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コロナ禍以降、世界的に旅行への意欲が高まっており、日本にも海外から多くの旅行者が訪れている。米国で行われた調査によると、Z世代が今夏、最も旅行に積極的なことが明らかになった。
Z世代は他の世代よりも、旅行により多くの金額を支出する傾向にある。国内旅行が好まれる米国においても、Z世代は海外旅行への意欲が比較的高く、長期かつ高額の旅行を計画している者も少なくない。
もっとも、Z世代の旅行資金の調達方法は他の世代とは少し異なっているようだ。資金を貯蓄してから旅行すると答えたZ世代の割合は減少傾向にあり、クレジットカードや「Buy Now Pay Later(後払い決済)」などのサービスを利用して旅行費用をまかなう層が増加している。
これからの旅行消費を牽引するとも言われているZ世代。その特徴について考察する。
消費行動に大きなインパクト「ジェネレーションZ」
最初のデジタルネイティブと言われるジェネレーションZ(Z世代)は、1997年から2012年の間に生まれた世代を指し、最年長者は今年27歳、最年少者は12歳になる。
彼らの消費行動は様々な業界に大きなインパクトを与えてきており、環境意識が高く、サステナブルなブランドや商品を支持するZ世代によって、サステナビリティを掲げるパタゴニアやエバーレーンといったブランドは、環境保護や透明なサプライチェーンを掲げ、支持を集めている。
また、音楽業界では、Z世代はストリーミングサービスを利用することで業界の収益モデルを変革した。SpotifyやApple Musicといったストリーミングプラットフォームは、Z世代の利用により急成長し、従来のCDやダウンロード販売を凌駕する収益を上げるようになっている。
そして、この夏、旅行業界においても、Z世代の与えるインパクトは非常に大きなものになりそうだ。
より長期の、より高額の旅行をするZ世代
米国の金融機関Bank of Americaの2,000人以上のアメリカ人を対象とした調査報告によると、Z世代は他の世代よりも高い割合で海外旅行を計画している。
アメリカ人は国内旅行を好む傾向にあり、それは現在も変わらないなかで、海外旅行においてはジェネレーションZがリードしており、18歳から24歳の旅行者の4分の1以上が、今年、最も重要な旅行は海外旅行だと答えている。
市場サービス会社PMGが4月に発表したレポートによると、Z世代はミレニアル世代とともに、今年の旅行支出急増の舵取り役となっている。
米国、英国、インド、ドイツ、中国の成人1,800人を対象にしたこのレポートによると、Z世代の65%、ミレニアル世代の72%が、今年はレジャー旅行にもっとお金を使う予定だと答えており、同じことを答えたX世代の54%、ベビーブーム世代の40%を大きく引き離している。
Z世代はよりラグジュアリーなホテルステイに熱意
Z世代の旅行者は特にホテルに多額の支出をしており、18歳~28歳を主なターゲットとするGeneratorやFreehandといったホテルブランドでは、2023年の収益が前年比15%増加。マイアミ、マドリード、ニューヨークなどの市場での予約は40%増加すると見込まれている。
また、全体的に、Z世代は旅行の際には質が高く豪華な宿泊施設を重視する傾向にあるようだ。欧州旅行委員会によると、Z世代は高級ホテル(4つ星や5つ星ホテル)を好み、一方で航空券にはLCC(格安航空会社)を選択することで、予算のバランスをとることが多い。
資金難でも借金で旅行に意欲を燃やす
Z世代の旅行への意欲は、このように紛れもなく高いものだが、どのように旅行資金を計画するかは、他の年齢層と異なるようだ。
データ分析会社Morning Consultの報告では、「貯蓄があるから旅行する」と答えたZ世代の割合は減少傾向にあり、十分な資金を用意してから旅行するという考え方が、米国の若い世代にとって必ずしも一般的でないことを示している。若く比較的収入が低いにもかかわらず、アメリカのZ世代の成人の半数以上が頻繁に旅行し、過去1年間に3回以上のレジャー旅行に出かけているのだ。
米国の金融サービスBankrateの調査では、Z世代の42%がクレジットカードや「Buy Now Pay Later(今すぐ買って後で払う)」サービスなどを利用して夏の旅行を賄う計画だと回答。「家族から資金を借りる」、「個人ローン」がそれに続いており、借金をしてでも旅行を実行する若者像を伝えている。
他の支出より旅行を優先するZ世代
また、旅行テクノロジー企業StudentUniverseが3月に発表した調査では、Z世代のほぼ半数(46%)が親から旅行に関して金銭的援助を受けることを期待していると回答、旅行代を払うために他の支出を削減する用意があり、83%が不要不急の支出を削減する予定だと答えた。
学生向け割引プログラムを提供するStudent Beansが発行したガイドによると、2021年から2022年にかけて、Z世代のファッション(7%)、テクノロジー(6%)、食品(12%)の購入1回あたりの平均支出は減少したが、旅行の支出は60%急増。カード会社アメリカン・エキスプレスの調査によると、Z世代の79%はレジャー旅行を予算の優先事項と見ており、84%は新しい贅沢品を購入するよりも、バケーションを取ることを好んでいる。
旅行市場の主役交代が起こりつつある
日本国内においても、これまで消費を牽引してきた団塊世代や団塊ジュニア世代の旅行量が減少したのに対して、20代の旅行は増加、市場の主役交代が起こっていると言われている。
しかし、若者マーケティング機関SHIBUYA109 lab.の報告によると、海外旅行に「既に行った」あるいは「具体的な(旅行の)予定がある」と回答した日本のZ世代は全体の8.6%で、いまだ海外旅行に行く予定のないZ世代が91.5%となっていた。
海外旅行への興味がない人がほとんどと言われるのが日本のZ世代に対し、ソーシャルメディアのトラベルインフルエンサーなどの影響もあってか、海外を含む、より遠方に、より高価なホテルに、という傾向をもつ米国のZ世代。
国による傾向の違いはあるものの、次第に存在感を増すZ世代の消費行動が市場に与える影響は無視できないことに変わりはない。企業や観光業界は、Z世代の価値観や行動パターンに注視し、彼らにアピールするための戦略を練る必要に迫られている。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)