CM投下直後のコロナ禍で、求人と売上が激減。存続の危機を回避した「偏りの分散」とブランドの一貫性|株式会社タイミー

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企業の成長過程における「ターニングポイント」に焦点を当て、直面した困難やその後の成長に迫る「THE StartUP-革新を生み出す1シーン」。今回登場するのは、「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービス「タイミー」を提供する、株式会社タイミーだ。2024年7月に上場を果たし、さらなる成長が期待されるタイミーだが、ここまでに至る過程は決して平坦とは言えず、とくに同社にとって大きなターニングポイントとなったのがコロナ禍での求人減少だった。この危機をどう乗り越えたのか。コーポレートとサービス、両方のブランディング、PRを担うBX(Brand Experience)部で部長を務める木村真依氏に話を聞きながら、同社のターニングポイントに迫る。

【株式会社タイミー】

設立 2017年8月
2024年7月 東証グロース市場へ上場
本社所在地 東京都港区東新橋1丁目5-2 汐留シティセンター35階
事業内容 「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービス「タイミー」などの提供
企業の成長過程における
ターニングポイント
2019年の12月、CMを打つという、多額の資金を広告に投資。しかし、すぐにコロナ禍となり、求人数と売上が激減。偏りを分散するのが大事だと痛感し、コロナ禍で求人を必要する物流業界に注目することで危機を乗り越える

多額資金でテレビCM実施も、すぐにコロナ禍へ。存続の危機を救った「物流業界への注力」

2018年のサービス開始から6年が経過し、2024年の7月26日に東証グロース市場に上場を果たしたタイミー。累計ワーカー数900万人を突破し、上場後、さらなる成長が期待される。しかし、ここまでに至る過程は決して平坦とは言えず、とくにコロナ禍で存続の危機が訪れた。

「2019年の12月に意を決して初めてのテレビCMを打ったのですが、まだワーカーさんの数も100万人に届かない状態でCMを打つのはなかなかチャレンジングなことでした。資金調達したお金のうち数億円を使う、大規模な投資。相当な意思決定だったと思いますが、そのおかげでワーカー数は一気に増加しました。しかし、そのあとすぐにコロナ禍になってしまい、多額の資金を広告に投資したにもかかわらず、一気に求人数が減り、比例して売上も激減。当時、求人のうち8割近くは飲食業界だったことが大きく響きました。このままいくと、会社を存続できるのか、従業員はどうなるか、本当に危機的状況。ただ、その状況を黙って見守るわけにはいきませんので、飲食業界の求人数は激減したものの、コロナ禍によって求人を必要する業界もあるだろうと、経営陣も含めて現場の営業メンバー総出で調べていきました。その結果、注目したのが物流業界です。巣篭もり需要によってインターネットでの買い物が増えた結果、物流業界はこれまで以上に忙しくなっている状況でした。そこで、物流業界の事業者の方にタイミーを使ってもらえるよう、課題や業務プロセスなどをヒアリングし、専任チームを作り提案しました。結果として、V字回復をして、危機的状況を乗り越えたのです。コロナ禍以前は飲食業界に偏っていたために危機状況に陥ったこともあり、偏りを分散するのが大事だと痛感した出来事でした」

BX部 部長 木村真依氏

ブランドの一貫性を保つために開発にも関わる。タイミー流ブランディング

求人の幅を広げることで危機的状況を乗り切ったタイミー。求人の偏りをすぐさま分散し、働き先の選択肢を広げられた背景には、軸となるミッションの存在がある。

同社では、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」というミッションを掲げている。ブランディングを行う過程でもこのミッションを軸にしており、ミッションを具現化しながら、タイミーの印象をつくる役割がBX部にはある。

「ミッションは最大公約数で、人生の可能性を広げるといってもいろいろな解釈がありますよね。そのため、人生の可能性を広げるとは何かをワークショップで考えたり、経営陣と話したりしながら、例えばスキルが向上する、キャリアアップにつながるなどブレイクダウンしていきます。そして、ブレイクダウンした項目と合致するワーカーさん(働き手となるユーザー)の事例など、『ファクト』を発信しながらタイミーの印象をつくっていくのが、我々の考えるブランディングです。また、我々の活動では、ワーカーさん、事業者様とお話するなかで得られる『ユーザーの声』も大事にします。

とくにアルバイトをしていて報われない経験を聞くことが多いのですが、例えば『タイミーで100回仕事したけれど、スキルとして認められない、可視化されない。これまでの実績によって時給が変わると嬉しいです』という声がありました。

プロダクトやマーケティングのチームでもワーカーさんへのヒアリングは行なっておりますが、そのような各部署からの声を集約して、『期待以上の働きをした』と認められたスキルや実績を示すバッジ機能をリリースしたこともあります。また、直近ではバッジ機能によってスキルを可視化することで通常よりも高い時給で仕事のオファーが受けられる「バッジ限定お仕事リクエスト」も実装しました。このように、ワーカーさん一人ひとりが『できること』をどんどん積み上げて人生の可能性を広げて欲しいという、ミッションを体現する機能として発信しています」

スキルや実績を可視化する「バッジ機能」

プロダクトの開発から発信まで、ブランドとしての一貫性を保つために、BX部では開発の初期段階から関わることも多い。マーケティングチーム主導のテレビCMの制作などにもBX部が入り、訴求内容を見て、ミッションに準ずるかを判断することもあると言う。タイミーが行うブランディングは、こうした一貫性がある。

「一貫性は、ブランディングにおいて何よりも重要です。例えば普段はたくさんSNS公式アカウントでポストしているのに、インシデントがあったときに、何も言わないのは一貫性がない。なにか悪いことがあったら隠すんだねという印象につながってしまいますよね。同じ理屈で、ワーカーさんに提供する機能とミッションで伝えていることに乖離があったら、それこそ一貫性がなくなり、ブランドのイメージ低下につながります。だからこそ、機能開発などにも、我々BX部が関わるようにしています」

また、「THE 赤提灯」という飲食店の立ち上げなど、課題解決策の具体化から発信まで、一貫性を保ちながら実施したプロジェクトもある。

「コロナ禍を経てとくに深刻となった飲食店の人手不足解消には、飲食の魅力を感じてもらえるお店で働くことや、飲食店で働くスキルを習得・育成する環境が事業者様、ワーカーさんの可能性が広げられると考え、そのファクトをつくるために『THE 赤提灯』というプロジェクトも実施しました。飲食店とコラボして再現性のある独自のカリキュラムをつくり、初めての方でもできる業務を30項目に分け、それぞれのレベルを可視化。飲食の経験者は、時給がアップする仕組みにしたんです。コンセプトは、『アルバイト全員がスポットワーカー』。つまり、従来のようにシフト制のアルバイトやパート採用ではなく、スポットで働きたいタイミーワーカーのみで営業を行うお店です。異例の試みでしたが、開業から1年間、ワーカーさんがマッチングしないことによる休業や営業時間・客席の縮小は一度もありません。アンケートでも『THE 赤提灯の経験が実績となり、ほかの飲食店で教育や現場リーダーを任されました』『接客を何年もやってきたけど赤提灯で働くことで自分の足りない部分に気づかされました』『ここで学んだ接客の基礎が、ほかの飲食店でも活かされました』などの声を、ワーカーさんからいただくことができました」

全てのアルバイトスタッフを「タイミー」ワーカーで構成する、居酒屋「新橋銀座口ガード下 THE 赤提灯」

ミッションというブレない軸で統一する役割が必要。ブランドを司る部署を立ち上げた狙い

ここまで紹介したように機能開発に携わったり、飲食店を立ち上げるプロジェクトを実施したりなど、一般的なブランディングの枠を飛び越えてさまざまな挑戦を行う、タイミーのBX部。木村氏が入社した当初、社内の状況をキャッチアップしていくなかで感じた課題感をもとに、立ち上げた部署だ。

「皆さん会社のことを当然思い、最善策を実行しています。ただ、サービスをどういうイメージで訴求したいのか、部署によって異なることに気づきました。例えば学生向けバイトやセーフティーネットというイメージを重視する部署もあれば、副業解禁や働き方改革など社会課題に合わせた訴求を行いたいという部署もあり、外部に向けたコミュニケーションは異なり一貫性があまりありませんでした。どういう『ブランド』であるべきか、1つの切り口でみんなのやっている活動を横串にし、少ないリソースで最大限タイミーのやっていることを伝える部署が必要だと感じました。そこで、代表に提案してつくったのがBX部です。組織は徐々に大きくなってくると分散化し、各部署で伝えたメッセージがバラバラになります。ステークホルダーに合わせてメッセージを変えていくことは良いのですが、それをブランドの意味=ミッションというブレない軸で統一する役割が必要だと感じたのです」

木村氏の提案で、新しく立ち上がったBX部。一つひとつ実績を積み重ねていくことで、周囲からもその存在を認められていった。

「私たちの部署が担う『ブランド』は、そもそも目に見えず、抽象度が高いもので、わかりにくい。でも、ブランドとは簡単に言うと、自分がタイミーに対してどういう印象を持っているのかなんです。うちで言うと社員には、ミッションで語っているイメージを持ってもらいたい。それを社員全員が共通認識として持つことで、日々の活動に反映され、結果的にユーザーから見たときのタイミーの印象につながります。このように、社内でミッションに対する解像度を上げることも大事です。そのため、社内イベントで、ミッションを体現するワーカーさんの話を聞く場を設けることもあります。また、社内外問わず『タイミーラボ』というオウンドメディアなどで、ミッションを体現するワーカーさんや事業者様のストーリーを可視化しています。これまでの取り組みにより社内の認識は少しずつ揃ってきたところがありますが、社外に目を向けると、まだまだ『ただのスキマバイトでしょ』という反応もあります。でも、私が入社した2021年頃と比べると、世の中からの反応も少しずつ変わってきており、当初はバイトアプリのイメージしかなかったものの『タイミーを使ってこんな体験ができました』と、体験価値に目を向けるSNS投稿などもたくさん出てきており、ミッションを体現してくださっているワーカーさんや事業者様も増えてきました。これからも、ブランド体験の向上に向け、1つずつファクトを積み重ねていきます」

ブランディングの軸を、ミッションに置くタイミー。一貫したブランドをつくるために、BX部が機能開発に関わるのはもちろん、自分たちでTHE 赤提灯プロジェクトなどミッションを体現するファクトを生み出すのが印象的だ。スタートアップが急拡大し、従業員数も増えるなかで皆が向く方向を統一するのは、一つの大きな壁として立ちはだかる。そんなとき、タイミーのようにブランディング×ミッションの視点を持つと解決できるのかもしれない。

木村真依
BX部 部長

新卒でマクロミルへ入社後、当時30名のクックパッドに事業立ち上げメンバーとして入社。マーケティング支援事業やセールスに従事し、セールスMVP・全社MVPに。その後PR専任となり、クックパッドのビッグデータ等を活用したブランディング、PRで月間約6300万人が利用するサービスへと事業成長に寄与。約10年間勤めたのち、GU/ファーストリテイリング(兼務)でマーケティング、PRとして従事。その後PRのSaaSアプリ事業の責任者、フリーランスで企業のPR、ブランディングのコンサルティングを行い、2021年2月にタイミーにジョイン、現在に至る。

文:吉田 祐基
写真:Mai Sato

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