三井不動産は、東京大学先端科学技術研究センターの江崎貴裕特任講師、井村直人特任研究員、西成活裕教授、同社の藤塚和弘氏らによる研究グループが、高層マンションなどの建物内にドローンが垂直飛行できる専用空間を設置した新たな配送システムを考案し、数理モデルによる分析を用いてその有効性を示したことを発表した。
同研究は、待ち時間が長くなりがちなエレベーターでの配送に対する解決策となるだけでなく、災害時に消費電力を抑えて生活必需品の配送を行うなど、建物内の物流に有力な選択肢を与える可能性があるとしている。
同研究では基礎的なモデリングによる概念実証を実施したが、今後は実機を用いたさらなる検証につなげていくとのことだ。
2022年12月にドローンの有人地帯における目視外飛行(レベル4飛行)が解禁されたが、現状実現しているドローン配送は主に山間部や島嶼部での運用に限られているという。
東京大学と同社は都心などの人口過密地域におけるドローン配送シーンを具体化することが重要と考え、エレベーターの代替となるような垂直の輸送システムの共同研究に取り組んでいるとのことだ。
高層マンションや高層オフィスビルでは、災害時にエレベーターが利用できなくなった際の物流インフラへの懸念や、平時でも増加する飲食ケータリングサービスや通販による宅配需要に対して、従来のエレベーターのみに頼った配送では期待される時間内にモノを届けられなくなるリスクが存在しているという。
同研究では、建物内にドローンが垂直飛行できる専用空間を用意し、各階に設置された垂直離着陸可能なポートで荷物の配送を行う仕組みを考案(特許出願済)。これが実現すれば、エレベーターによる配送と比べ迅速かつ省電力な配送が可能となるとしている。
加えて、同システムの有効性について分析を行なうため、荷物の脱着、上下飛行、バッテリーの交換などの配送プロセスを仮定し(図1)、実際の機体(PF2-AE Delivery;ACSL)の仕様を元に、現実に近い数理モデルを構築。
そのうえで、仮想的な高層マンションの各家庭においてポワソン過程(※1)によって需要が生じると想定し、さまざまなドローンの台数に対して、配送のパフォーマンスを調査。
待ち行列理論(※2)に立脚した数理的な解析によって必要なドローンの台数などを求めることができたほか、モンテカルロ・シミュレーション(※3)によって一定の需要レベルまではエレベーターよりもドローンを活用した方が早く、かつ少ない消費電力で配送が可能であることが明らかになった(図2)。
これにより、一定のシーンではドローンを活用するメリットが確かに存在することが示され、新たなビジネスモデルにつながることが期待されるとしている。
また、同研究で明らかになった「大量輸送が得意なエレベーター配送」と「個別の即時対応が得意なドローン」という2つの特性の異なる輸送モードを組み合わせることによって生じるメリットは、他のドローンを活用したマルチモーダル(多様な輸送手段を用いた)物流システムにも重要な示唆を与えるとのことだ。
(※1)時間や空間内で無作為に発生するイベントをモデル化するために用いられる確率過程。
(※2)サーバーに対するリクエストや窓口での顧客サービスなど、ランダムに発生する需要に対して、サービスを行う際に待ち時間や発生する行列の長さについて分析する数学の体系。
(※3)計算機の中でランダムな値を発生させることにより確率的な現象をシミュレートする方法論の総称。