サステナビリティの実現において、企業が果たすべき役割は大きい。環境・社会への影響を配慮することはもちろん、新規事業によりさまざまな領域の課題を解決することも、私たちビジネスパーソンの新たな使命となってくる。また同時に重要になるのは、汎用性の高いビジネスモデルを創出し、別の領域や地域、国へと水平展開することだ。知見や技術を一つの事業にとどめず、幅広く社会に還元していく共創型のイノベーションこそが、地球規模の課題解決に寄与するだろう。

こうした共創型社会の実現に向け、広範な領域でサステナブルな事業モデルを構築しているのが、NTTグループだ。同グループでは2013年から、「NTT GROUP サステナビリティカンファレンス」を毎年開催(※)。各社の優れた取り組みを表彰し、ノウハウを共有することで、全従業員がサステナビリティ経営を自分ごととして捉えるとともに、ステークホルダーが持続可能な社会に向け協調することを目指している。

AMPでは昨年につづき、2024年度の「NTT GROUP サステナビリティカンファレンス」を取材。最優秀賞に入選した6件の事例を紹介するとともに、グローバルに展開されるNTTグループの共創事例から、持続可能なビジネスモデルの在り方を探っていく。

サステナビリティとビジネスを両立させる、NTTの成長戦略

「NTTグループ サステナビリティカンファレンス表彰式」は、国内外に広がるNTTグループ各社の、持続可能な社会に貢献する施策を紹介・共有する場だ。11回目となる今回は、全149件の施策がエントリー。審査プロセスを経た最優秀賞6件、優秀賞8件が表彰された。

カンファレンス会場の様子

表彰式には、持ち株会社の日本電信電話(以下、NTT)から島田明代表取締役社長および経営幹部、グループ主要各社から副社長などが列席。プレゼンでは、先端技術を活用したユニークなアイデアのほか、国際的な社会課題へのアプローチまで、幅広いバリエーションのビジネスモデルが発表された。NTT 経営企画部門 サステナビリティ推進室 主査の五味恵理華氏によると、審査基準には六つの軸があるという。

「『社会課題解決への貢献性』『企業の成長への貢献性』『NTTグループの独自性』『ステークホルダーニーズとの合致性』『継続性』『対外的な訴求力』という観点から、各施策を審査しています。サステナビリティ施策の場合、これらは時に、相反する概念になり得ます。『自社の独自性にこだわると、社会のニーズに合わない』『社会貢献のウエートを高め過ぎると、企業が成長しない』『インパクトが強い施策は、継続性がない』といったケースです。しかし重要なのは、これらを同時実現する事業だと考えて、最優秀賞・優秀賞を選定しています」

NTTサステナビリティ推進担当一同。中央が五味恵理華氏

NTTグループは、2023年に中期経営戦略「New value creation & Sustainability 2027 powered by IOWN」を策定している。戦略の柱として掲げるのは、「新たな価値の創造とグローバルサステナブル社会を支えるNTTへ」。コミュニケーション基盤「IOWN」やデータドリブンによる新たな価値創造を進め、高度なテクノロジーにより循環型社会を実現する考えだ。“サステナブル”を個別戦略でなく、経営の中核に据えている点に、最大の特徴があるといえるだろう。

「NTTグループは、自らダイナミックに変革を行い、ビジネスを変化させながら、社会課題を解決し続けてきました。これから先の2040年や2050年という時代は、きっと今とは全く違う世界に変わっていることでしょう。NTTグループはこのような世界の変化を機会と捉え、さらに自らを変革し続けていきたいと考えています。ビジネスを通じた社会貢献により、地球と人類がサステナブルに共存する。企業活動がリソースを使い果たすのではなく、循環していく世の中をつくる。こうした未来に向け、グループ各社は事業推進に当たっています。今回のサステナビリティカンファレンスは、各プロジェクトの知見をグループ内で共有することも、大きな目的の一つです」

ビジネスとサステナビリティは二者択一ではなく、統合することで価値が生まれる。その実現にあたっては、アイデア、テクノロジー、パートナーシップなど、多くの要素が求められるはずだ。具体的にはどのようなプロセスで、事業を創出しているのか。最優秀賞を受賞した国内・海外を合わせた六つの施策を見ていく。

ベニザケのスマート陸上養殖を起点に、水産業で地域活性化を目指す

最優秀賞一つ目の施策は、「『スマート陸上養殖』での地域循環型社会の創出」。NTT東日本の福島支店が挑んだ、ベニザケの陸上養殖による地域活性化事業だ。

東日本電信電話株式会社 越智鉄美氏

東日本大震災から13年がたった現在も、福島の水産業は風評被害を払拭できていない。この現状を目の当たりにしてきた地場企業の一つが、スーパーマーケットを展開する株式会社いちいだった。海産物商として1892(明治25)年に創業した歴史を持つ同社は、水産業・魚文化の衰退に危機感を抱き、地域貢献の形を模索してきた。この課題意識に共鳴したのが、一次産業活性化を通じた新規事業展開を目指すNTT東日本だ。両社は、海洋環境変動や担い手不足など、水産業が抱える課題を乗り越える活路として、安定した収益を見込める陸上養殖のビジネス化をスタートさせた。

ターゲットとなったのは、需要の高いベニザケだ。しかしベニザケは病気に弱く、成長が遅いことから、事業規模の養殖に成功した事例はない。そこでNTT東日本は、魚の生育を早める「人工飼育水(好適環境水®)」をベースに、高度な養殖技術を持つ岡山理科大学に参画を依頼。NTTグループのICTと専門家の知見を組み合わせる、産学連携の実証実験に挑んだ。

採用されたモデルは、「完全閉鎖循環式陸上養殖システム」だ。陸上養殖は、川や海からポンプで水を汲み上げる「かけ流し式陸上養殖システム」が主流だが、餌などで汚れた水を排水するなど、周辺環境への負荷が高い。一方、汚れた水をバクテリアの力で浄化・再利用する完全閉鎖循環式は、環境負荷を下げられる上、立地の制約を受けないため、どこでも安定した生産ができる。

完全閉鎖循環式陸上養殖システムの仕組み

同プロジェクトで画期的なのは、岡山理科大学が備える専門的知見を、遠く離れた福島の養殖場につなげた点にあるだろう。陸上養殖は現場での管理が重要になるが、飼育を担ういちいの従業員はノウハウを持たない。そこでNTT東日本は、水質などの状況をクラウド上でリアルタイム共有し、遠隔モニタリングできる仕組みを構築。岡山理科大学のアドバイスが、現場に届くようにしたのだ。

実証実験の結果、世界で初となるベニザケの陸上養殖に成功(※)。データドリブンな養殖システムにより、養殖未経験者でも専門家の支援を仰ぎながら飼育ができる環境を構築し、担い手不足が課題の水産業の振興に貢献している。2023年7月からはいちいの店頭で試験販売を実施し、初回出荷分は完売した。さらに現在、福島県川俣町といちいとの連携協定に基づき、廃校を生産施設として利活用する事業が検討されている。

不漁をはじめとした水産業の課題は、東北に限ったことではない。スマート陸上養殖のモデルが全国へと水平展開されれば、地域経済や食料安全保障の問題にもアプローチできるだろう。NTT東日本は、陸上養殖事業への参入を検討する複数の事業者から問い合わせを受けているという。同社は2025年度の年間売上高10億円を目標に、事業拡大を計画中だ。

児童相談所の課題解決を目指す、AIを活用した音声認識モデル

続いての受賞施策は、NTTテクノクロスの「AI技術で子どもの『命』を守る」だ。江戸川区児童相談所と連携し、高精度の音声認識モデルを相談対応業務に導入することで、品質向上と業務効率化を実現したプロジェクトである。

NTTテクノクロス株式会社 角尚明氏

子どもに関する相談や通報に、専門家が対応する児童相談所では、児童虐待の相談対応件数が年々増加。32年連続で過去最多を更新しており、2022年度は21万9,170件にのぼっている。増加する業務負担に対し、現場では職員の採用・育成が追いついていない状況だ。緊急度の高い通報対応においては、少しの誤りが子どもの安全や生命に深刻な影響を及ぼす可能性がある。虐待事案に充分な介入や支援ができず、命を救えなかった事件も発生しており、人員の不足は社会的な問題となっているのだ。

2020年に設立された「はあとポート」も、同じ課題に直面する江戸川区の児童相談所だ。一つの児童相談所として受ける相談件数は全国でも上位であり、職員が対応に追われ業務が逼迫(ひっぱく)している。心理的負担も大きく、ミスの発生も危惧されていた。課題解決に向け、NTTテクノクロスにAI活用の相談をしたのは、江戸川区の相談役を務めていた花園大学児童福祉学科(当時)の和田一郎教授だ。大量かつ深刻な業務を限られた職員・時間で対応するためには、業務効率化が不可欠となる。こうして、はあとポート、和田教授、NTTテクノクロスの連携が始動した。

NTTテクノクロスが提案したのは、企業のコールセンターなどで導入実績がある「ForeSight Voice Mining(FSVM)」。NTT研究所が持つ音声認識技術や感情認識技術、言語解析技術を活用したAIシステムで、通話音声のリアルタイムでのテキスト化、マニュアルの自動表示など、多様な機能を備える。このFSVMをベースに、児童相談で発話される特有な単語や言い回しを学習させることで、新たな音声認識モデルを開発。高精度なテキスト変換により、相談における正確な情報収集と記録作成を支援するとともに、緊急性の高い通話は即時に上司にエスカレーションされ、虐待を早期発見・事前回避できる仕組みが実現した。

画面表示例。通話が始まると、職員用のPC画面には、マニュアルなど必要情報が自動表示される。ヒアリング項目の自動チェック機能により、職員の経験差によらない応対が可能に。管理者用のモニタリング画面では、複数職員の通話が即時テキスト表示され、チャットで指示や助言を与えることも可能

コールセンター用の音声認識製品は、児童相談業務に適用した前例がない。そのため当初は、機能や運用方法、費用対効果に対する疑問の声が上がった。NTTテクノクロスはデモンストレーションや実証実験を通じ、現場の人々が効果を実感できる場を提供。またリリース直後にICTリテラシーにも配慮した説明会を複数回実施するなど、ヒアリングと運用支援を重ねていった。

導入の結果、職員の通話記録作成時間は1人当たり月間約10~20時間の削減、トラブルや緊急対応におけるエスカレーション時間は月間約5.5時間の削減を達成している。通話内容が上司や職員間で共有されることで業務品質の向上や人材育成も実現。支え合いの風土が醸成されたことは、心理的負担軽減やモチベーション向上にもつながった。

本ソリューションは現在、全国9カ所の児童相談所で導入されており、NTTテクノクロスは今後も水平展開を進める予定だ。また保健、生活保護、介護などの業務、警察や救急機関への応用も可能であることから、行政DXを通じたさまざまな社会課題解決が期待される。

障がい者雇用と企業DXを同時実現し、地域の共生モデルを構築

三つ目の受賞施策は、「障がい者雇用×地域企業DXによる共生社会実現」。NTT西日本による、ダイバーシティな街づくりへのアプローチだ。

西日本電信電話株式会社 佐藤暢洋氏

日本の障がい者雇用は、企業における法定雇用率が段階的に引き上げられており、対象企業も拡大する流れが進んでいる。そうした中、⼤分県では障がい者雇⽤率はおおむね⾼い一方、精神障がい者の雇⽤率は全国と同様に低い傾向にあり、企業内でのサポート体制が求められていた。しかし多くの中小企業は人手不足に陥っており、障がい者雇用にリソースを割り当てられない課題があった。この状況を打開すべく構想されたのが、共同雇用により障がい者の就労モデルをつくる「おおいたダイヤ事業協同組合」である。

おおいたダイヤ事業協同組合が目指すのは、組合各社が業務をアウトソーシングし、組合で雇⽤する障がい者が業務を受ける循環モデル。障がい者の就労と企業の業務効率化・雇⽤率達成を、同時に実現する仕組みだ。大分県は主管部局との意見交換を通じ、組合の立ち上げに向け新たな補助金制度を創設。NTT西日本は従来の事業で培ったネットワークを生かし、各企業に組合参画合意を促してきた。

プロジェクトで重要な役割を果たしたのが、NTT⻄⽇本グループの特例⼦会社で、精神障がい者雇⽤に⾼い実績を持つNTT⻄⽇本ルセントだ。同社は、障がい者やサポートスタッフへのインタビューを通じ、安定雇用に向けたノウハウを体系化。障がい者の能力・特性に合わせ、モジュール化した業務をマッチングするサービスを確立するなど、現場レベルの課題解決に従事してきた。

ダイバーシティな社会実現を目指す「障がい者の就労モデル」

NTT西日本ルセントが行うサービスの一つが、Web⽇報システム「アスドライブ」だ。障がい者スタッフが体調や作業進捗を記入し、上長が個々の状態を把握するもので、将来的にはAIによる予兆検知が構想されている。デジタル化によりコミュニケーションを効率化しつつも、記入内容によっては面談などアナログなケアを行うことで、企業側の負担を抑えながら安定雇用につなげているのだ。

おおいたダイヤ事業協同組合では今後、音声データのテキスト化、紙媒体のデジタル化といった業務を、障がい者が実施していく。その一連の業務にはNTTグループのICTツールが導入されており、障がい者の業務負担軽減とともに、より高度な業務へのスキルアップも図るという。

NTT⻄⽇本では今後、同様の課題を抱える他地域に大分モデルを展開しながら、全国的な障がい者雇用の促進を目指す。さらに、シニア、⼥性、外国⼈にも同モデルを拡張させることで、共⽣社会・多様性社会の実現と地方の労働力不足の解消に向けた取り組みを進めていく姿勢だ。

欧州の水消費問題を解決する、スマートメーターとネットワーク技術

ここからは海外の事例を紹介する。四つ目の受賞施策は、NTT DATA Belgium(べルギー)の「スマートモニタリングによる節水」。ネットワーク技術を活用し、ベルギーにおける水資源の最適化を目指す取り組みである。

NTT DATA Belgium Kristof Schraepen氏

ベルギーは降水量の多い国だが、夏には水不足に直面することも多い。原因の一つが、公共給水システムで発生する漏水だ。水道インフラが整備されたヨーロッパにおいて、広範なパイプラインの中から問題のある箇所を特定するのは困難だという。こうした背景から、水消費の在り方を変える試みが進められてきた。

プロジェクトのパートナーは、ベルギーのワロン地域で水の製造・供給を担うCILE社。同社は24都市で80万人に水を提供しており、水道管網は3,500キロメートルに及ぶ。水不足の解消は喫緊の課題だった。

NTT DATA Belgiumが開発したのは、スマートメーターだ。家庭用の水道メーターにセンサーが搭載されたもので、水の使用量、温度、圧力、逆流、漏れを測定し、データをIoTネットワーク「LoRaWAN(ローラワン)ネットワーク」に送信。給水塔や家庭の消費量をネットワーク上で分析し、どこに問題があるかを検知するだけでなく、交換・修理が必要になるパイプラインを予測する予知保全の仕組みだ。さらに、収集したデータをもとに、数日後の水消費量をAIで予測することも可能。必要な水だけを汲み上げることで、地下水を節約できるようになった。

スマートセンサーを活用することで、水使用量の最適化と衛生管理を実現する節水インフラを構築。2023年には100万立方メートル以上の節水に貢献し、2024年には倍増の200万立方メートルも見込まれる

NTT DATA Belgiumはセンサー、ネットワーキング、データ、機能、プロセスの全レイヤーに管理システムを提供しながら、データストリームを統合。IoTデバイス、ビッグデータ、AIを組み合わせることで、予測モデルを構築した。LoRaWANネットワークでは、対象となるリエージュ市に53台のアンテナを設置し情報を収集している。スマートメーターには長期間情報を保存できるバッテリーも搭載され、LoRaWANネットワークは低電力で運用できることから、センサーは15年以上にわたり1日1回データを送信できる仕組みだ。

同プロジェクトは今後、ベルギー国内で水道サービスを展開する他企業とも連携しながら、対象地域を拡大していく予定だ。またイギリス、ドイツ、スペインの配水会社へのアプローチも進んでおり、将来的には全世界展開も視野に入れている。

世界最大級のデータセンターに、サステナブルな構造を

NTTグローバルデータセンターが受賞したのは、「ネット・ゼロ・コミットメントを達成するためのデータセンターの脱炭素化」。デジタル化社会の基盤となるデータセンターを、サステナブルに運用する施策である。

NTT Global Data Centers Claudia Unterkircher氏

データセンターは、利用可能な電力の不足、エネルギーコストの上昇、気候条件の変化、AIの進化による需要増など、多くの課題にさらされている。データセンターの電力消費量は今後も増えると予測されており、施設外に放出される温室効果ガス(GHG)の量も比例して増加する。電力消費を抑えつつエネルギー効率を高め、環境負荷を低減させるには、設備機能のアップデートが必要だ。こうした課題を解消すべく、各国のデータセンターではパイロットプロジェクトとしてさまざまな技術が導入されている。

世界各国200カ所以上にデータセンターが設置されている

アメリカ・シカゴでは、これまでエクセルにより手作業で行われていた、電力や水の消費量、CO2排出量の管理を、システムによるデータトラッキングに移行。多様なソースから自動でデータを取得し、継続的に更新される仕組みを設計した。さらに、持続可能性指標のデータベースを作成し、電力量最適化に向けた予測モデルを構築。大量のデータを分析してグラフなどで可視化して活用することで、意思決定の最適化を実現している。

気温の高いインド・ムンバイでは、機器の冷却に膨大なエネルギーが費やされていた。この課題の解決に向け、新技術となる「直接接触式液体冷却」と「液浸冷却」を導入。直接接触式液体冷却は、IT機器の内部を冷却水が通過し、繊細なホースを通じてラックに熱を放出するシステム。液浸冷却は、電気的に安全な液体が満ちたタンクに、サーバー全体を直接浸す方法だ。従来型の空冷システムを刷新することで、年間の電力使用効率(PUE)が1.2~1.25へと大幅に改善している。

オーストリア・ウィーンのデータセンターでは、停電などの不測の事態に備えた発電機にアプローチしている。一般的に発電機の電源は化石燃料などを使用しているが、仮に全ての発電機が同時稼働した場合、大量のCO2を排出してしまう。そこでウィーンのデータセンターは、発電機電源に「水素化処理植物油(HVO)」を採用。動植物由来の廃油を原料とする水素化処理植物油は資源循環が可能であり、温室効果ガスの純排出量を最大90%削減する。また保存できる寿命が10年と長く、細菌などの汚染リスクも少ない。同センターでは毎月負荷テストを実施ながら、非常時でもデータを守る体制を整備している。

ドイツ・ベルリンでは、排熱利用による地域貢献が進められている。サーバーやIT機器から生まれる熱を、交換器を介して外部パートナーのインフラに転送。さらに付近にある商業地区まで輸送し、化石燃料を必要としない暖房として活用することで、地域の脱炭素化を推進する仕組みだ。現在は交換器から最大1.5メガワットの熱を供給しているが、今後は6メガワットにまで拡張する予定。成功すれば1万軒以上の家を暖められるという。さらに夏場に放出された熱を地下で蓄え、冬に利用する手法についても、調査が進行中だ。

これらのパイロットプロジェクトが前進し、ノウハウが水平展開すれば、世界各地での脱炭素化が大幅に前進するだろう。

プラスチック廃棄物を削減する、農作物のトレーサビリティシステム

最後に紹介する施策は、NTT DATA Argentina(アルゼンチン)の「農作物トレーサビリティ SISTEMA INTEGRA(システマ・インテグラ)」。プラスチック廃棄物を削減し、農作物を保護する取り組みだ。

NTT DATA Argentina Mauro Avendano氏

アルゼンチンでは、植物検疫製品において流通・販売量の管理システムが整備されておらず、全ての製品が一律で20リットルのプラスチック製ドラムに包装されている。販売量に応じた包装のコントロールができない結果、大量の梱包資材が必要になり、年間15,000トンのプラスチック廃棄物が発生。また製品の管理記録が作成されないことにより、期限切れ製品の廃棄や混入なども生じている。

こうした課題に対処すべく、現地法人のYPFとNTTデータが開発したソリューションが、農作物のトレーサビリティを可能にする「SISTEMA INTEGRA」だ。SISTEMA INTEGRAは、IoT、ブロックチェーン、モバイル、Webプラットフォームといった技術により、各製品、国家機構であるSENASA(アルゼンチン畜産品衛生管理機構)、YPF、農業従事者などをつなぐネットワーク技術。これまでYPFでは広範な情報を統合することは困難であったが、NTTデータのリソースを活用することで、開発期間の大幅な短縮に成功した。

トレーサビリティシステムのプロセスイメージ

SISTEMA INTEGRA が実現したのは、植物検疫製品へのバッチの登録・管理と、ブロックチェーン認証による出荷の追跡だ。特定の製品が、供給地、目的地、廃棄に移行するプロセスを、トークン化技術により監視できる。バッチの位置やコンテナの状態はリアルタイムで収集できるため、適切な製品量、補充拠点などをコントロールすることも可能。またブロックチェーン技術との統合により、高度なセキュリティー機能も提供している。

導入の結果、これまで大量販売時でも一律で行っていた無駄な包装を廃止。消費期限も管理されることで農作物の不要な廃棄が減り、全体で年間約2,200万個のプラスチック容器の使用が削減される効果が見込まれている。また、製品管理の質の向上により、物流・運用コストの削減、詐欺や密輸品の封じ込めなども実現。資材や物流の省エネ化は、CO2削減にもつながった。

2023年5月にローンチされたSISTEMA INTEGRAは、現時点は特定のユーザーにのみ利用されている段階だ。将来的には、アルゼンチン以外の地域への展開、水資源など別領域への応用も構想されている。

応用可能なモデルを構築し、地球規模の課題にアプローチする

以上、最優秀賞を受賞した六つの施策を見てきた。各施策は始動したばかりだが、実装フェーズではさまざまなノウハウが蓄積されていくだろう。現時点で私たちが注目すべきなのは、幅広く応用可能なビジネスモデルであることだ。地球規模のサステナビリティを実現するためには、グループ内外のパートナーに知見を共有し、同時多発的にソリューションを展開しなければならない。パートナーシップは業界や国境を越えることが理想であり、その先駆けとしてビジネスモデルを示してくれるのが、NTTグループなのだ。

イベントを終えた五味氏は、「水平展開や地域への広がりがイメージできる事例が多かった」と、各施策を振り返る。

「施策の内容や応募動画は、年々クオリティーが上がっており、事業と連動しながら実績を残している施策も多かったです。今年の応募プロジェクト数は過去最多で、サステナビリティへの注力度が上がっていると実感しました。今後も次々と新たな着想が生まれることに期待しますが、同時に重要なのは、NTTグループが生み出すサステナブルな取り組みが局所的な思想にとどまらず、日本、そして世界に広がること。NTTグループ全体が豊かな未来に貢献できるように、今後もイノベーションを波及させたいです」

年を追うごとに注目度が高まる、NTTグループのサステナビリティカンファレンス。ステークホルダーに知見が共有されることで、さらに革新的なビジネスモデルが生まれていくのだろう。サステナビリティを中核に据えるNTTグループの事業は、次なる時代にどのようなインパクトをもたらすのか、今後の動向に注目したい。

取材・文:相澤優太
写真:水戸孝造