「Live with nature.(自然と共に生きる)」をビジョンに掲げ、2019年に創業、2021年にメンバーシップ制セカンドホームサービス「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム、以下、SANU)」をリリースしたSanu。

月額55,000円〜のサブスク別荘という斬新なビジネスモデルで話題となったSANUは、31カ月連続で会員枠が満員という人気ぶり。1年以上も会員待ちの状態が続いたが、現在はほぼ解消している。2025年には施設数が30拠点200室に拡大し、国内最大の会員制別荘事業となる勢いだ。

前編では、SANUを中心に変化する「別荘市場」を取り上げた。後編では、2024年8月にオープンしたばかりの新施設「北軽井沢2nd」を訪れ、新たな建築モデル「SANU CABIN MOSS(モス)」に体験宿泊した様子を伝えたい。北軽井沢の自然と一体化するような“移住未満、観光以上”の暮らしとはーー。

東京から車で4時間弱、軽井沢駅からは約40分

北軽井沢2ndが位置するのは、群馬県吾妻郡嬬恋村。東京駅からバスで出発して、軽井沢駅までが約3時間(途中パーキングエリアで10分間の休憩あり)、そこから北軽井沢2ndまでが約40分だった(混雑状況により前後するため、所要時間は目安となる)。

晴天に恵まれ、みずみずしい緑を眺めることができた(筆者撮影)

SANUが展開するセカンドホームは、2024年夏現在は関東から車で3時間以内の場所がほとんどなので、北軽井沢2ndはやや遠方となる。

今回は、軽井沢駅から車で約10分の距離にある「スーパーマーケット TSURUYA ツルヤ 軽井沢店」に立ち寄ったため、8時に東京駅を出発して、現地に到着したのが13時45分頃だった。

SANUのスタッフがおすすめしていた通り、ツルヤは取扱商品が多く、オリジナルの商品も充実した魅力的なスーパーで、あれもこれもと買い込みやすい。筆者は一人分の夕食と朝食、晩酌用のワイン、少しのお土産で約5,000円と想像以上の出費だった。

森林に囲まれた新建築「MOSS」の魅力

北軽井沢2ndには、全13棟のキャビンがある。元々は森林だった場所の木を一部伐採するなどして建築物を建てており、まるで森と一体化しているような施設だ。キャビンのすぐ横には、手つかずの自然がそのまま残っている。

森の中に建つキャビン。すぐ横には本来の森が広がる(筆者撮影)
SANUの建築は環境負荷を最小限に抑え、循環型の建築設計を採用している(筆者撮影)

SANUが建築において実践するのは、資源の価値を減らすことなく再生・再利用し続ける仕組みづくりを軸に据えた循環型の建築設計を指す「サーキュラー建築」だ。国産木材の活用や建築資材の再活用を可能にする「釘を使わない」工法、土壌への負荷を軽減する高床式建築などを採用し、環境負荷を最小限に抑えている。建築設計施工パートナーは、創業当初からSANUが取引しているADX社だ。

現地ではADX 代表取締役の安齋好太郎氏(手前左)とSANUのFounder兼、Brand Directorの本間貴裕氏(手前右)が、建築のこだわりを語った(筆者撮影)

新建築モデルとなるMOSSも高床式建築で、地中に打ち込まれた8本の杭が建築物を支えていることに驚かされた。こうすることで土壌への負荷が小さく、風や水の流れを止めずに建築できる。さらに、建築物を取り壊した際も土壌が元の状態に戻りやすく、数年で豊かな自然が戻ってくるそうだ。

MOSSは厳しい気候にも耐えられる(筆者撮影)

MOSSの魅力は環境にやさしいだけじゃない。真冬はマイナス20度にも冷え込む北軽井沢の気候や豪雪にも耐えられる。屋根の上に3.5メートルの雪が積もっても耐えられるという。約2週間で完成する施工方法も斬新だ。福島にある工場で外壁や断熱、浴槽設備まであらかじめ組み立ててから現場に運ぶことで、短期間での施工を実現している。

木のぬくもりと香りに癒やされる

最大4名まで宿泊できるMOSSは50平米ほどの広さで、大人2人で宿泊するのにちょうどいいサイズ感。天井が高く、天窓が設置されているので開放感がある。木材の良さを存分に生かした建築で、通常の木造建築の木材使用率が約8%のところ、MOSSは39%と約5倍だという。

素材のうち木材が39%も使用されている(筆者撮影)
緑が見える天窓があり、癒やしを感じられる(筆者撮影)

いたるところに木材が使われていて、それぞれ種類や質感が異なっている。木ならではのぬくもりや香り、落ち着きはSANUの拠点の共通点でもあり、MOSSでの体験価値を引き上げる要素の一つだと感じた。

自然を眺めながら、心地よくデスクワークができる(筆者撮影)

窓からは美しい緑の葉っぱをつけた木々や苔、岩がすぐそばに見えていて、自然との距離がとても近い。これだけ豊かな自然に囲まれているため、虫ともよく遭遇する。時に部屋の中にも現れるので、虫除けスプレーを持参すると良さそうだ。

都会育ちの子どもたちは虫を怖がることもあるかもしれないが、数日滞在すると慣れるようだとSANUのFounder兼、Brand Directorの本間貴裕氏は話していた。ちなみに筆者も決して虫が得意ではないが、1日滞在しただけで慣れてくる感覚はあった。

自然に囲まれ、地場の食材を味わう

SANUといえば、充実した設備(施設によって若干異なる)も特徴的。室内には音質にこだわったスピーカーやプロジェクターが備えてあり、ゆったりと映画や音楽を楽しむのに打ってつけの環境だ。

SANUはキッチンが部屋の中央に位置するよう設計されている(筆者撮影)
調理に必要な家電も一式そろっている(筆者撮影)

キッチンには、オーブンレンジや炊飯器などの調理家電、鍋やフライパンなどの調理器具、食器にカトラリー、基本的な調味料まで一式がそろっている。外にはバーベキュー台が備え付けてあり、網を持参すればバーベキューも楽しめる。

バーベキューや焚き火は、SANUでの楽しみ方の一つ(SANU提供、写真は別拠点での焚き火の様子)

この日も何組かがバーベキューをしていた。涼しい北軽井沢の気候の中、森林のそばでの食事は特別な体験になりそうだ。ちょうど滞在していた子どもたちは、焚き火台の周囲で大はしゃぎで花火を満喫していた。

都心に暮らす子どもにとって、定期的にこうした自然と触れ合うのは良い学びになるはずだ。大人にとっても、みずみずしい緑に囲まれ鳥の鳴き声が聞こえる環境は、脳をリフレッシュさせ、五感が研ぎ澄まされるかもしれない。

贅沢なサウナ付きのキャビンもある(SANU提供)

一日の終わりには、サウナと水風呂で疲れを癒やすこともできる(一部の棟のみ)。木の香りに包まれて温まると、より癒やし要素が高まると感じた。

数日滞在すれば、より“暮らし”を実感

SANUの会員は、現地でリモートワークをしながら「観光」と「暮らし」をどちらも楽しむ人が少なくないという。高級ホテルのようなラグジュアリー感や人によるおもてなしはないが、美しく整理整頓された居心地のよい空間と十分な設備がSANUにはある。日常の延長を楽しむなら、むしろ至れり尽くせりでない環境が適しているかもしれない。

充実したキッチンで、地元の食材を調理をして楽しむ人が多いそうだ(SANU提供)

SANUが持つ非日常感は、いつもと同じ仕事、いつもと同じ食事も特別な時間にグレードアップしてくれる。一人で伸び伸びと過ごすのもいいが、大切な人と一緒に訪れたら、より印象的な思い出になるかもしれない。実際、筆者が大切な人たちとSANUをで過ごした過去の体験は、幸せな思い出として記憶に残っている。

今回は、1泊して翌日10時にはバスに乗って帰路に向かうスケジュールだったが、数日滞在すると、「セカンドホーム」の醍醐味を実感しやすいだろう。周囲には自然を生かした観光名所が多くあるが、滞在のどこかでゆるりと過ごす時間をつくると、SANUが打ち出す「都市と自然を行き来し、暮らすライフスタイル」の良さを存分に感じられるかもしれない。

取材・文:小林香織
編集協力:岡徳之(Livit
取材協力:SANU:https://2ndhome.sa-nu.com/