「共同創業者はAI」の時代が到来? AIがスタートアップの成長を爆押しする納得の理由

急速に成長するAI市場。AIソリューションのLeewayHertzは、2027年のAI市場規模は4,070億ドルに達すると予測している。2022年の実績は869億ドル、5年で約4.5倍の成長を見込んでいる。

世界各国でAIが普及していく中、注目されるのは企業による広範な導入だ。AIは単なる「便利なツール」から、ビジネスの経営や戦略、業務改善までをアシストする“右腕”として活躍し始めている。

AIがスタートアップの成長を促進している

Hubspotが発表した調査レポートによると、AIがスタートアップの市場進出戦略に密接に関わり、特にアーリーステージの成長促進に効果を発揮していることがわかった。

調査は世界のスタートアップ創業者1,000名以上を対象に実施された。創業者の86%が「AIが自社の市場進出戦略にプラスの影響を与えている」と回答し、60%近くが「AIツールによって見込み客獲得が容易になった」と答えている。また、70%は市場開拓のためにAIをすでに活用しており、3分の2は、1年以内にAIの専門知識を持つ人材を採用することを検討しているという。

大手から中小までAIを導入する企業が急増する中、創業したてのスタートアップも例外ではなく、彼らが事業全体にAIテクノロジーを活用していることが明らかになっている。特にテクノロジー、プロフェッショナルサービス、製造といった分野での導入が顕著で、顧客の行動予測、個別の価格設定、顧客サービスの自動化などに利用されている。

VentureBeatによると、ペンシルバニア大学でAIとイノベーションを研究するイーサン・モリック教授は「スタートアップにとって、AIは“新しい共同創業者”のような存在になるだろう」と述べている。

AIはスタートアップの課題解決にどう役立つのか

スタートアップには大企業や老舗企業とは異なる課題がある。ここでは、スタートアップが直面する主な課題と、その解決にAIがどう役立つかを見ていきたい。

・資金・資源の制約

スタートアップはあらゆる資源(資金、人材、経験など)が不足する中、急速な成長が求められる。だがAIを利用することで、定型的な作業の自動化により、限られた人員でも重要な活動にリソースを充てることができる。また、費用対効果の高いAIツールやプラットフォームを利用することで社内開発のコストを抑えることも期待できる。

・顧客獲得が難しい

新興企業が顧客を獲得するには時間も労力もかかる。その点AIマーケティングツールを使うことによって、リードの生成、セグメント化、価格の個別設定などを可能にし、顧客アプローチ効果を高めてくれる。また、24時間体制のチャットボットにより迅速な顧客対応が可能になり、カスタマーエクスペリエンスの向上にも貢献する。

・経営経験、市場競争力の不足

「経営者」としては経験の浅いスタートアップ創業者。AIを仮想メンターに洞察やアドバイスをしてもらうことで、意思決定・経営判断の参考とすることができる。また、市場動向や顧客行動、競合他社の戦略に対する分析により、競争力強化にもつながる。

・人事担当者が不在

少人数で運営するスタートアップでは、専任の人事担当者を置いていないことも多い。しかし採用プロセスにAIを利用すれば、履歴書の分析や候補者の適正予測など、一部の作業を自動化することができる。また、AIを新入社員のオンボーディングや研修プログラム開発などに活用することも可能だ。

・スケーリングの課題

成長課題に直面するスタートアップにとって、AIは貴重な味方となる。AIの分析を通じて、成長トレンドの予測やリソース配分の効率化ができるため、スケーリングプロセスがスムーズにできるようになる。

・資金調達とキャッシュフロー

AIはスタートアップの資金調達にも活用できる。過去の財務データと市場動向をAI分析し、正確なキャッシュフローを予測することで、的確な財務管理ができるようになる。また、データ駆動型の洞察や投資家への報告の自動化により、投資家との関係強化にも役立てられる。

AI利用の課題

以上のように、スタートアップは事業のあらゆる側面にAIを活用することで課題を解消し、限られたリソースを本当に必要な部分に投資できるようになる。

生成AI「Claudeシリーズ」を提供するAnthoropicのダニエラ・アモデイ共同創業者兼CEOは、「人間がやりたいことを支援するパートナーとして、AIを活用してほしい」と言っている。

一方、AIをビジネスに利用する際には課題もある。昨今は生成AIを巡る著作権問題・訴訟が多発しており、AIツール自体が差別やバイアスを学習してしまっている可能性も捨てきれない。AIには慎重かつ責任を持って対処する必要がある。

そのためには、AIツールを導入する前に徹底的に精査することだ。ツールを厳正にチェックし、透明性の高いプロセスを持ち、信頼できるプロバイダの製品を選択したい。

また、すべてをAI任せにせず、複数の人的チェックを挟むことをプロセスに入れるなど、潜在的なバイアスに気づく仕組みをつくることも大切だ。

AIはスタートアップの課題解決と成長に多大なパワーを与えてくれるが、倫理観、多様性、そして透明性を担保する「責任ある運用」が求められる。だが、正しい運用ができれば、これほど強力で有能な“バディ”はいないだろう。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit

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