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2024年3月20日、米AI企業のAnthoropic(アンソロピック)がAWS(アマゾンウェブサービス)とアクセンチュアと提携したことを同社の公式サイトで発表した。この提携により、医療、公的機関、金融といった規制の厳しい業界を対象に、より安全で業界固有のニーズに応えるカスタムAIの構築と導入支援を行っていく。
対話型AI「Claude」のAnthoropicがAWS、アクセンチュアと提携
今回の3社による提携は、規制の厳しい医療、公的機関、金融といった業界に対して正確性、信頼性、データセキュリティを担保した「安全なカスタム生成AI」の導入を促す狙いがある。
具体的には、アクセンチュアのエンジニアたちはAWS上でAnthoropicのAIモデル「Claude」を使ったトレーニングを受け、顧客にAI戦略のアイデアから実装までをエンドツーエンドでサポートする。そして顧客のデータを使ってAIモデルをカスタマイズし、ニーズに合う仕様にしていく。
さらに、アクセンチュアとAWSのチームは、プロンプトエンジニアリングやプラットフォームエンジニアリングのガイダンスを提供し、AIモデルをAmazon BedrockやAmazon SageMakerに展開するのをサポートする。
Anthoropicの共同創業者で代表のダニエル・アモデイ氏は「私たちの最終的な目標は、このような特殊な分野や業界に対する生成AIテクノロジーとソリューションを提供し、ビジネスをしやすくすること」と語っている。
また、AWSのワールドワイドチャネルおよびアライアンス担当バイスプレジテントのルバ・ボルノ氏も「企業はカスタムモデルを実装することで、その業界や分野固有の課題を解決できるようになり、強力な生成AIシステムを迅速に展開できるようになるだろう」と述べている。
高まる「責任あるAI」の重要性
今回の提携は、高まる「責任あるAI」需要に応えるものでもある。
この1年で多くの企業が「ChatGPT」など生成AIを業務に活用するようになったが、AIの安全性にはいまだ大きな懸念事項がある。New York Timesは2023年12月、OpenAIとマイクロソフトが同社の記事がAIの機械学習に使われたとして、OpenAIに対して著作権侵害を訴えた(OpenAIは「法的根拠がない」と反論している)。
このほかにも生成AI関連の問題や訴訟は多発しており、法律、規制、倫理基準を遵守する「責任あるAI」の需要と重要性が高まっている。
Anthoropic、AWS、アクセンチュアはいずれも「責任あるAI」に積極的に取り組んでおり、アクセンチュアはGPT-4の登場以前から「AI倫理」に関する研究を行っている。
アクセンチュアが2022年6月に発表した調査レポートによると、企業がAIを利用する際の最大の障壁は「ビジネス全体でAIを使うことの複雑さ」だという。事業には複数の個人や企業などのステークホルダーが絡んでくる。データセキュリティやコンテンツ、プライバシーなど「規制が必要な分野」を関連づける必要があるが、すべてにAIを適用させるのは困難だ。
だが今回の3社提携により、「責任あるAI」の実装をシームレスで行える可能性が高まる。対象となる「厳格な規制が必要な業界・企業」は、AI導入への障壁が一気に下がるのではないだろうか。
3社による「高度にカスタマイズされた生成AI」は、ワシントンD.C.の保健局がすでに導入している。「Knowledge Assist」は市民からの健康や保険に関する質問を受けつけ、自然言語で回答するチャットボットだ。正確な健康情報をタイムリーに市民に提供できるため、顧客サービスの向上に役立っているという。
ChatGPT「一強」からの脱却
世界中を席巻し、対話型AIの代名詞となったChatGPTだが、その地位は早くも絶対的なものではなくなってきている。Anthoropicが開発する対話型AI「Claude」は、「GPTよりも高性能かつ安価」と評判だ。
Anthoropicは元OpenAIの幹部らが2021年に立ち上げたスタートアップで、2023年3月にAWSが同社に最大40億ドルの巨額出資をしている。AWSのほか、グーグルからも出資を受けているAnthoropicらは、「OpenAI・マイクロソフト」の強力な対抗馬になりつつある。
Claudeの魅力のひとつは、一度に大量のトークンを処理できることだ。GPT-4は最大3万5,000トークンであるのに対し、Claudeは10万トークンと3倍近くになる。さらに価格も安く、APIコストはGPTの4分の1〜5分の1程度。最近はAnthoropic以外にも安価なモデルが続々と登場していることから、OpenAIは法人営業で苦戦しているとThe Informationは報じている。
Anthoropic、AWS、アクセンチュアの連携により、生成AIの勢力図はどう変わっていくか。1年後はきっと、今とは違う景色が広がっていることだろう。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)