コンシューマ向け税務アドバイザリープラットフォーム「ハーネス・ウェルス」、2021年比で顧客数10倍、収益1,588%を達成 注目される理由は?

米国を拠点とし、節税プラットフォームを提供するスタートアップ、ハーネス・ウェルス社が、シリーズAラウンドで1,700万ドル(約26億円)を調達し、累計調達額は3,200万ドル(約48億円)に達したことを発表した。このラウンドは、アーリーステージのソフトウェア企業に投資を行う、ジャクソン・スクエア・ベンチャーズが主導。新規投資家とシードラウンドからの既存投資家の両者から追加投資が行われた。

同社は、税務アドバイザーの業務をサポートし、クライアントの複雑化する一方の財務問題を解決する、新しい税務アドバイザリープラットフォームを提供している。

2021年6月の増資以来、顧客ベースを10倍に拡大し、総収益は1,588%の伸びを見せたという。CEO兼共同設立者であるデイビッド・スナイダー氏は、IT系のスタートアップ関連のニュースサイト「テッククランチ」に、顧客として、プロスポーツ選手、著名アーティスト、国を代表するジャーナリスト、アマゾンの役員などを挙げている。その顔ぶれが錚々たるものであることが察せられる。

ハーネス・ウェルス社が提供する税務アドバイザリープラットフォームは、今なぜ、ここまで注目を集めているのだろうか。

ワンストップのファイナンシャル・ソリューション

ハーネス・ウェルス社は2018年に立ち上げられた。創業初期には、主にハイテク業界のスタートアップの創業者や従業員に対し、金銭面のアドバイスを行っていた。当時、キャピタルマーケットが活況を呈する中、エクイティ管理を行うこうした人々による、クオリティが高く、デジタル対応の税務サービスへの需要が高まっていた。CEO兼共同創設者であるデイビッド・スナイダー氏は、この市場が当時手つかずであることに気づき、独自の「ハーネス・フォー・アドバイザーズ」のプラットフォームでのサービスを開始したと、「テッククランチ」によるインタビューで明らかにしている。

「ハーネス・フォー・アドバイザーズ」は、ソフトウェア、社内コンシェルジュチーム、プロフェッショナルコミュニティのすべてをシームレスに1つにまとめた、インタラクティブで使いやすい、税理士向けの包括的な税務アドバイザリーソリューションプラットフォームだ。提携企業と一緒になって、各顧客にとっての効率的な業務管理を新たに提案し、収益の拡大・収益性の向上をサポート。税務実務を最適化し、成長を促すのが特徴だ。

主な顧客は、美術品、宝石、希少なコインなどの有形資産や、非公開企業の株式といった「複雑な資産」の持ち主や、財政上重要な出来事を抱えていたりする、起業家や事業主、エクイティを保有する従業員、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家、暗号通貨、トークン、非代替性トークンの所有者、複数の州にまたがったり、国を越えた事業体だ。

サービスには、総合的な資産管理、独立型ファイナンシャル・プランニング、代替投資アドバイス、保険の推薦などがある。

また、信託・遺産サービスも行っている。遺産の計画、信託の作成と管理、遺言検認訴訟などを手がけている。

プラットフォームを通して、適切なサービスを提供する企業を選択

顧客は、アカウント登録を行う際にアンケートに答える。ハーネス・ウェルス社は、資産構成、顧客が現在人生のどのステージにいるかの情報、財務目標をもとに財務健全性を判断する。

このプロフィールに基づき、ハーネス・ウェルス社は顧客に税理士、金融会社、不動産会社を各々2~3人/社を紹介する。これらの企業は年次税務申告、包括的税務計画、米国内国歳入庁との争議解決、エクイティプランニング、事業税申告、国際税務管理と申告などのサービスを提供する。

同社は最適な資産管理戦略のために、1分野から1社を選ぶよう推奨している。しかし、どの会社が、自分の財務におけるニーズに最もマッチしているかを知っている顧客自身に選択は任される。

ハーネス・ウェルス社のプラットフォームを利用するのは無料。だが、サービスごとに保有資産の最低額が決まっているので、注意が必要だ。サービス料は、顧客が選択した会社と、顧客の投資可能資産額に応じて違ってくる。

米国人の株式保有率、2023年に2008年以来最高の61%を記録

税務アドバイザリーの分野に進出したハーネス・ウェルネス社が注目を集めるのは、幾つかの理由がある。

その1つに、米国人の株式保有率が2023年に、2008年以来最高の61%を記録したことからもわかるように、投資し、資産を増やそうとしている人が増えていることが挙げられる。

私たちは、2000年代後半から2010年代初頭までのグレートリセッションで、世界市場で大規模な経済的衰退を、また2008年にはリーマンショックを経験している。この間、株式価格は急落し、新規投資家は株式市場への参入を躊躇。ほかの投資家は株式から資金を引き揚げ、ほかの場所に移した。

2013年、2016年には株式保有率は52%と最低の割合に落ち込んだ。株式保有率の低下が10年以上続いたために、潜在的投資家は2022年ごろから株価が回復しているにも関わらず、なかなか株に手を出せずにいた。米国の世論調査・コンサルティングを行うギャラップ社によれば、現在は2008年の水準まで回復しているという。

特に現在の65歳以上のシニア層は、グレートリセッション以前のシニア層と比較して、ベビーブーマー世代を中心に63%と、株式保有率が高い。

現在の61%という割合は、株式が堅実な長期投資であることを証明し、所得の増加で株式投資の手段が増えたために、人々は投資で資産を増やそうとする傾向が出てきている。

移転先は、州の税率次第?

昨年、多くの米国人が高税率の州から低税率の州に移転した。

米国の国際的なリサーチシンクタンクであるタックス・ダウンデーションの記事によると、国勢調査局による2020~2023年の州間の移動データも、北米の設備レンタル会社U-ホール社と、米国の引っ越し・移転会社ユナイテッドバンラインズ社が今年1月に発表した商業データも同様の傾向を示しているそうだ。

U-ホール社ととユナイテッドバンラインズ社の情報は、両社が地理的にカバーしている範囲内で移転が行われたかどうかの影響が出るため、国勢調査局ほど精密なデータではないことは確か。しかし、全体的な移住パターンは似ているという。

どちらのデータでも、人口が減っているのは、カリフォルニア、イリノイ、マサチューセッツ、ニュージャージー州、反対に人口が増えたのが、サウスカロライナ、ノースカロライナ、フロリダ、テネシー、テキサス州だったと見られている。

人々の移動にはさまざまな理由がある。各人の移転理由を明確に把握しているわけではないとしながらも、タックス・ファウンデーションは、優れた税制と人口増加には強い相関関係があると分析する。過去数年において、各州が人口の争奪戦に備え、減税や、所得税の累進課税から単一税率への移行などの税制の改善を行ってきたことを踏まえると、この移動傾向は今後さらに顕著になる可能性があると見られている。

年率8%で成長するオルタナティブ資産市場

© jongorey (CC BY 2.0 Deed)

オルタナティブ投資の世界的なデータプロバイダーであるプレキン社の予測によれば、世界のオルタナティブ資産市場は2022年から2028年の間に年率8%で成長するという。また、オルタナティブ投資の資格プログラムを行うグローバルな専門機関、カイア・アソシエーションによれば、ほんの20年前には、オルタナティブ投資は世界の運用資産の6%にあたる4兆8,000億ドル(約727兆円)を占めるに過ぎず、ヘッジファンドがその多くを占めていたそうだ。

しかし今年、オルタナティブ投資の規模はかつてないほど大きくなり、運用資産は22兆ドル(約3,330兆円)、世界の運用資産の15%に達しているという。

最近のインフレの影響で、さらに高まっている分散投資への需要がオルタナティブ投資への関心を後押ししていると、米国を本拠地とする、世界でも指折りの資産運用会社であるブラックロック社が報告している。昨年の11月発表の「フォーブス」の調査によると、全年齢層で84%の個人がオルタナティブ投資に関心を示しているという。

米国人の株式保有率のアップ、州間を移動しても、税金が高い州から低い州に移る人々、オルタナティブ投資への関心から、ハーネス・ヘルス社の新ビジネスが注目されても不思議はない。

インフレ抑制法で、151億円以上の資産の保有者には25%の課税

米国で2022年に施行されたインフレ抑制法は、「米国史上最大の気候・エネルギーへの投資」として知られる。一方、税金制度をより平等にする法律としても見なされている。

先月初旬、バイデン米大統領は一般教書演説で、富裕層への課税強化を発表している。ホワイトハウスによれば、1億ドル(約151億円)以上の資産がある富裕層に対し、少なくとも25%を課税する。未払いの税金の回収にも力を入れる。米国財務省の推計では、未納の税金は6,000億ドル(約91兆円)に上る。この大部分が、上位5%の高所得層によるものだそうだ。

平均年間利益が10億ドル(約1,500億円)を超える企業には、2022年の時点で、その利益に対して少なくとも15%の税を課すことが定められていた。しかし、先の一般教書演説で、税率を21%に引き上げることが明らかになっている。さらに自社株買いには、1%の物品税が課せられる。

税務アドバイザリーソリューションプラットフォームをビジネスに加えた、ハーネス・ウェルス社。正に満を持して、新ビジネスに乗り出したといえる。富裕層や大企業、さらには資産を持つ一般人の関心が集まるのも納得だ。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

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