日々の暮らしのなかにあるサステナビリティを紹介する特集「サステナブック」。第18回に登場するのは、お笑い芸人の田中直樹さん。生き物を愛する気持ちから地球環境問題に関心を寄せる田中さんがMSC「海のエコラベル」を紹介。
- 【プロフィール】
- 田中直樹さん
- 芸人・俳優。お笑いコンビ「ココリコ」として数々のバラエティ番組で活躍するほか、近年は俳優としての評価も高い。生き物好きとして知られ、2018年よりMSC(海洋管理協議会)のアンバサダーを務める。
持続可能な漁業と水産物のための認証ラベル
——今回ご紹介いただく商品・サービスについてお聞かせください。
MSC「海のエコラベル」を紹介します。MSC(海洋管理協議会)が管理・推進しているこのラベルは、海の生き物の数や資源・環境を守りながら獲られた水産物に付いている認証マークです。未来も変わらず魚たちを食べられるようにするためには、持続可能な漁業が不可欠です。
MSCには2018年からアンバサダーとしてお世話になっているのですが、就任当時、この50年の間に海の生き物が50%もいなくなっているという現実を知って、とても驚きました。減っている理由は、気候変動に伴う海の変化や過剰な漁業などさまざまです。
35%の魚種は獲りすぎていて、余裕のある魚種は7%しか存在しないといわれています。私たちがよく食べている、サバ・アジ・カツオ・サンマ・イカの仲間などが減っているんです。残りの魚たちも、このまま獲り続ければ間違いなく数が減る危機に直面しています。海から頂く栄養や漁業に携わる人の収入など、いろいろなことに関わる問題ですよね。
——漁業関係者だけではなく、私たち消費者もMSC「海のエコラベル」の水産物を選択していく必要がありますね。
そう思います。まだ日本では「なんか見たことあるな」という方が2割ほど。知らない方がほとんどで、もっと認知度を上げていかなければなりません。スイスでは8割以上の方が知っていて、世界全体では5割ほど認知されているようです。
MSC「海のエコラベル」が世界中に広まり足並みがそろえば、持続可能な漁業や水産物の製造が当たり前になるでしょうね。現在日本では700品目以上、世界では2万品目ほど、ラベルが付いた水産物が販売されており、どんどん増えています。
私なりのサステナビリティ
——田中さんの生き物への思いは、どこから生まれたのですか?
生き物全般が好きなんですが、特に海の生き物に興味があるのは、微生物からすべての生物につながるような“生命のルーツ”を感じるからです。種類も性別も生き方も生息エリアもさまざま。海の生き物には人間にも通じるいろんな答えが隠れている気がします。
デビューしてからの数年は仕事がなく、辛い時期を過ごしました。なりたい自分に追いつかなくて、上手くいかないことを人のせいにしたこともあります。そんな時にいろんな生き物たちを見て、生物学上の“ヒト”として「食べて眠れるだけでOKにしてあげよう」と思ったんです。
極端な話、「生きているだけでいいや!」と思えてから、考えが前向きになって人生が好転したように思います。こう思わせてくれた生き物には感謝しています。
——アンバサダーを務めるなかで、世の中の意識に変化を感じていますか?
僕自身、初めは「SDGs」といわれてもピンときていませんでしたが、このMSCのアンバサダーに就任してからの6年で変わったと感じます。
自分からはなんとなく遠く感じていた地球の環境問題が、農作物・水産物の変容、降雨量の変化や山火事の問題、気温の上昇などによって、身近に感じるようになってきていますよね。それに付随して魚を取りすぎている現状にも目を向ける機会に繋がったのかなと。
生き物関連のイベントで子どもたちと触れる機会があるのですが、「雨が降らなくておじいちゃんの畑のものが育たない」とか「暑くて熱中症が心配だ」とか、子どもたちから地球環境に関わる声を聞くこともあります。
——MSC「海のエコラベル」を選択する以外に、田中さんが普段から取り入れているサステナブルなアクションはありますか?
お惣菜のプラスチックトレイはまとめてスーパーの回収に持っていったり、世界の子どもたちのワクチン支援のために、ペットボトルのキャップを集めて持っていったりしています。
あとは、料理をするのでフードロスは意識しています。食卓の自給率を上げるためにベランダでレモンを育ててみたことがあるのですが、不格好で立派には育たず……。少しばかりですが作物を育てる大変さに触れてから、食べ物を無駄にしたくないと思うようになりました。
余り物の食材は全部カレーにするんです! 大概のものはカレーがおいしくしてくれるし、味がまとまらなくてもチーズを入れればなんとかなります(笑)。
——今後、私たちはサステナビリティとどのように向き合うべきだと思いますか?
僕は“信じること”を大切にしたい。「これをやっても状況は変わらへん」と言い出したらキリがないけれど、「これをやることで少しは変わるかな?」という気持ちを信じてみようと思うんです。
例えば、エネルギー問題。化石燃料からすべてを自然エネルギーや再生可能エネルギーに変えるのは難しいと思ってしまいますが、気象学の専門家である江守正多先生が「ガラッと状況が変わることもある。それを信じてみてもいいんじゃない?」とおっしゃっていました。
振り返ってみると、30年前は飛行機の中でも病院でもどこでもタバコが吸えましたよね? でも今は吸えない場所がほとんど。地球規模の話ではないけれど、こうして価値観や状況は大きく変わるのだから、化石燃料に頼らない世界も現実味を帯びてくると思います。
サステナビリティは、何かを我慢するようなネガティブなものとしてではなく、ポジティブに捉えられるとアクションの仕方も変わってくる。「未来は明るくなるよ!」と信じられる世界の方が楽しいですからね。