。例えば、いいねが多くついている投稿や、ユーザーがそれまでに見たコンテンツによってアルゴリズムでレコメンドされる情報は信頼されやすい。それらの情報は意図的にコントロールされたもので、それを信じてしまうのは非常に危険です。見る情報はすでにコントロールされている。そういう意味では、昔のマスメディアのように同じ情報でコントロールされないので、今や情報は個人単位で分断されていると言えるでしょう。

分かりやすいのが「有名人」という概念です。SNSが台頭する前のマスメディアの時代では、「有名人」はみんな共通だったんです。テレビで良く見るような俳優や芸人こそが有名人でしたから。でも今は情報ソースが分断されているから、それぞれにとっての有名人が違うわけです。僕にとってはものすごい有名人でも、目の前にいる学生にとってはそうじゃないこともあるし、逆のこともあります。だからこそ、有名人を使えば情報が届くことはなく、今は1on1マーケティングでなければ、訴求したい相手に届けたい情報は届かないのです。

でも多くの企業はその逆で、まだマスで市場をおさえようとしている。この旧来のマーケティング方式は変えるべきだと思います。正直、1on1マーケティングは非効率的です。でも、非効率的なことの蓄積が効率に結びついていくのが今のマーケットの特徴なんです。まずはとことん1on1をして、その集積として一つ固まった施策をするべきだと思います。市場は1on1の集積から作られるものであるとも言えるのです。

ーSNSの影響が大きいZ世代にとって、SNSを活用した施策も効果的でしょうか。

SNS自体は情報を発信する手法として良いと思いますが、薄利多売になってしまうことは理解しておくべきでしょう。SNSにおいては、購買意欲を左右するのが、いいねやビューの数、画像のインパクトなどモノと関係ない部分なんですね。だから、商品に対する思い入れが小さくてなかなか単価を上げられないんです。

また、SNSを駆使している多くの企業は、トレンドやビューの数を見てほかのバズに乗っかっているだけで、自分でトレンドを作り出していません。そうやってフォロワー側の感覚でいる限りは、その市場の中で値段を下げて沢山売っていくしかなくなってしまいます。

さらに、そうしているうちに安いモノが正しくなってしまうんですよ。だけど、そこへESGの考え方が入ってくると、安いからと言って環境には最大限の配慮をしないとモノが売れない。ESGには投資が必要ですので、薄利多売ではやっていけない。価格を下げることを優先してしまうと、自分で自分の首を絞めていくことになるリスクがあると思います。

企業の未来を左右するZ世代。経営に与えるインパクトとは

ーZ世代の心を掴めるか否かは、企業の経営をどう左右すると考えますか?

「個の時代」の今、Z世代は僕らの世代よりも自分の人生について真面目に考えています。だから、自分自身の自立や人生の豊かさを求めて、モノの消費より社会貢献を求めるようになってきているんですよ。実は、これが経営者がZ世代に対して一番分かっていない部分だと思います。

以前、学生に航空会社の「カーボンオフセット」の取り組みについて話をしたことがあったんですね。大体の大人は、大手の航空会社取り組みなら安心だと思うじゃないですか。でも意識の高い学生は、本当にそのカーボンオフセットの仕組みが環境を良くしているのかを調べるんですね。そうすると、「もしかしたら営利目的の会社が入っているんじゃないか」「僕たちがお金を出しても悪い方へお金が流れるんじゃないか」と言うわけです。

ほかにも、就職先の企業を選ぶ際に「この企業は社会にとってどういう価値があるんですか」と聞かれることも多々あるんですよ。Z世代の若者たちは、そういうESGの観点で企業を見るようになってきているのをひしひしと感じています。

だから、今後は地球規模の社会課題への意識がブランドイメージに大きく関わってくると思いますね。逆に言えば、社会に対する意識の低さが出た会社は一瞬にして滅びてしまうでしょう。

また、これは消費者からの評価だけではありません。社会貢献に対して意識の高いZ世代が入社してきた時、会社はそれに耐えうるのか。エクセルに並んだ“数字”だけにびくびくしているような上司たちが、果たしてその新入社員たちが求めるものに応えられるかどうか。そこはZ世代に学んで変わっていくべきところだと思いますね。

青山学院大学 地球社会共生学部 エリックゼミ

ーZ世代が求めるものに応えるために、企業はどうすべきでしょうか。

社会貢献に対する意欲や行動がブランドの価値を上げていくのであれば、社会貢献している商品の価格は上げるべきだと思います。これは、日本が世界で生き残っていくためにも重要です。日本は価格を上げることに抵抗がありすぎます。

今の時代、どんな商品でも国際競争力が求められます。その中でも、日本は単価や給与の関係で下げ止まりが来るので、単価を上げる商売をしなければなりません。だから、価格が高いものや質の良いものをどうやって売っていくか、という方向にシフトしないと日本は市場で生き残れないのです。

例えば、日本酒がその良い例です。日本酒がなぜ世界の一流レストランでなかなか売れないかというと、単純に安すぎるからです。どんなに美味しくても、価格の安いものを一流レストランでは出せないですから。世界に受け入れられる為に価格を上げるという施策も必要なのです。ある意味で超一流の日本酒の杜氏はお金持ちになるべきで貧乏な生活を送っていてはいけないと言うことです。

ESGは難しいことを考えることではなく、サプライチェーン全体を見て、みんなが幸せになれるような構造を作ることとも言えます。そして、どのステークホルダーからも、Z世代からも選ばれる企業になっていくことが求められていると思います。そのためにもESGの観点からのストーリーや、透明化させた発信をすることは効果的ですよね。

ーZ世代は、市場だけでなく経営までも左右する存在なのですね。

マーケットを支えているのはZ世代になってきているわけですから、その存在やインパクトは大きいですよね。逆に、上の世代の方が市場としては小さくなっていきます。それを考えると、むしろZ世代に従うべきでしょう。「まだ若いからー」「俺の成功体験はこうだからー」なんて上の世代がZ世代に言うような時代ではないんですね。

見渡してください。Z世代はみなさんの会社の中にもいるじゃないですか。実は、成功のカギは社外だけでなく社内にもあるんですよ。既に会社の中に沢山のアイデアを持っているわけですから、その身近なZ世代とコミュニケーションを取っていくことが成功への近道だと思います。

世代を超えたコミュニケーションが次の時代を作る。Z世代とのコミュニケーションにおける“大人たち”へのヒント

ーエリックさんはZ世代とかかわる時にどんなことを大切にしていますか?

同じ目線に立って、対等なコミュニケーションを取ることですね。僕は長く海外にいていろいろな差別を受けて、そういうものがおかしいと感じて生きてきました。だから、人はみんな平等であり、全ての人が同じ目線で話せたらいいなというのが基本の考えなんです。ずっとそのスタンスで変わらずに接していますね。先生と生徒という関係も取っ払ってフラットな関係から学べればいいなと思っています。

ー対等なコミュニケーションとは、どんなものなのでしょうか。

“対等”って、ずけずけと物を言うことではなくて、お互いに愛と敬意を持つことだと思うんですよ。それは立場の違う人でも、ちょっと苦手だと思う人でも一緒です。

僕と同世代の人からも若者からも人間関係について相談されるんですけど、どちらにも共通しているのが、相手を変えようとするんですよね。でも、相手の性格は簡単には変えられないじゃないですか。だから、自分を変えるんです。

「この人、嫌だな」と遮断するんじゃなくて、「この人にもいいところがあるだろう」と、敬意の目で見てコミュニケーションを取ることから始める。そうしていると、だんだん「いいところ」を起点に相手を見られるようになるんですよ。そうすると相手も自分も心地が良くなって、お互いに敬意を持った対等なコミュニケーションが取れるようになるんです。

ー世代や立場が上か下かに関係なく、お互いが敬意という同じ土台に立ってコミュニケーションを取るのですね。

それが次世代のコミュニケーションだと思います。年上の人が教えるのではなくて、お互いに学び合う。そういう感覚って今までなかったと思うんですよ。

ただ、今はいろいろなハラスメントがあって怖くて何も言えない、どうしていいかわからないと、会話の機会が減っていると思います。でも、それは「Z世代はこうなんでしょ」と思い込んで遠ざけてしまっている僕らが変わるべきだと思います。

遠ざけるのではなく、ひとり一人に向き合って声を聞くこと。「俺の時はこうだったんだけど、あなたにとってこのやり方はどう?」と聞いてみるだけで全然違うと思います。そして、これは面倒なステップではなく、商品開発からマーケティング、人の管理、組織も全てが、次の時代へ向けて良い方へ変わるチャンスなのではないでしょうか。

Z世代はその消費行動に対してSNSから多大な影響を受けているのと同時に、価値観が「個」へと収束している。過ごしてきた時代が全く異なる“大人たち”は、そんな彼らを取り巻く環境や、彼らならではの価値観でまだまだ分からないことだらけだろう。しかし、大人たちがZ世代に対してそう感じるのと同様に、Z世代もまた、“大人たち”の世代を知らない。そのお互いの間にあるギャップこそがコミュニケーションの難しさであるが、その一方で共創の可能性を秘めている部分だ。まずは今ある思い込みを捨てて対等な目線に立ち、敬意をもって接することがその可能性を切り拓くための第一歩となるだろう。

文:安藤 ショウカ
写真:小笠原 大介

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