2024年5月15日・16日、「SusHi Tech Tokyo 2024 Global StartupProgram」が東京ビッグサイトで開催された。これは東京都が主催する“未来の都市像を体感できる”大型プロジェクト「SusHi Tech Tokyo 2024」の一環で、江東区では”2050年の東京”を感じられるショーケースプログラムも実施されていた。
世界各国の400以上のスタートアップが集結し、現地・オンラインを併せて4万人以上が来場した本イベント。優勝賞金1,000万円をかけたピッチコンテスト「SusHi Tech Challenge 2024」も大いに盛り上がった。
イベントレポート後編では、ピッチコンテストのファイナルに出場した7社のビジネスモデルと結末を紹介したい。
【マレーシア/Entomal Biotech】
2021年に創業したEntomal Biotechは、ブラックソルジャーフライ(ハエ目ミズアブ科の昆虫)の幼虫を使って、食品廃棄物を「昆虫タンパク質」に変換する特許技術を開発した。わずか7日間で、スプーン1杯の幼虫によって1トンの食品廃棄物を豊富な栄養資源(100kgの動物用飼料と200kgの肥料)にアップサイクルできるという。
同社では、小規模な廃棄物処理事業者向けと大規模な廃棄物処理向けの2つのアプローチを提供しており、前者は月額のサブスクリプションとなる。登壇した共同創業者兼CCO、Yanni Ching氏は、マレーシアのイオンなど大手企業とパートナー関係にあることも明かした。
【日本/クールイノベーション】
2020年に創業したクールイノベーションは、特別な包装や化学物質を使用せず、自在に湿度と温度をコントロールできる新冷却技術を使って、青果物をおいしいまま、生花を美しいまま長期保存できるソリューションを提供している。
それぞれの食品や生花に最適な温度のコントロールが可能になり、その結果、熟したイチゴは1カ月、ブドウは3カ月、生花は1カ月、梨は5カ月、栗は6カ月にわたり新鮮さを保てるという。賞味期限・消費期限が伸びることで、農家や小売店などに新たなビジネスチャンスが生まれるとCOOのDan Chang氏は主張した。
現在、コンテナ、トラック、食品ストッカー、倉庫の4つの製品ラインアップがあり、日本、タイ、フィリピンで50台以上の製品を発売しているという。
【ベトナム/BUYO Bioplastics】
2022年に創業したBUYO Bioplasticsは、バイオ廃棄物や植物由来の材料を使用して、100%自然由来で生分解性のバイオプラスチックに変換する独自技術を提供している。
同社のプラスチックは一般的なプラスチックと比較して価格は高いものの、機能性としては劣らないレベルで、二酸化炭素の排出量を最小限に削減し、約1️年で生分解されるという。
共同創業者兼CEOのHanh Do氏は、「私たちは毎日15億本のプラスチックボトルを捨てているが、そのうちわずか10%しかリサイクルできていない」と警鐘を鳴らした。同社の製品は、パッケージやラベル、ボトル、ストロー、カトラリーなど多岐に渡る。EU、北米、アジアでBtoBのビジネスモデルでサービスを提供している。
【日本/ファーメンステーション】
2009年に創業したファーメンステーションは、独自の発酵技術で規格外の農作物や飲料・食品工場で排出される食品残さなどの未利用資源を機能性バイオ素材へアップサイクルする技術を持つ。その原料を化粧品・食品などの原料、自社ブランド、他社ブランドOEM、共同開発と複数事業を展開する。
例えば、同社の原料製品には、オーガニック米から作られた「オーガニックライスエタノール」、ヒエの糠から溶剤などを使わず、圧搾法にて抽出した「ヒエヌカオイル」などの原料がある。
企業との共創事例も多い。例えば、ニチレイフーズとは冷凍焼おにぎりの製造過程で出るごはん残渣を活用してエタノールへアップサイクル。それを使用した「除菌ウエットティッシュ」を開発している。同様の技術で、カンロともカンロ飴の製造過程で出る規格外の飴を使って、アロマスプレーや除菌ウエットティッシュを開発している。
【台湾/CancerFree Biotech】
2018年に創業したCancerFree Biotechは、自社で開発した「個別化抗がん薬物検査技術」を用いて、がん患者に最適な治療を施す手助けをする。現在のがん治療は、医師の経験と標準的な治療に沿っておこなわれているが、実際は患者によって個人差があり、最適な治療法は異なっていると創業者 兼CEOのPo Chen氏は訴えた。
同社のソリューションのプロセスは、採血後、患者の循環腫瘍細胞(CTC)を独自の培養技術で増殖させる。これにより、医師は治療法を選択する前に、患者の腫瘍アバターを用いてカスタマイズされた薬剤感受性試験を行うことができる。
つまり、医師が各患者に最も効果的な治療法を迅速に見つけることが可能になるわけだ。あらゆる治療法を試すのにかかる時間が短縮されるだけでなく、効果のない薬剤を使用する可能性を減らすのに役立つ。同社のホームページによれば、「ステージ2以上と診断された固形がん」に対して、サービス提供が可能とされている。
【シンガポール/E-Port】
2020年に創業したE-Portは、船舶のリアルタイムデータを取得できるプラットフォーム「eLSA」を提供している。一例として、eLSAはシンガポールの水上タクシー、またはサービスにおいて75%以上のデジタル化に成功したという。
eLSAの導入以前は、電話やメールで水上タクシーの予約を取っていたが、予約を受け付けたオペレーターがトランシーバーで船長に伝え、手書きで利用券が発行されていた。毎日、船から山ほどの利用券が集められ、それをデータ化する作業が発生していた。
一方、eLSAの場合、顧客はアプリ上で予約をおこない、その通知が船長に自動で届き、モバイル上に自動で利用券が発行される。ペーパーレスで業務が完結するようになったという。
さらに、蓄積された船舶のデータをもとにAIを活用した最適化エンジンも開発。同社の実験では、移動距離を短縮することにより、運転時の排出ガスを25%以上削減するという有効的な結果が出ているそうだ。
現状、eLSAはデータ、マーケットプレイス、SaaSツール、決済アグリゲーションの機能を提供しており、25の企業に利用されているという。
【日本/Degas】
2018年に創業したDegasは、6億以上いるアフリカの小規模農家に対して、融資及び、脱炭素化に貢献する再生農業を促進するサポートを提供している。
サービス提供にあたり、農家の現場での運用と農家ネットワークの形成を備えた技術プラットフォームを開発。独自の信用スコアリングモデルを構築し、トレーサビリティ(原材料の調達から生産、消費または廃棄まで追跡可能な状態にすること)を確保しながら、融資の機会を開拓している。
再生農業の促進においては、土壌改良資材として昔から使用されているバイオ炭の適用と保全活動の実施を通じて土壌の健全性を回復、生産・投入コストを削減する。さらに、これによって土壌中に貯留された炭素をカーボンクレジットとして販売することで、追加収入を生み出すという。
農家の収入が増えれば同社の収益も増えるビジネスモデルで、いずれも大幅に増加しているという。これまでに46,000の農家に融資をおこない、返済率は95%を誇る。
最優秀賞はファーメンステーション
今回のピッチコンテストでは、複数のスポンサー企業による「スポンサー賞」も設けられており、登壇したすべての企業がスポンサー賞を受賞した。そして、最優秀賞にはファーメンステーションが輝いた。
審査員たちは、「総合的にレベルの高いピッチコンテストだった」と驚きを表していた。そのうえで、ファーメンステーションの社会的なインパクトや幅広い連携によりスケールが期待できる事業性などが高く評価された。
表彰式には小池都知事も参加し、登壇した起業家たちにエールを送っていた。2025年の「SusHi Tech Tokyo 2024 Global StartupProgram」は、5月8日・9日に同じく東京ビッグサイトで実施されることも発表された。
来年も世界各国から起業家や投資家が集い、エネルギッシュで熱いイベントになることを期待したい。
取材・文・撮影:小林香織