海外からの移住者が最もリッチに暮らせる国はどこか。外国在住者のコミュニティーサービスプラットフォーム、InterNations社の年次調査によれば、ベトナムが4年連続の首位だった。
同社が毎年実施している『Expat Insider』調査は、「個人ファイナンス」「生活の質」「定住しやすさ」「働きやすさ」「外国人在住者にとっての必須要素(行政、住居、デジタルライフ、言語など)」という5つの指数をベースに、外国人にとって最も快適な国をランク付けしたもので、この種の調査では世界最大規模。
このうち「個人ファイナンス」は一般的な生活費、自身の経済状況に関する満足度、快適な生活を送るのに十分な可処分所得の有無という3点が基準。つまり、外国人がいかにリッチに暮らせるかを示す指数だ。
最新の2024年版のランキングでは、ベトナムが安定の首位で、以下、コロンビア、インドネシア、パナマ、フィリピンの順。トップ10のうち6カ国がアジア、4カ国が中南米。やはり物価が相対的に安い新興国が上位に並んだ。逆に最下位はカナダ、フィンランド、英国との顔ぶれとなっている。
一方、上記の5つの指数に基づく総合ランキングでは、中米のパナマがトップ。2位と3位にはメキシコ、インドネシアが続き、この3カ国が、外国人が住むのに最高な国のトップ3だった。逆に最下位は7年連続で、中東のクウェートだ。
それでは日本は、どの位置にいるのか。2024年版の「個人ファイナンス」指数では53カ国中29位。総合ランキングは37位と、下位の部類だが、2021年版でワースト6(59カ国中54位)だったことを考えれば、一定程度ランクアップしたことになる。果たして外国人はランキング上位の国をどう評価しているのか。逆にワースト入りする理由は何か。さらに日本はどう評価されているのかを紹介したい。
今回で第11回目となる『Expat Insider 2024』では、174カ国・地域出身の12,500人強の回答に基づき、53カ国(回答者数50人以上)をランク付けした。回答者のデモグラフィックを見ると、52%が男性、独身者が44%、平均年齢は46.1歳。海外での在住期間に関しては、「永住予定」が34%、「5年以上」が21%、「決めていない」が16%。目的は駐在を含む仕事・キャリアが35%で、ライフスタイルの選択が26%、恋愛・家族事情が21%だった。回答者の出身国別の内訳は明らかになっていない。
リッチに住むならベトナム、物価が安く外国人は高所得
『Expat Insider』の「個人ファイナンス」指数でトップを持するベトナムの強みは、物価の安さと外国人の高所得にある。現地在住者の86%が生活費に関して「満足」と回答し、この割合は世界平均の40%の2倍以上に達した。住居に関する満足度ではタイがトップだったが、ベトナムは2位。住居探しが簡単で、しかも安く借りられる。
快適な生活を送るために十分な所得があるとの答えも、ベトナムでは68%(世界平均41%)。外国人の給与は実際に高く、「年収15万米ドル(約2,360万円)以上」との回答が全体の19%を占めたという(世界平均は10%)。
ちなみに、日本貿易振興機構(JETRO)の調査によれば、ベトナムの1人当たり月間平均所得は2022年時点で660万ドン、年換算では79,20万ドン(現在の為替レート換算で年間約49万円=約3,130米ドル)。15万米ドルのたとえ半額でも、現地では破格の給与水準であり、「財布に優しい」ランキングでトップとなるのは当然かもしれない。
外国人とベトナム人との所得格差はなぜ大きいのか。その理由として、「VNEXPRESS」などのメディアは、多国籍企業の駐在員の高賃金やハイテク・金融・経営など専門職の多くを外国人が担うこと、住宅手当や子供の教育手当など各種手当を上乗せするケースが多いこと、さらに同じ仕事をしていても外国人と現地市民の給与額が異なるという状況が一部に残るなどの点を指摘している。
また、仕事に対する捉え方という点では、ベトナム社会はキャリアアップより、ワークライフバランス優先。ワークカルチャーに関する満足度では今回3位と、前年の24位からジャンプアップした。フルタイムで働いている在住者は46%(世界平均57%)。約5人に1人が「パートタイム」と回答したという。
実際には、「個人ファイナンス」指数以外では、ベトナムの順位はさほど高くなく、「生活の質」では53カ国中40位。デジタルライフや住居、言語など「外国人在住者の必須要素」指数では29位。それでもリッチに暮らせるというアドバンテージにより、ベトナムは「住むのに最高な国」を示す総合ランキングにおいても、8位にランクインしている。
総合上位のパナマ・メキシコ・インドネシア、「幸せ感」が突出
一方、個人の財政状況だけでなく、生活の質や居心地、仕事、社会インフラなどをすべて加味した総合ランキングでは、前年に3位だった中米のパナマが1位に躍進した。日本ではおそらく「パナマ運河」以外を想起しにくい遠い国だが、気候が快適な自然の宝庫であると同時に、公共交通機関や医療システムの点でも評価が高いという。
この調査の回答者の多くは、欧米出身者だと思われるが、パナマは彼らにとって非常に居心地の良い場所であるらしい。「自宅のようにくつろげる」との答えが73%(世界平均58%)、「歓迎されている」が81%(同63%)、「地元の文化に馴染みやすい」が74%(同59%)。5つの主要指数を見ると、「生活の質」が16位とやや低い順位ながらも、その他指数は総じて上位。パナマ在住者の82%が「幸せ」だと回答している(世界平均68%)。
2位のメキシコでは、「幸せ」との答えがパナマを上回る89%。人々がフレンドリー、歓迎されていると感じるとの答えも世界平均より20ポイント以上高く、地元の文化に馴染めるとの回答率は53カ国中トップ。行政の官僚主義や銀行口座開設時の手間などで評価が低かったものの、やはり居心地の良さで際立った。
また、3位のインドネシアでも「幸せ」との回答がやはり84%の高水準。この3カ国は一部に社会インフラの不備こそあれ、居心地という点でそろって上位。要するに、土地や現地社会の魅力、時間・金銭面の余裕により、在住者の「幸福感」が強いことが共通点だ。
逆に、最下位常連となってしまったクウェートは、「生活の質」指数と「定住しやすさ」指数で53カ国中最下位。公共交通機関の利用しやすさ、気候、自然環境、医療、さらにはフレンドリーさなどの指標が最下位あるいはそれに近い順位にあり、ビザ取得の難易度や官僚主義的対応に関する不満が強いことも明らかになっている。
日本は微妙な順位、生活の質で上位も働きやすさと必須要素で45位
ここで『Expat Insider 2024』の日本の順位を見てみたい。まず「個人ファイナンス」指数は29位と、ほぼ真ん中あたり。香港とイタリアに挟まれた微妙な位置だ。長く続いたデフレと円安効果で、インバウンドでは「とにかく安い」と人気を集める日本だが、在住者の満足度が低いのは、日本国内での所得の低さが一因か。日本が2021年版『Expat Insider』で総合54位(59カ国中)に沈んだ際も、個人ファイナンス指数は54位という低い順位。26%(世界平均19%)が自らの経済状況に不満だと答えた。
その後、2022年以降は円安が急速に進行しており、日本円で給与を受け取るケースにおいては、米ドルに換算した際の“目減り感”は避けられない。外国企業の駐在員やデジタルノマドなど、米ドル建てで給与を受け取る在住者とは、このあたりの感じ方が大きく異なりそうだ。ちなみに2021年版において、日本は水道・衛生インフラ、個人の安全性、平和さで高い評価を受けたが、その一方、現地の文化に馴染めないとの声やワークライフバンスへの不満が、総合順位を押し下げた要因だった。
最新の24年版の指数別に日本の順位を見ると、「生活の質」では6位(首位は3年連続でスペイン)。5つの指数の中で唯一上位入りした。シンガポールと韓国が9位、10位だったが、このアジア3カ国の共通点は治安の良さと交通機関全般に対する満足度だったという。
「働きやすさ」ではデンマークが首位で、日本は45位。仕事優先というかつての社会通念はすでにかなり変化したと感じるが、それでもワークカルチャー指数では48位と、非常に評価が低かった。
また、「定住しやすさ(現地への落ち着きやすさ)」指数ではコスタリカがトップで、日本は35位。アジアではフィリピン、インドネシア、タイと、東南アジア3カ国がトップ10入りしたが、日本に対する評価は思わしくなく、サブインデックスの文化・歓迎度で40位、人々のフレンドリーさで29位、友達の見つけやすさで39位。性格的な問題という以前に、言葉の壁が大きいのかもしれない。
実際、「外国人在住者の必須要素」指数を見ると、この問題は顕著だ。日本は同指数で45位にとどまったが、中でも言語面での評価がハンガリーとチェコに続く下から3番目。「必須要素」指数の首位はUAEで、最下位はドイツだが、ドイツや中国、フランスも「言葉の壁」が足かせになったという。日本はまた、デジタル度に関するサブインデックスで39位にとどまり、タイやマレーシアより下位だった。
日本は旅行先としての人気が高く、インバンドは右肩上がり。2024年5月に世界経済フォーラム(WEF)が発表した2024年版「旅行・観光開発ランキング」では米国、スペインに続く3位だった。旅行者と在住者による評価にかなりのギャップがあるように思えるが、この差が今後縮小していくのか興味深い。厚生労働省によると、2023年10月末時点の外国人労働者数は前年比12%増の約205万人。200万の大台を突破し、届出が義務化された2007年以降で過去最高を記録したという。
文:奥瀬なおみ
編集:岡徳之(Livit)