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フランスのAIスタートアップMistralが、新たなAIモデルを大型モデルと小型モデル両方で発表し、話題になっている。
複数の言語に対応し、推論、コード生成、数学などの分野で高い性能を示す大型モデル「Mistral Large 2」は、GPT-4クラスの性能を持つ非常に高性能な人工知能だ。一方、小型モデル「Mistral-NeMo」は一般的なデスクトップコンピューターでも動作可能な設計になっており、高い機能を持ちながらも、幅広いユーザーを対象としている。
クラウドベースの大規模AIモデルと、プライバシーやレイテンシーを重視するローカル実行可能な小型モデルの両方のニーズに応えることを目指すMistralのAIモデル開発戦略と、この新モデルが企業のAI活用にもたらす可能性を探ってみたい。
フランス発、話題のAIスタートアップ「Mistral」
パリを拠点とするユニコーン企業Mistral AIは、2023年、優れたパフォーマンスに加えて、抜群のアクセスのしやすさが特徴のデビューモデルMistral7Bのリリース以来、常に話題を集める存在だ。
Mistral7Bは、ソースコードのオンライン共有サービスGitHubから、世界中の研究者や開発者が簡単にダウンロードできるものであり、そのオープンソースを原則とするスタンスは注目を集めた。
同社はこれまでに数億ドルを調達し、今年2月にはマイクロソフトとの契約を発表。投資家や大手IT企業からの信頼の厚さを示した。
欧州発のAIユニコーン企業として、関連政策の策定にも積極的に関与しており、EUのAI規制法に関する議論でも、オープンソースAIの規制緩和を主張し存在感を示していた。
幅広いユーザーにAIを。MistralのAIモデル開発戦略
そんなMistralのAIモデル開発は、性能の高さになってだけでなく、より幅広い層からのアクセスを可能にする方向にも力を入れている。
今年7月に発表された最新2モデルのうち、大型モデルMistral Large 2は研究目的および非商用目的ではオープンな使用と変更が可能だ。
時価総額全米3位の人工知能(AI)向けの大手半導体メーカーエヌビディア(NVIDIA)との共同開発のもとに提供されている小型モデルMistral-NeMoは、クラウドを使わない環境でも高性能なAIを企業のデスクトップに提供できるモデルであり、ノートパソコンやデスクトップPCでの使用を想定している。
中小企業のAI活用にMistralの新モデルがもたらす可能性
この小型モデルMistral-NeMoは「高度なAI機能へのアクセスの民主化」を掲げ、120億のパラメーターと128,000トークンの広大なコンテキストウィンドウを備えていながらも、大規模なクラウドリソースなしでAIソリューションを実装、コストやデータプライバシーというAI導入の障壁に挑戦するモデルだ。
Mistral発のAIのビジネスユースケースは、ブログ記事執筆、コピーライティング、ソーシャルメディア投稿などのコンテンツ作成から、カスタマーサポートの自動化や他言語対応、ビッグデータ分析、コード補完やコード生成まで幅広い。たとえばMistral Large 2は、80を超える幅広いコーディング言語のサポートが可能だ。
これまではAI導入に予算を大きく割り当てることのできる大企業しか利用できなかったAIによる業務効率化を、より規模の小さな企業でも活用できるようになる可能性を示すものとして、Mistralの新モデルには大きな期待が寄せられている。
主要AI企業の最先端AIに匹敵するベンチマーク
これまで多額の資金を調達し評価額が約60億ドルに達したMistal AIだが、同社は、この資金を使ってコンピューティング能力をさらに増強、チーム規模を拡大し、OpenAIやAnthropicなどのライバル企業に対抗していく計画だと述べている。
今回発表されたMistal AIのAIモデルはどちらも大規模な128,000トークンのコンテキストウインドウを備え、長いテキストを処理および理解できるため、より一貫性のある、的確な出力が可能となっている。また、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、中国語、日本語、韓国語、アラビア語、ヒンディー語など、幅広い言語に対応しており、AIが特定のタスクを遂行する能力を評価するベンチマークにおいても、非常に高いパフォーマンスを示している。
主要AI企業の最先端AIに匹敵するベンチマーク
Mistral Large 2のベンチマークは、コードの理解や生成、そして数学がこれまでのと比較し大幅に改善し、パラメータ数では大幅に上回るOpen AIやMeta、Google、Anthropic大手AI開発企業の最新モデルと競合する結果となっている。
数学的能力を測るMATH ベンチマークでは、71.5%のスコアを獲得したMistral Large 2は、Gemini 1.5 Pro、Gemini 1.0 Ultra、GPT-4、Claude 3 Opus など、他社モデルを大幅に上回る結果を残した。
また、学部レベルの知識、推論能力を評価するMMLUベンチマークでも、Googleの最大モデルであるGemini 1.0 Ultraを含む多くの独自モデルと同等か、それを上回る結果を示していた。
多言語対応の生成AIは、言語間でパフォーマンスに差があるものも少なくないが、Mistral Large 2はロシア語や日本語といったアルファベット以外の言語を含む対応言語範囲全体のMMLUにおいて、優れたパフォーマンスを維持していることも特徴的だ。
生成AIが驚くべき速度で進化し続ける中、Mistral発の新しいAIモデルのリリースは、規模を問わず様々な企業がより手軽に利用できる、効率的で強力なAIへの道を切り開く重要な一歩となったのではないだろうか。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)