ソフトバンクとNIMS、高エネルギー密度金属リチウム電池の寿命予測モデルを開発 金属リチウム電池の早期実用化に貢献

SoftBank ソフトバンク

国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下、NIMS)は、ソフトバンクと共同で、高エネルギー密度金属リチウム電池の性能評価データに対して、機械学習手法を適用し、寿命予測モデルを構築したことを発表した。

同研究では、放電・充電・緩和プロセスから得られる情報を基に、特定の劣化機構を仮定しない、高精度な予測モデルの構築に成功。同成果は、金属リチウム電池を搭載したデバイス運用における安全性・信頼性の向上に寄与し、金属リチウム電池の早期実用化に貢献するとしている。

金属リチウム電池は、現行のリチウムイオン電池よりも高い重量エネルギー密度を実現することができるため、ドローンや電気自動車、家庭用蓄電システムなどの幅広い分野への応用が期待されているという。

NIMSは、2018年にソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、携帯電話基地局やIoT、HAPS(High Altitude Platform Station)(※1)などに向けた高エネルギー密度蓄電池に関する研究を実施。

これまでに、300ワットアワー/キログラム以上という高いエネルギー密度で200サイクル以上の充放電が可能な金属リチウム電池を報告しているという。

このように高い電池性能を有する金属リチウム電池の実用化には、安全性の観点から、そのサイクル寿命を正確に見積もる技術の開発が極めて重要だが、金属リチウム電池の劣化機構は、従来のリチウムイオン電池よりも複雑であり、その詳細は未だ明らかになっていない。

そのため、金属リチウム電池の寿命予測モデルの構築は難しい課題だという。

■研究内容と成果

今回、研究チームは、機械学習手法を適用することにより、金属リチウム電池の寿命予測モデルの構築を試みた。

寿命予測モデルを開発する場合、従来の方法では、電池内部の複雑な劣化機構を正確に把握したうえで適切なモデルを構築するが、金属リチウム電池の劣化機構は、リチウムイオン電池に比べはるかに複雑であるため、劣化機構の把握自体が困難だという。

今回適用した機械学習を活用したデータ駆動型の方法では、多数の電池セルの充放電測定データに対して統計学的な解析を実施することにより電池寿命を予測。

このような機械学習を用いた電池寿命予測技術は、リチウムイオン電池を対象として、近年、盛んに研究開発が行われているが、高エネルギー密度セルの開発が困難な金属リチウム電池に対しては、機械学習を用いた電池寿命予測技術の開発が進んでいないという。

研究チームは、これまで確立してきた高い電池作製技術を用いて、金属リチウム負極とニッケル過剰系正極(NMC811)で構成される高エネルギー密度な金属リチウム電池(4×3センチメートル、単層セル)を50セル以上作製し、その充放電性能を評価。

得られた一連の充放電データから、35種類の特徴量(※2)を抽出し、電池の寿命を予測するモデルを構築。今回取得した特徴量は、放電プロセスに関連する特徴量、充電プロセスに関連する特徴量、緩和プロセスに関連する特徴量の、大きく3つに分類可能だという。

研究チームは、それぞれの特徴量を用いて予測モデルを構築し、その予測精度を比較(図1)。決定係数R2(※3)の値が大きいほど、高い予測精度を有するモデルであるとしている。

放電プロセスに関連する特徴量で構築した予測モデルが、R2=0.67と最も高く、充電、緩和プロセスに関連する特徴量で構築した予測モデルはそれぞれR2=0.39、0.28となった(図1)。

以上の結果から、放電プロセスに関連する特徴量を採用することが、予測精度の高いモデルを構築するために効果的であることが示されたとのことだ。

図1:特徴量カテゴリーごとに構築した寿命予測モデル

研究チームは、予測精度をさらに向上させるために、特徴量の組み合わせを最適化し、重要度解析の結果、35種類の特徴量の中でも放電関連の9つの特徴量と緩和関連の3つの特徴量がサイクル寿命と高い相関を示すことがわかった。

そこで、これら12個の特徴量を組み合わせた4,095通りのモデルの予測精度を評価した結果、放電関連の5つの特徴量と緩和関連の一つの特徴量、合計6つの特徴量を用いることにより、R2=0.89と最も予測精度の高いモデルを構築することに成功したとのことだ(図2)。

図2:最終的に構築した寿命予測モデル

■今後の展開

今後、予測モデルの予測精度のさらなる向上やモデルを活用した新規材料の開発を進めることで、高エネルギー密度金属リチウム電池の早期実用化に貢献するとのことだ。

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