都心部を中心とした価格上昇を背景に、注目を集めるマンション購入。働き方やライフスタイルの多様化とともに、住まいの選択肢も広がる中で、入居者・購入者も意思決定の判断材料が明確になる高度な販売アプローチを求めるようになっている。

あまたあるブランドが魅力的な物件で競い合う中、先進的なサービスを提供する一つが、日鉄興和不動産の「LIVIO」だ。デジタルを活用した新築マンション販売の変革で業界をリードする同社は、3次元LEDパネルを用いて実寸大の間取りを映し出す体験型マンションギャラリー「LIVIO Life Design! SALON」を、2023年3月に品川でオープン。情報の非対称性を解消する販売手法や手厚いアフターサービスによってブランド力を向上させ、首都圏におけるマンション供給戸数では2年連続トップ5に入っている。

今回AMPでは、「LIVIO」を担当する日鉄興和不動産 住宅事業本部 カスタマーリレーション室の冨田雄也氏、鈴木英太氏を取材。「LIVIO Life Design! SALON」を起点に、これからのマンション選びに必要な顧客体験を探っていく。

マンション業界の課題「情報の非対称性」へ挑む

マンション購入は、人生の中でも最も大きな買い物の一つだ。しかし買い手の誰もが豊富な知識や経験を備えているわけではないため、手探りをするように大切な住まいを決めるケースも多く、買い手と売り手の間には“情報の非対称性”が生じる。こうした不動産業界の状況を課題視するのは、LIVIOのブランディングを手掛ける鈴木氏だ。

鈴木氏「特に新築マンションの場合、現地を見学しても更地や建築中であることが多く、販売初期は価格が決まっていない場合があります。モデルルームはその物件の中で複数ある部屋タイプの中から限られたものしかご確認いただけないことがほとんどですし、眺望など建設前には分からない要素もあります。マンションは、大部分の方が初めて購入するにもかかわらず、判断する上でお客さまが欲しい情報と比べて、提供できる情報量が少ない状況にあります。当社としてもこうした状況を課題と感じ、解消に努めてきました」

日鉄興和不動産 住宅事業本部 カスタマーリレーション室 リビオカスタマーサービスグループ 鈴木英太氏

情報の非対称性は、不動産業者にとっては一見特に課題と捉える必要がないようにもみえる。特にマンション購入が活発化する近年において、同社がこの課題にアプローチしようとするのは、どのような理由があるのだろうか。冨田氏は「競争戦略」だと語る。

冨田氏「情報の非対称性は、新築マンションが大量に供給されるようになった高度成長期の頃より存在しますが、そうした仕組みの中でも不動産業者は十分に需要に応えられてきました。しかし昨今ではインターネットなどでさまざまな情報が得られるようになり、お客さまが情報の透明性を求めているのは明白です。そのニーズに真摯に向き合うことは、他社との差別化にもつながると考えています。昨今の人件費や建築費の高騰を受けた価格高騰の中においても、当社は順調にマンション販売を行っていますが、より長期的な視点に立つとどうでしょうか。購入時の納得感、購入後の満足感を得ていただくことで、お客さまの信頼は少しずつ積み上がります。徹底した顧客目線に立つ事業展開こそが、長期目線での自社の価値向上、および他社との差別化にはとても大事だと思っています」

LIVIOが顧客目線を重視する根底は、「人と向き合い、街をつくる。」という日鉄興和不動産の企業理念だ。不動産の価値を決めるのは顧客自身であり、企業はその価値観に寄り添うべきだという姿勢が、この理念に表れている。

冨田氏「こうした経緯から、LIVIOは2021年にリブランディングを行い、『人生を豊かにデザインするためのマンション』というブランドコンセプトを設定しました。マンションは通常、立地や広さ、間取りなどを評価するものですが、私たちはそれらを手段と捉えています。最終的に目指すのは、お客さまの人生をトータルで豊かにすること。豊かさを指標に、マンションづくり、販売、アフターサポートなどに従事し、LIVIOブランドを強化したいと考えています。その一環として現在注力しているのが、体感型のマンションギャラリー『LIVIO Life Design! SALON』です」

日鉄興和不動産 住宅事業本部 カスタマーリレーション室 リビオカスタマーサービスグループ グループリーダー 冨田雄也氏

では、「LIVIO Life Design! SALON」ではどのような形で、顧客の人生を豊かにしているのだろうか。次に具体的なサービス内容を見ていく。

「デジタル×リアル」で集合型モデルルームの可能性を広げる

「LIVIO Life Design! SALON」は、2021年に上野でオープンし、2023年に品川へ移転している。サロンが企画されたきっかけは、顧客の購入体験を向上させようと、モデルルームの在り方を見つめ直したことだったという。

鈴木氏「当時、情報公開や利便性向上のためにマンションのオンラインストア『sumune』をローンチするなど、当社は積極的にテクノロジーを活用したマンション販売を進めていました。そうした中、オフラインでもより良い購入体験をしてもらいたいと考え、モデルルームの在り方を見直しました。『LIVIOの複数物件を1カ所で体験でき、お客さまが比較しながら検討できれば、有意義ではないか』という発想から“集合型モデルルーム”という方針が定まっていきました」

冨田氏「理由の一つとして、モデルルームにおける運用上の課題も挙げられます。マンションのモデルルームを一つ造ると、賃料などの維持費を含めれば少なくとも4,000~5,000万円以上の予算を要し、販売が終われば壊すのが基本でした。大規模マンションであれば十分に経費を賄えますが、小規模物件の場合は十分な空間や設備を取り入れられず、ご満足いただける購入体験を提供できません。同時に、土地代、人件費、資材費も高騰していることから、私たち不動産業者は事業経費圧縮の必要に迫られていました。ただ、単純にコストを削減するだけでなく、それをお客さまの価値に還元しなければ、長期的な事業の成長は見込めません。集合型モデルルームとして無駄や重複、人件費を含めて効率化させながら、顧客視点に立ちサービスを向上させる。そのために『LIVIO Life Design! SALON』では、多くの工夫を施しています」

サロンにおいて重要な機能を果たしているのが、「リアルサイズスクリーン」だ。床1面、壁2面に設置したLEDパネルにより、見学したい物件の実寸大の映像が映し出される設備で、ユーザーは床のLEDパネルの上を自由に歩くことが可能。間取り、内観、壁の高さ、眺望などを、あたかも部屋にいるように体感できる。

鈴木氏「当社はこのVRを実寸で実空間に投影し、間取りを実寸で体感いただける、リアルサイズスクリーンを業界で初めて企画・開発し、このリアルサイズスクリーンを用いてこれまで15物件以上を販売してきました。ソファやテレビ、テーブルなど、基本的なサイズの各家具を映像上で動かし、配置をシミュレーションすることもできます。AppleのVision Proによりキッチンや家具の高さを立体的に確認できるなど、機能のアップデートにも取り組んでいます。Apple Vision Proを用いて実寸大に投影された間取りにMR上で家具などの配置を体験できる販売手法は、2024年8月時点で業界初の取り組みです。将来的には、マンションが立地する街の音、香りなど五感でよりリアルな体験までできるようにしたいとも思っています」

リアルサイズスクリーンでは、販売中のマンションの間取りを実寸で体験できる

冨田氏「三面大型LEDで部屋を映すリアルサイズスクリーンは、業界内でも初となる試みでした。VRでの内覧はコロナ禍前後から流行していましたが、モニター上でのVR内覧では、お客さまは実際に広さを体感した、部屋を見た、という感覚にまでは至らないと感じていました。バーチャル空間で生成した間取りを、あえてリアルな実空間に表現することで、ご家族や販売員と会話をしながら間取りや家具の配置、眺望をよりリアルに体感いただけるようになりました」

リアルサイズスクリーンが画期的なのは、全ての部屋を個別に見学できることだろう。一つのマンションにつき原則1戸だった従来のモデルルームでは、展示される部屋以外を希望する場合、詳細は図面で確認するしかない。

鈴木氏「図面一つで数千万円~数億円の買い物をすることには、ためらうお客さまもいますし、入居後のギャップにもつながります。また、近年は離れたエリアで物件を比較検討する方も増えているため、どのエリアの物件であっても移動を伴わずに見学できることが、集合型モデルルームのメリットだと考えています」

マンションからの眺望の再現や、Apple Vision Proも活用することでキッチンや家具の高さを立体的に確認することも可能

立地が品川から離れている場合、マンションの周辺環境を見学できないなど、集合型モデルルームにはデメリットもあるが、「LIVIO Life Design! SALON」にはこの特性を補完する設備も用意されている。サロン内には四つのシアタールーム「Life design! Theater」があり、周辺環境を大画面に映し出すことが可能。地理的に離れた物件でも、その街を歩いているような没入感で、環境を確認できるのだ。

鈴木氏「マンション周辺や最寄り駅からの道のりを、日中・夜間の両方で映像化しています。できるだけ現地の環境を知っていただくため、カラスの鳴き声や放置自転車など、通常はカットするような要素もそのまま残し、あえて“盛らない”映像としました」

冨田氏「リアルサイズスクリーンや『Life design! Theater』で見学していただいた後は、サンプルルームで、オプションを盛り込まない標準仕様のキッチンや浴室等の水回りの設備、床や壁のサンプルで、実物の質感を確認していただけます。デジタルとリアルを組み合わせた体験により、隅々まで自分が検討しているマンション、住戸をリアルに体感できるのが、『LIVIO Life Design! SALON』の最大の強みです」

マンション周辺の「街」の雰囲気を大型のシアターで体験可能。昼や夜、多様な視点とルートで近隣の様子を確認できる。スタッフやパートナーと会話がしやすいように個室で設計がされている

目指すのは「購入」ではなく、長期的なライフサポート

「LIVIO Life Design! SALON」では他にも、購入体験を高める工夫が随所に施されている。靴や荷物を預けるロッカースペース、キッズスペース併設の相談スペース、手洗い付きのおむつ替えスペースや授乳室など、長時間滞在できるように設備が整えられ、コーヒーを提供するカフェスペースで休憩することもできる。

鈴木氏「カフェには『ライフデザイナー』というコンシェルジュが常駐し、リラックスした雰囲気の中で気軽に相談できます。もちろん各物件の担当営業スタッフもいますが、ライフデザイナーの特徴は第三者的なスタッフであること。営業は基本的に行いません。立地、予算、家具レイアウトなどはもちろん、なんでも相談でき、場合によっては『まだ購入は早いのでは……』という助言をしたりもします」

常設である「LIVIO Life Design! SALON」は予約一つで来場でき、ライフデザイナーからは入居後のサポートを受けることもできる。アフターサービスや、取扱説明書の見方、住宅ローン、修繕、売却や買い替えなど、対面で相談できる内容が充実していることも、サロンの大きな特徴だ。

鈴木氏「専門家を招いた、入居者向けのイベントも頻繁に開催しています。インテリア、観葉植物、香りづくりやお掃除から睡眠改善まで、生活に関わるさまざまなテーマを企画してきました。先日は、お子さまと当社の社員が理想の間取りを考える、自由研究向けのイベントも実施しています。中には参加費が有料のものもありますが、それでも多くのお客さまに来ていただいています」

サロン内で開催されたイベントの様子。ファミリー向けにマンションの間取り造りを題材に自由研究のイベントを開催

冨田氏「私たちは『LIVIO Life Design! SALON』を単なるモデルルームでなく、LIVIOというブランドに触れ、ファンになってもらう場と捉えています。入居後のサポートで直接的に売り上げが上がるわけでもないですし、常時サロンを設けることは、ある意味でクレームを頂く場を設けることにもなります。それでもお客さまとの継続的なコミュニケーションを重視するのは、お客さまの声をきちんと聞き続け、ホスピタリティを強化したいから。入居者さまにLIVIOの価値を認知していただければ、長期的には事業成長にもつながると考えています」

テクノロジーやコミュニケーションにより、顧客の不安を解消し、信頼を構築する。「LIVIO Life Design! SALON」は、情報の非対称性の解消につながるソリューションとして、業界内でも注目されている。

冨田氏「通常のマンション販売では、お客さまの期待値を高めて購入につなげることが、不動産業界のセオリーです。サンプルルームにオプションをたくさん盛り込み、標準仕様よりも魅力的に見せる手法などは、そうしたセオリーの一例でしょう。一方、私たちは情報の透明性を重視しているので、映像や設備を極力リアルに近づけます。その場限りの期待値ではなく、実際に住んでから振り返り、『LIVIOにしてよかった』と感じてほしい。そうした思いが、『LIVIO Life Design! SALON』の根底にあるのです」

人生を豊かにするマンションを目指し、パートナー共創の強化へ

「LIVIO Life Design! SALON」には現在、年間5,000人を超える来場者が訪れている。首都圏の年間供給戸数では2年連続でトップ5に入るなど、ブランド成長も堅調だ。LIVIOは今後、どのような取り組みで価値を高めていくのだろうか。

冨田氏「テクノロジーの活用により、結果として先進的といえる販売をこれまでいくつか実施してきましたが、私たちは業界において最先端でいることを追求しているわけではありません。お客さまの目線、声に基づいてサービスを今後も強化すべきだと思っていて、その取り組みが先進的になっていけばいいなと思っています。

今後は共創できるパートナー企業をより拡充したいですね。お客さまの人生を豊かにするゴールを共有できれば、販売からアフターサポートまで、共創したい企業さまの分野は問いません。私たちが知らないノウハウを持つ、さまざまな方とコラボレーションしたいです」

鈴木氏「日鉄興和不動産には、お客さまの豊かさに資するのであれば、若手でも外部パートナーでもチャレンジを後押ししてくれる社風があります。私自身もマンション購入時に経験した、不安や煩わしさがベースにあり、理想的な購入体験を追求するようになりました。今後もお客さま目線でサービスを向上させ、より長期的に人生を豊かにできるブランドへと、LIVIOを成長させたいです」

「人生を豊かにデザインするためのマンション」を実現するため、さらなる飛躍を目指す日鉄興和不動産の二人。充実した顧客体験を育む場が、「LIVIO Life Design! SALON」なのだろう。この空間が起点となり、多くの人がかけがえのない住まいと出合えれば、LIVIOのブランド力も向上する。顧客のニーズを見つめ、寄り添うホスピタリティこそが、同社の原動力となっているのだ。

取材・文:相澤優太
写真:水戸孝造