多くのスタートアップがベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達に苦戦する中で、フランスのビジネス向けネオバンク「Qonto(クォント)」が、数億ドルもの潤沢な資金を元手に、会計自動化プラットフォームのRegateを買収するなど、積極的な事業拡大を続けている。

フランス国内にとどまらず、ヨーロッパ各国へ精力的に展開するQonto躍進の背景にあるのが、中小企業向けに「オールインワン」のファイナンス・ソリューションを構築するという明確なビジョンだ。

フランス発のフィンテックユニコーンQontoが、いかにして中小企業の財務管理におけるゲームチェンジャーとなったのか、競合買収を含む事業戦略とともに、その成功の秘訣を探る。

中小企業やフリーランサーの財務管理プラットフォームで急成長

中小企業やフリーランサー向けの財務管理を提供するQonto
Qontoウェブサイトより

2016年にパリで設立されたQontoは、当初、中小企業向けデビットカード付きのオンラインビジネス口座からスタートした。

その後、請求書発行、支払い、支払いの受け取り、経費、キャッシュフロー、簿記の管理など、企業の財務に関するあらゆることを管理できるオンラインアカウントの中小企業やフリーランサーへの提供をスタートし、急成長。

2022年にはドイツの競合企業であるPentaを買収し、ヨーロッパ最大の中小企業銀行市場であるドイツでマーケットを拡大した。その後、スペイン、イタリアにもサービスを拡大し、顧客数はこれまでに45万社に達している。

現在、1,400人以上の従業員を擁する企業となったQontoは、2022年時点で50億ドルと評価されているフランス発フィンテックを代表する企業だ。

融資プラットフォームで、中小企業の財務管理におけるゲームチェンジャーに

イタリアなどフランス国外にも展開 Qonto公式チャンネルより

財務管理ソリューション企業としての地位を確立したQontoが次に目指しているのは、中小企業向け融資プラットフォームの提供だ。2023年に、Qontoは欧州の4つの市場全てで融資プラットフォームを開始し、過去1年間で約8,000のプロジェクトに総額約6,000万ユーロの融資を行った。

欧州委員会によると、資金調達へのアクセスは欧州の中小企業が直面する主要な課題の1つであり、2023年には中小企業の21%が資金調達の問題を、事業の主な課題であると報告している。

Qontoは、この高まる中小企業融資のニーズに対応し、より多くの融資オプションを提供するため、今年に入って、「Pay Later」と名付けられたサービスをローンチした。これは、2025年末までに欧州の中小企業やフリーランサーの顧客数100万を目指すというQontoの野望の新たな一歩となる。

社内ファイナンス ソリューション「Pay Later」

Pay Later は、対象となる顧客がQontoアプリから直接最大10,000ユーロの資金に即座にアクセスできるようにする短期融資サービスだ。金利は1.17%/月で、返済期間は請求書の購入後30日から始まり、30日、60日、90日の3回の分割払いで自動的にスケジュールされ、各期日にQontoのメイン口座から直接引き落しされる。

このPay Laterと、既存のパートナー企業による融資オプションによって、Qontoの顧客は、最大1,000万ユーロの包括的な融資ソリューションにアクセスできるようになった。

ドイツの競合Pentaに続き、フランスの競合Regateを買収

仏競合企業のRegate買収により会計事務所などとの連携をスムーズに
Regate ウェブサイトより

Qontoが、2022年に4億8,600万ユーロもの大型資金調達に成功し、ドイツの競合Pentaを買収、フランス国外への事業拡大の足がかりとしたことにはすでに触れたが、同社はさらに競合の買収による事業拡大を目指しているようだ。

今年に入って、Qontoは、フランスのフィンテック企業であり、会計自動化のSaaSを提供するRegateを買収し、自社の既存のアプリにRegateの金融ツールと会計事務所専用ツールを統合するという計画を発表した。

これによって、会計ソフトと連携した入金の追跡、支払いのスケジューリング、請求書や領収書発行や整理、買掛金・売掛金管理といった会計自動化機能がさらに強化されることが期待されている。

中小企業、フリーランスから会計事務所へと市場を拡大

このQontoによるRegateの買収により、Regateの従業員およそ100名全員が、Qontoの現在のスタッフ1,400名に加わり、会計士向けの財務ツールに焦点を当てたサービスの開発を行う新しいチームとなる。

RegateはQontoの2つのプラットフォームの一体化は、今後徐々に段階を踏んで行われる予定とのことだ。

プレスリリースによると、Regateのプラットフォームは1万社の中小企業と500社の会計事務所で利用されており、これらの顧客が45万社のQontoの顧客に加わることとなる。

多額の資金調達で買収、雇用に豊富な資金を投入

Qontoの共同創設者兼CEOのAlexandre Prot氏はTechCrunchのインタビューで、Qontoの躍進の背景として、2年前の資金調達をあげている。

「タイミングが正しくて、少し幸運だった」と、彼が語るこの2022年の4億8,600万ユーロの大型資金調達は、ドイツの競合Pentaの買収へと投入され、結果、Qontoはドイツやイタリアへと、大きく市場を拡大した。

続いて行われた今年のRegateの買収に加え、同社は、今後数カ月以内に数百人規模の人材を雇用し、マーケティングに大規模な投資を行う予定だとの計画を示している。

有料サービス特化で収益増加を目指す

ワンストップソリューションをアピールするQonto Qonto公式チャンネルより/figcaption>

また、QontoCEOのProt氏は、同社のビジネスモデルが「健全」であることをアピールする。

まずは無料サービスを提供して、顧客にアップセル(顧客が購入したその商品と同種でより上位のものを購入してもらうこと)を試みるスタートアップが多い中、Qontoはあえて有料サービスに特化し、顧客獲得が収益に短期間でつながるという路線を採っている。

過去2年で利益率を大幅に改善しているQontoは、「コスト削減ではなく収益増加」という方針を明確に打ち出して、2025年までに黒字達成し、欧州の100万人の中小企業やフリーランサーにとって選ばれる金融ソリューションとなることを宣言している。

文:大津陽子
編集:岡徳之
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